第33話 ぼっち 止めました

 サクラの怒りが爆発してしまった。

「エデン王妃である、サクラ・ファス・ドゥセ・エデンとして伝えます。今から一時間以内に然るべき対応を取らない場合、宣戦布告と見做します」

 そんな事を聞いた騎士達は大慌てだ。


 それはそうだろう。

 自分達のせいで戦争が始まるかも知れないのだ。


 おかげで騎士団長のヤンセンさんを見切った騎士達は慌ただしく動き出した。

 急いで王城へ報告をしているのだろう。

 騎士団で結論なんて出せる訳が無いからね。


「なあ。外は大騒ぎなんだけど、俺は何時までこのままなんだ? 一応当事者なんだけど」


 そう。俺は放置されていた。

 見張りの騎士二人も同じように放置されていた。


「すみません。我々も動くに動けないのです。恐らく副団長が指揮を執られていると思いますが、流石にこの場を離れるのは出来ないので。申し訳ありませんが、ご理解ください」


 何を理解すれば良いのか判らないが、彼らも困惑している事だけは判った。


「一応伝えておくが、然るべき対応には俺への対応も含まれている事を忘れないようにな」


 含まれているはずだ。

 含まれていない訳が無い。

 含まれてあって欲しい。


 取りあえず熊どんには伝えておこう。


「おーい。熊ど~~~ん。みんなを連れて急いで来てくれ~~~」


 突然俺が大声をあげたから騎士達はびっくりしている。

 俺も想像以上に声が出て驚いている。


 熊どんに聞こえたかな?

 声が届かなくても、気持ちは届いただろう。

 俺と熊どんの絆は凄い……。はず。


 そして、俺が大声で叫んでから十五分は経過した。

 おかしいな? 俺がまだ牢屋に居るって先程の大声で判ったと思うのだが……。


 大丈夫。日本に居るときはこれが普通だった。

 誰からも興味を示されず、常に一人で過ごしてきた。

 起きてから寝るまで誰とも話さない事なんてざらにあった。


 きっと今の生活が異常であって、そのうち正常に戻る。

 サクラが居なければ、魔獣しか居ない。

 ヘルピーとの会話も脳内彼女と話しているに過ぎない。


 きっとサクラはレオニラン公国から接待されて、俺は捨てられる。

 俺みたいな人間が人から好意を寄せられる方が異常なのだ。

 少し浮かれて幻想をを現実と勘違いしていたのだ。


 元に戻るだけ。

 何も変わらない。

 俺は一人で生きていく。


 ルシアナさんに頬を打たれたときに決めたはずだ。


「カミーユ」

「……。サクラ?」

「どうしたの? カミーユ」


 目の前にはサクラが居る。

 銀髪翠眼で百人に聞けば百人が美人と答えるサクラが居る。


 あぁ。俺は一人ではなかった。

 サクラもヘルピーもクレティアも、熊どん達も居るのだ。


「どうして泣いてるの?」

「ああ。サクラの顔を見たら安心してな」

「本当にそうなの? この人達がカミーユに何かしたんじゃないの?」


 そう言ってサクラは二人の騎士を睨み付ける。

 騎士くん達は、フルフルと大きく首を振って必死にそれを否定している。


「サクラ。彼らは何もしていな」

「本当に? カミーユがそう言うのであれば構わないけど……」


 そう言うサクラは納得していない顔をしている。


「ところでカミーユ。何時までそこに居るの? 速く出てきてちょうだいよ」

「出て良いのか? 誰か迎えに来るまで此処に居た方が良いと思って待機してたよ」


 サクラも色々と考えているだろう。

 俺の無計画な行動がサクラの計画を破綻させてはいけないと思っていた。

 おかげで寂しさのあまりネガティブになってしまった。


 サクラの許可も出た事だし、鉄格子を土魔法で分解して外に出た。

 出た後は元に戻しておいた。

 後から弁償しろ言われても面倒だからね。


 騎士くん達は驚きのあまり固まっている。


「そろそろ約束の時間になるのよ。何かしらの回答があるはずだから、国王である貴方が居ないとね」

「こういった事はサクラの方が得意だと思うんだよね」

「最終決定はカミーユだからね。頼りにしてるわよ、旦那様」


 騎士くん達の前でイチャついてしまった。

 羨ましいだろ?


「そう言えばサクラ。彼ら二人には『居場所がなくなったらエデンで面倒見てやる』って言ったから。一応顔は覚えておいてくれ」

「そうなの? まあ、一応覚えておくわ」


 これで大丈夫。

 俺が忘れてしまっても、サクラが覚えているだろう。


 そのまま建物を出て城門の前へ移動する。

 荷車は無事なようだ。


「サクラ。荷物は無事か? あの団長なら何かしでかしている可能性がある」

「大丈夫よ。私が死守したから。ずっと私が見張っていたのよ」

「流石サクラだ。魔獣はともかく、クレティアローズに何かあったら暴れるところだった」


「しかし、人が増えてるな。少し離れて待機しておくか」

「そうね。百メートルくらい離れて、待機しましょうか」


 少し離れて待つ事をそこに居た騎士に告げ、城壁を後にする。

 一応簡単な東屋を作って、そこで寛いで待つ事にした。


「カミーユは私と別れた後何を聞かれたの?」

「俺は何も聞かれていない。と言うか、誰も来なかったな」

「それは……。凄いわね」


 確かに凄いと思う。

 誰にも相手にされない国王というのも前代未聞だろう。


「サクラはどうだった? あれだけ怒っていたから随分な扱いだったんだろ?」

「あの団長が最悪だったわよ」

「変な事言われたり、身体を触られたりしなかったか? それはもう、心配しかしていなかったんだ」


 今まで女性に縁が全く無かったから、俺は独占欲が強いみたいだ。

 クレティアもヘルピーもそうだが、一緒に暮らしているサクラには特にその感情が強い。


「流石にそこまではされなかったわよ。ルシアナ信奉者だったわね。『ルシアナ様の容姿を偽装する不届き者』『ルシアナ様の身体を奪った悪魔』とか言われたけど、想定内だったから問題じゃなかったわ」


 流石にサクラだ。

 この状況も想定内だったようだ。

 ルシアナとして最後に立ち寄った街だから、想定していない方が問題だったな。


「結局、『お前は誰だ』『どこから来た』『エデンという国など知らない』『本当の目的は何だ』の繰り返し。周りの騎士達も呆れていたわよ。此処まで我慢した私を褒めて欲しいわ」

「大変だったなサクラ。流石に俺の自慢の奥さんだ」

「もっと褒めて。私カミーユが居なくて寂しかったんだから。沢山褒めて、沢山慰めてね」


 うん。今日は頑張ってしまおう。

 カミーユのカミーユが張り切ってしまおう。


【マスターは特に何もしていませんでしたので、私から特別に、お仕置きという名のご褒美をあげます】


 ヘルピー。

 癖になりそうだから、勘弁してください。   

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