第3章 レオニラン公国

第30話 執念のカロリーバー

 のんびりと忙しく出発の準備をあれこれとしていたら、あっという間に時間が過ぎていった。

 ようやくエルトガドへ転生してから初めてのお出かけが出来る状態になった。

 

「という訳で、サクラ。出発前の最終確認だ」

「どういう訳かは判りませんが、最終確認ですね」


 さすがサクラだ。

 理解は出来なくても、きちんと同意してくれる。


「では、今回の計画を教えてくれ」


 計画はサクラが全て行った。

 俺は何も知らない。

 クレティアローズを売ってお金を作る事は知っている。

 クレティアローズは俺が作ったからね。


「では、僭越ながら、今回の新婚旅行兼研修旅行兼爆買いツアーについて発表します」


 兼が多い件。

 新婚旅行は判るが、研修旅行?

 そして、爆買いするのね。


「今回私達が向かう先は、レオニラン公国です。大きな街が一つの国という認識で問題無いでしょう」


 公国という事は、貴族が治める国という事か。


「独立する前は、センドラド王国レオニラン辺境伯領でした。千年ほど前に独立しました。現在レオニラン公国とセンドラド王国は同盟を結んでおり、とても平和な街です」


 平和な街。

 新婚旅行にもってこいだな。

 爆買い出来るほど街も発展していると言う事だろう。


「エデンから近くて一番発展している街ですので、センドラド王国を最初の訪問先として選定しました」

「サクラもレオニラン公国の事を知ってるのか?」

「私がルシアナとして最後に逗留した街です。森は入る前の最終確認や準備がありましたから、一ヶ月ほど滞在していました」


 おっと。これは要注意ポイントだな。

 世界樹への生贄が生きていると知れたら大事になりそうな気がする。


「サクラ。君が生きていると知られると問題になるのでは?」


「大丈夫です。ドッグタグを確認しましたが、私の名前はサクラになっていましたから。もし何か言われても他人の空似と言えば良いのです。それでも何か言われたら国ごと始末してしまえば大丈夫です。大した問題ではありませんね」


 はい。大した問題です。

 国ごと始末するとか……。

 その発想が問題です。


「まあ、そうならないように俺も気を付けよう」


 何に気を付けて良いのかは判らないが。


「そこで魔獣とクレティアローズを売って爆買いする。で良いな」

「そうですね。先ず入国する際に入国税が必要です。衛兵に事情を説明して冒険者ギルドまで同行して貰い、魔獣を換金します」


 それは俺も想定していた。

 前回サクラと出会わなければそのまま街に行って同じ事をしようとしていたからな。


「もし、魔獣が売れなかった場合は、総合ギルドへ行き、クレティアローズを売ります」

「完璧な計画だな。さすがはサクラ。計画に穴も無ければ無駄も無い」


 釣った魚にも十分な餌を与える。

 いつでも何処でも些細な事でも褒めていく。

 夫婦円満の秘訣。


「はい。ハイエルフですから」


 俺は最近ようやく気付いたのだ。

 サクラの『はい。ハイエルフですから』は嬉しい時に口にすると。

 いつでもこの台詞を聞けるようにする事が最重要ミッションだ。


「換金した後は、街で爆買いをするんだな?」

「街を巡りながらお勧めの宿を聞き、先ず宿を押さえます。その後ギルドへの登録や教会へ訪問します。教会を運営しているエルフとは面識があります。彼女は信頼の置けるエルフですから、エデンに引き抜いても良いと考えています」


 既に人材の当てもあるとは素晴らしい。


「クレティアローズの販売ですが、総合ギルドも巻き込む予定ですが、その辺の交渉ごとは私に任せてださい」

「そうだな。日本の常識は通用しないだろうから、勉強がてら同席させて貰うよ。サクラの凜々しい姿が見られるんだな。楽しみだ」


「もう、恥ずかしい……」


 照れている姿も可愛いぞ。

 以前のように、モジモジの照れ照れを増やしていこう。


「爆買いした物はどうやって運ぶんだ? かなりの量になると思うけど」

「実は総合ギルドには配送サービスがあるんですよ。購入した物品は一度総合ギルドに預けて、纏めて運んで貰います。お金を積めばエデンまで運んでくれるでしょう」

「日本にも同じようなサービスがあったぞ。エルトガドは思っていた以上に発展しているようだな」


「その辺りの確認も公国でして貰いたいと思っています。日本の文化やサービスをクレティア様の名前で実現すれば、信仰心も高まる事でしょう」


「完璧が過ぎるぞサクラ」

「はい。ハイエルフですから」


 少しだけイチャイチャしてしまいました。

 だって、新婚だもの。


【私も早く、クレティア様から頂いたハイヒールでマスターとイチャイチャしたいです】


 違うヘルピー。

 それはイチャイチャとは言わないのだ。


「森から公国までの道は整備されているのか?」

「されていません。森では道を造りながら進んで、公国までの道は、帰りに造りましょう。勝手に街道を作ったら、問題になる可能性があります。公国に入るまではなるべく問題は起きないようにしましょう」


「判った。基本的に問題は起こさないに限る。その方針で行こう」


「それで、持って行く物だが、クレティアローズは判るのだが、その水筒と食料は何だ? 初めて見るのだが」


「水筒はエリクサーです。私の治癒魔法もありますが、何が起こるか判りませんので、念のための保険です。当然人前では使用しませんし、目に付かないようにしますので安心してください」


「まあ、誰かに聞かれたら水とでも行っておけば良いか?」

「いざとなれば、捨ててしまえば良いので。エリクサーはいつでも作れますから」


 まあ、作るのは俺なのだけれどね。


「そっちの食料は? 見た感じ非常食っぽいけど」

「カロリーバーですね」

「えっ?」

「エリクサーが主原料ですが、魔獣達にも協力して貰って何とか再現出来ました。新婚旅行ですから、必須ですね」


(ヘルピー。これって本当にカロリーバー?)

【どうやらそのようですね】

(あれって神界で作るやつじゃ無いの?)

【神界以外で作られた記録はありませんが、さすがサクラです。クレティア様への報告が捗ります】


「サクラ。凄いな……」

「はい。ハイエルフですから」


 で、ですよね~。

 防音重視で宿を選ぼう。

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