第34話 ベストセラー作家

 ヘルピーからの刺激的なご褒美の提案を受けながらも、サクラとも良い雰囲気になっていたが、空気を読まない騎士団の副団長が俺達に向かって歩いてきた。


「サクラ。お客様がお見えだ」

「レオニラン公国には碌な人材がいないのかしら」


 大丈夫だサクラ。

 今日は俺もやる気MAXだ。

 カロリーバーの力を借りなくても頑張れる気がしているぞ。


「約束の時間を過ぎているようだけど。今更何か私達に話があるのかしら?」

「私は、レオニラン公国第三騎士団副騎士団長ザクス・マクファーソン。先ずは、騎士団として謝罪を。貴女達に不快な思いをさせたことを、レオニラン公国第三騎士団としてお詫び申し上げる」

「謝罪なんて不要よ。それに貴方は何も判っていない。全てが間違っているわ」


 謝罪を拒否され、全否定された副団長が困惑の顔をする。

 何故不思議そうな顔をして驚いているのかが俺には判らないが。


 だって、副団長は国王である俺ではなく、王妃のサクラに謝罪しているのだ。

 謝る相手がそもそも違う。

 そして、サクラがぶち切れた後も、俺のことは放置だ。


「とても不思議そうな顔をしているけれど、まあ、それはどうでも良いわ。貴方も謝罪のためだけに此処に来たのではないのでしょ?」

「はい。非常に申し上げにくいのですが、わずか一時間だけでは国としての回答が出来かねますので、時間的猶予を頂きたく参上いたしました」


 そこまで申し訳なさそうな表情で……。ではなく、さも当然かのように副団長はゼロ回答を申し入れてきた。


「だそうよ。カミーユ国王」

「じゃあ、戦争だな。今からサクッとやっちゃおう」


 当然即答です。

 俺も此処まで馬鹿にされて許すはずが無い。

 此処で許せばエデンを、サクラをあなどられる。

 それは絶対に許してはならない。


「ですってよ。副団長さん」


 副団長さん、固まっているよ。

 予想外の言葉が返ってきたのだろう。


「し、しかし。念のために申し上げますが、我々は全軍を配置可能です。しかし、貴女達はたったの二人です。流石にその言葉を信じろと言われましても、報告が……」

 

「俺達の心配よりも、君の心配をした方が良い。本当に君は上に報告をしているのか? 俺の名前と役職を言えるか? ドッグタグも確認していないだろ? 君の判断で国が滅びるぞ」


 副団長は正確な報告をあげられるはずが無い。

 俺は未だにドッグタグの確認すらされていないのだから、俺の名前すら知らないはずだ。

 サクラの話だと、サクラも同じ状況なはずだ。


 今の俺は心が広い。

 少しだけ待ってやろう。


「騎士団長を排除した褒美として、回答期限に猶予を与えよう。回答期限は……。明朝、日の出から二時間後だ。それ以上は待たん。サクラも堪えてくれ」

「カミーユがそう決めたなら私に否は無いわ」


 頬をプクッと膨らませ、やや不満な顔をしながらもサクラは納得してくれた。


「君はどうだ?」

「……」

「ドッグタグを未だに確認しない君に伝えておこう。俺の名前はカミーユ・ファス・ドゥラ・エデン。隣の美女は俺の妻サクラ・ファス・ドゥセ・エデンだ」


 思わず美女って言ってしまった。恥ずかしい。

 サクラも……。否。サクラは満更でもない表情だ。


「名前の意味は判るな? 話は以上だ」


 もう君達に用事は無い。

 驚こうが、騒ごうが、何をしても関係ない。

 そもそも、チャンスをもう一度あげるのだ。文句は言わせない。


「じゃあ、サクラ。今夜の家を作ろう」

「マットレスだけでも欲しかったわね」

「マットレス無し生活も今日が最後だ。良い思い出を作ろう」

「もう……。恥ずかしい……」


 おや? サクラさん。何を想像したのかな?

 俺は『良い思い出を作ろう』と言っただけだから。


「豪華な見た目にして驚かせてあげようか」

「それ良いわね。どんな感じにするかテーブルで確認出来るサイズで作ってみてよ」

「了解。神殿風にするか、宮殿風にするか、お城風にするか……」


 良し、今回は東京にある迎賓館を参考に見た目重視で作ろう。


(ヘルピー。画像表示出来る?)

【問題ありません。表示します】


 流石ヘルピー。

 彼女は超有能アシスタントだったことを忘れていたよ。


 しかし、デカいな。

 テーブルサイズは直ぐ出来るが、実物は簡単には作れそうに無い。

 調子に乗りすぎていたようだ。


「こんな感じなんだけど……」

「素敵……。こんな素敵な建物見たことが無いわ。流石にカミーユね」

「サクラ。この建物目茶苦茶大きいんだ。これを作るのは……」

「マットレス無し生活最後の思い出のためにこんなに素敵な建物まで用意してくれるなんて……」


 ヤバイ。目がキラキラして、感動のあまり涙ぐんでいる。

 今更出来ない何て言えない状況になっている。


【マスター。今回だけは特別に私が手伝います。マスターは魔力を放出してください】

(ありがとうヘルピー。助かるよ)

【貸し一つです。あぁ。ゾクゾクします】


 ヘルピーさん。一体俺に何をしようとしているのか。

 怖くて聞けない。

 しかし、ヘルピーが手を貸すとまで言っているのだ、作るしか無い。


(じゃあヘルピー。魔力を放出する。頼んだぞ)


 ヘルピーに脳内で声を掛け、両手を突き出し魔力を放出していく。

 徐々に迎賓館が出来上がっていく。


 十分後、迎賓館は完成していた。

 ヘルピーの実力をまざまざと見せつけられた。

 今の俺には出来ない芸当だ。もっと精進しないと。


「……。すっ、凄い……」

 サクラもびっくり仰天だ。

 流石はヘルピー。


「早速入るか」


 中に入って驚いた。

 恐らく電気以外は完全に再現されているのだろう。実際に見学したことが無いので判らないが……。

 何故か絨毯も敷いてあるし、シャンデリアも絵画も。

 ベッドには、マットレスがあった。


「あー。サクラ……。調子に乗ってマットレスまで再現してしまった」

「そのような些事気にしません。しかし、日本は凄いのですね……」


 それからしばらくの間は、見学会をとなった。

 俺も初めて見るから感動した。


 夜は……。

 凄かった。

 激しかった。


 カロリーバーは美味かった。


 察してくれ。

 サクラは感動していたのだ。

 嬉しさのあまり、少しだけはしゃいだだけさ。


 朝食はサクラが腕によりを掛けて肉を焼いてくれた。

 

「相変わらずサクラの料理は美味しいな。サクラは天才だ」

「はい。ハイエルフですから」


 サクラの笑顔が眩しい。

 朝日も眩しい。


【やはりサクラは素晴らしいですね。報告書の作成にも力が入ります。天界では私の報告書は大人気で、今やベストセラー作家となっています。色々捗っています】     

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