第27話 イメージと違いすぎる

 視界が暗転したと思ったら、現実に戻ってきていた。

 先程までクレティアのホテルにいたのだが、幻だったのだろうか。


「現実だったんだな……」


 手に包まれている薔薇の髪飾りを見て理解した。


 慌ててねぐらを出ると、神秘的な光景が目に映る。

 世界樹の実が輝いている。

 満天の星よりも美しく幻想的な光景。


「凄いな……」


 圧倒的な光景に時間を忘れ見入ってしまう。


【マスター。呆けている場合ではありませんよ】


 ヘルピーの言葉で我に返る。

 そうだ。急いでサクラの元へ。


(ヘルピー。俺のカミーユってさ……。その、逞しすぎると思うのよ)

【いえ、全てが揃った素晴らしいモノかと。さすがクレティア様です。伊達に拗らせていません】


 何処が素晴らしいのだエロザベス。

 クレティアも拗らせすぎだ。

 大きければ全て良しでは無いのだよ。

 モノには適切なサイズがあると思うのだよ。 


(いたせるのかな?)

【これは、クレティア様からの試練です。試練を乗り越えて初めてマスターの妻になれるのです】


 頭おかしいの?

 下手したら傷害事件に発展するぞ。


 まあ、考えても仕方ない。

 試練は二人で乗り越えよう。


 玄関ドアの前に立つ。

 鼓動が激しい。


「すう~。はぁ~」


 深呼吸をしドアをノックする。


「サクラ。俺だ。入って良いか?」

「あっ。はい。カミーユさん。どうぞ」


 ドアを開けるとサクラさんが出迎えてくれた。

 目を腫らし、頬には涙が伝った跡が残る。


「すまない。待たせてしまったな」

「いえ。こうして来て頂けました。嬉しいです」


 そう言って俺の胸に身体を寄せて来る。

 そっと抱きしめる。


 俺と身長が十センチほどしか違わないのに、驚くほど小さく華奢に感じる。


 守ってあげたい。

 否、俺はサクラを守る。


 そんな思いが心に広がっていく。


 見つめ合い、自然と唇が重なり幸せが溢れてくる。


 お姫様抱っこで優しくベッドへ移動し、身体を重ねた。


 心配は無用だった。

 いたせました。


「サクラ。俺のモノはあれだ……」

「問題ありません。ハイエルフですから」


 問題無い理由は相変わらずハイエルフらしい。

 とにかく、何も問題無かった。


「あぁ。私は幸せです……」

「俺もだよサクラ。これから二人でもっと幸せになろう」

「はい。私の旦那様……」


 歯が浮くようなピロートークも完璧にこなす。

 そう。俺はやれば出来る子。


「そうだ、君に見せたい景色があるんだ」


 再びサクラをお姫様抱っこして世界樹の元へ連れて行く。

 スッポンポンでブラブラさせながら。

 サクラはポワンポワンさせながら。


 俺が見せたかったのは世界樹の輝き。

 今のシチュエーションにぴったり。ロマンチック。

 裸では無ければね。


「凄い……」


 目の前の光景に目を輝かせ、感動している。


「この世界全体が俺たちを祝福してくれている」

「本当にそう思ってしまいます」

「サクラ。改めて言てくれ」


「サクラ。君と共に人生を歩みたい。これからもずっと俺の隣にいて欲しい」

「はい。私をカミーユさんの隣にいさせて下さい」


 幸せだ。

 俺は今幸せだ。

 異世界に来て本当に良かった。

 クレティアありがとう。

 ヘルピーもありがとう。


「サクラ。クレティアから君への贈り物だ」


 俺はクレティアから預かった薔薇の髪飾りをサクラへ渡した。


「クレティア様から私に?」

「ああ。サクラを俺の妻として認めた証しとして、クレティアが作ってくれた」

「クレティア様が直接……」

「受け取ってくれるか?」

「勿論です」


「クレティア様。私は貴方の使徒カミーユの妻として、カミーユと共に使命を果たす事をお誓いいたします」


 何と素晴らしい光景だろうか。

 何と感動的な光景だろうか。

 裸で無ければ。


「カミーユさん。この髪飾り、私に付けて頂いても?」

「勿論だよ」


 ヤバイ。

 付け方が判らない。


 冷や汗をかきながらヘルピーの助けを借りつつ、この難関ミッションをこなした。


「サクラ。凄く似合っているよ。この世に君以上に美しい存在はいない」

「あっ、ありがとうございます。カミーユさんも世界一の殿方です」


 そのまま、二回戦に突入した。

 世界樹が揺れるほど。


 ベッドに移動し、更に身体を重ねた。


「サクラ……。そろそろ……」

「何を言っているの? まだまだですよ。ほら、カロリーバー食べて回復して下さい。私を幸せにするという言葉は偽りだったのですか?」

「そ、そ、そんな事は無いぞ。俺はサクラを必ず幸せにする」

「では、続きを……。ほら、早く」


 三日三晩。

 休みなく。

 休憩無しで。


「きっ、君は問題無いのか?」

「はい。ハイエルフですから」


 違う。

 全てがイメージと違う。

 俺が抱いていた新婚初夜はこんなに激しく無い。


 お互い恥じらい合いながら、幸せを噛みしめる。

 初夜ってそういう感じでは無いの?


 三日三晩。

 飲まず食わずで襲われる新郎。

 カロリーバーで常に体力を回復され、搾り取られる新郎。


 ハイエルフが実はサキュバスだった件。


 しかも、エロザベスの監視付き。

 駄目でしょ!

 覗きは駄目でしょ!


【これは覗きとは言いません。覗きとはこっそりと行うものです。私は堂々とかぶりつきで、メモを取りながら見ています。覗きの定義とは違います】


 メモを取ってどうするのよ。

 貴女は仮にも俺の第二夫人でしょ?

 他の女性といたしているところ見ちゃ駄目でしょ!


【夫が他の女性と目の前で営む光景を見せつけられる。大好物です。捗ります】


 何が捗るのだ、何が。


【これは、クレティア様への報告にも力が入ります。今回は小説仕立てにします。クレティア様も捗るでしょう】


 クレティアも何が捗ると言うのだ。


「カミーユさん。クレティア様がこの光景を見守ってくれていると思うと……。あぁ。たまりません」


 サクラも!


 あれ?

 おかしいな。

 死んだはずの祖父母が川の向こうに見える。

     

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