第29話 初めての(最後の?)スローライフ
「サクラ。そろそろ熊どん達に指示を出さないと」
「そうですね。じゃあ、最後にもう一度」
恐ろしい。
何がって?
察してくれ。
「カミーユ。早速準備を進めていきましょう」
つやつやと輝く肌が眩しい。
そして切り替えが早い。
キビキビ働くサクラも美しいぞ。
俺もしっかり働こう。
「じゃあ熊どん。鉱石を見つけたら教えてくれ。エデンの未来は君達にかかっている。頼んだぞ」
「グアゥ」
早速熊どんを呼んで指示を出した。
さすが俺だ、仕事が速い。
次の仕事に取りかかろう。
んっ?
あれ?
仕事が無い。
(ヘルピー。俺の仕事が無い気がする)
【そうですね。他は全てサクラが準備しています。ドシッと構えておきましょう】
サクラの邪魔をしないように、クレティアローズの練習をしておこう。
土魔法の練習にもなるからね。
「カミーユ。そこにいたのですか」
サクラが小走りでやってくる。
サクラには大きめな村人の服だが、彼女が着るとオシャレに見える。
揺れる銀髪がキラキラと輝き、クレティアローズの髪飾りが彩りを添えている。
「サクラ。本当に君は美しくて可愛い。見惚れてしまったよ」
「もうっ。カミーユ。はっ、恥ずかしい……」
頬を染めてモジモジとするサクラ。
以前はよく見ていた光景だったが、久しぶりに見た。
良かった。サクラはやはりサクラだった。
「それで、どうしたんだ?」
「家の設計が出来たから……。カミーユ。そのクレティアローズ……。欲しい」
「練習のために土で作ったやつだぞ?」
「でも、カミーユが初めて作ったクレティアローズでしょ?」
「まあ、そうだが……」
「カミーユの初めては、全部私が欲しいの」
可愛い事を言ってくれる。
「じゃあ、あの家も残しておこう。俺が初めて作った家で、サクラとの初めてが詰まった家だ」
「そこに貴方の初めてを沢山飾りましょ」
これが青春というやつか。
悪くない。
初めての青春もサクラと一緒だ。
【私はマスターのカミーユを初めて踏み抜く事を望みます】
それは、あげない。
誰にもあげない。
「家の設計だったな。楽しみだな」
「クレティア様の部屋もあるのよ。寝室からは世界樹が見えるように……」
設計図を見ながら、『ここには棚が欲しい』『この窓は出窓にしたい』とか、意見が合ったり合わなかったり。
そんな他愛の無い会話が心を暖かくする。
これがスローライフ。
しかもイチャラブ付き。
異世界最高!
しかし、足りない物が多すぎるのも事実。
より充実したスローライフの実現を目指さないとな。
先ずは世界樹を中心にして家を作り、神殿を造る。
調理道具や衣服、その他生活に必要な物を買い揃える予定。
現状よりもかなり充実した生活が送れるだろう。
その後の事はどうする?
俺はクレティアへの信仰心を高める必要がある。
そして創造と終焉の神からの強制クエストもある。
エデンに引きこもっての生活は無理な事は判っている。
サクラは俺に付いてくるだろう。
その間、エデンの管理はどうする?
管理をしてくれる人がいたとして、その人はどうやってここで生活する?
行商人は来てくれるだろうか。
「なあ、サクラ」
「何ですか?」
「商人はここまで来てくれるかな?」
「まぁ、普通は来ないでしょうね。と言うか、来れないでしょうね」
「そうだよな。普通の人はエデンの森に入ったら死ぬもんな」
「カミーユはエデンを留守にする間の事を心配しているんでしょ?」
さすがサクラ。
俺の考えはお見通しだな。
ハイエルフだからだろう。
「そうだな。サクラも一緒に来るだろ? その間誰かエデンを管理する人がいないとな」
「そこに関しては私も色々考えてたのよ。貴方はこの世界の事判らないだろうから」
そうなのだよ。
俺はエルトガドについて全く知らない。
この森の事とサクラの事しか知らない。
「私に任せて。完璧な計画があるから」
「さすがサクラ。早速その計画を聞かせてくれ」
「エデンを観光地にします。以上です」
シンプル イズ ベスト。
判るぞサクラ。
観光地にすれば人が集まりお金が落ちる。
観光業は儲かる。
「街に着いたら、総合ギルドと話し合いましょう」
サクラの中では既に未来が見えているのね。
俺には見えない未来が。
「うん。そうしよう。サクラが考えた事だ間違いないだろう」
「当然です。ハイエルフですから」
やはり理由はハイエルフ。
しかし、数々の実績に裏打ちされたハイエルフへの信頼は厚い。
「基本的にはクレティア様の大神殿がメインですね。計画と設計はもう少しで完成します。カミーユはドンッと構えておいてください。カミーユの力も必要になりますので、その時はお願いします」
おや?
神殿が大神殿になっている。
計画と設計の具体的な説明は無いのね。
大丈夫。
計画段階で未着手の案件だ。
白紙撤回も可能な状況。
念のためヘルピーへも確認しておこう。
(ヘルピー。問題無いかな?)
【マスターは引き寄せの力によってトラブルからは逃げられません。一つ二つ増えようと、それは誤差です。サクラの機嫌を損なうより安全かと思われます】
問題はあるのね。
そして、サクラの機嫌は爆弾なのですね。
(ヘルピーは第二夫人としてそれで良いの?)
【問題ありません。仲良く営んで頂いた方が、クレティア様も私も捗ります】
クレティアを捗らせているのはヘルピーだろ?
今度報告書を見せてほしいと思います。
「私は計画と設計を仕上げますから、カミーユはクレティアローズをしっかり作っておいてくださいね。ほら、熊どんが沢山鉱石を持ってきましたよ」
熊どんから鉱石を貰った。
色とりどりのクリスタルに、金、銀、プラチナ? ミスリル? が少々。
早速クレティアローズの試作品を作ってみよう。
それから一週間のんびりと準備を進めた。
家も新しく造ったし、クレティアローズの装飾品も各種準備した。
露天風呂を作ってまったりしたし、魔獣達とも沢山遊んだ。
サクラは相変わらずパワフルに求めてきた。
それもスローライフの一部だ。
今はこの幸せを噛みしめながら異世界を楽しもう。
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