第26話 愛に包まれている

「エロザベス」

「はあぁ?」


 ドスが効き過ぎていると思います。

 カミーユのカミーユが翔太くんに戻りました。

 物理的に縮み上がる事ってあるのですね。


「因みにマスター」

「はっ、はい! ヘルピーさん」

「私はマスターの第二夫人です。くれぐれもお忘れ無く」

「えっ。ええぇぇぇ」

「何かご不満でも?」


 こ、怖えぇぇ。


「こっ、光栄です。女王様」

「はあぁぁあ? 踏まれたいのですか?」


 あっ。はい。

 いや違う。危ないぞ俺。しっかりしろ。

 それからエロザベス。女王様は命令するのだよ。

 丁寧語は不要だ。


「ほら二人とも。私の前でそんなにイチャイチャしないの。本当に仲が良いのね」


 違うぞクレティア。

 俺は脅されたのだ。

 エロザベスとイチャついた事など一度も無い。


「ところでヘルピー」

「はい、マスター」

「俺はいつサクラにプロポーズをしたんだ? 全く記憶に無いのだが」

「朝食の時からつい先程まで、それはもう熱烈に、情熱的に求愛されていました。あそこまで熱烈に求愛されて否と言う女性はいないでしょう」


 おかしいな。記憶にございません。

 もしかしたら政治家の『記憶にございません』は事実なのかもしれない。


「私が外見いじってるから見た目は完璧よ。転移までの時間ギリギリまでこだわったからね」

「おかげでマスターは使徒としての基礎知識がありませんが……」

「そんな些細な事はどうでも良いのよ。結果が大事」

「確かにマスターの外見は惚れ惚れしますから、流石クレティア様ですね」

「何万年理想の結婚相手を妄想してきたと思ってるのよ」


「つまり、クレティアは重度の腐女子?」

「何を言ってるの? 結婚に憧れている一般的な女神よ」


 つまり女神は全員すべからく重度の腐女子か。

 神界大丈夫か?


「今日会って話しておきたかったのは、貴方は見た目だけは完璧だから、男女問わず惚れられるから気を付けてって事を伝えたかったのよ。不用意に口説いたら刃傷沙汰になるから。貴方に何かあると……。ねぇ……」


 何かあると永遠の地獄だからね。

 気を付けよう。特に男には気を付けよう。


「あれ? 何他の女とイチャついてるんだ! とかは? それで呼ばれたんじゃ無いの?」


「そんな事微塵も思わないわよ? 寧ろ色々経験をして貰った方がありがたいとすら思うわ」


 クレティアが女神に見える。


「それと、祝福の件ね」

「祝福? あのキラキラ演出の?」

「そう、それ。実は結構ヤバイやつ」


 既に二回ヤバイ事しております。


「エルトガドで貴方が使徒の名において宣誓すると祝福になるのよ。祝福は神の力で行う強制執行みたいな感じね。世界の理を変えてでも行われる強制執行」


 確かにヤバイやつだ。


「エデンの事は問題ないのよ。ヘルピーからもアドバイスがあったでしょ? 世界樹を守るために最善の方法だと思うわ」

「お褒めにあずかり光栄です。クレティア様」


「問題はさっきのヤツね」


 サクラさんへの演出は問題らしい。


「使徒との結婚を祝福すると、相手は使徒が神上がりする時に夫婦神めおとがみとして同時に神上がりするの」


 そうだったのか。

 サクラさんは、クレティアとヘルピーと仲良くしてくれるかな?


「使徒が名付けをする事は問題ないの。熊どんとかね。でもその名を祝福すると、その状態で肉体的成長が止まる。つまりサクラさんはずっと歳を取らないし、外見も変わらない。もし貴方がミッションに失敗すると、彼女はどうなると思う?」


 血の気が引いた。

 下手をすれば彼女は魔女、妖怪として世間から忌み嫌われる。

 死ねない彼女は永遠にエデンから出られない。

 ミッションの失敗は許されない。


「だから、今後祝福する時は、必ずヘルピーに相談してからにしてね」


 ウィンクするクレティアが美しすぎる件。

 この完璧な美女は将来の俺のお嫁さん。

 信じられない。


「クレティア。ありがとう。信じて待っててくれ」

「勿論信じてるわよ。私の旦那様」

「私も信じてますし、全力でサポートします、旦那様」


 よし。俺は頑張れる。

 クレティアとヘルピー。サクラを守り幸せにする。

 俺はやれば出来る子。


「ところでカミーユ」

「何だいクレティア」

「貴方今日結婚したのよね?」

「ああ。そうらしな」


 俺は自分のあずかり知らぬ処でいつの間にか結婚していた。

 自覚も実感は全く無いけれど。


「私とヘルピーは気を遣って初夜の営みが終わった頃合いを見計らって貴方に会いに来た訳なんだけど……。営んでいないわよね?」


 えっ。だってねぐらで待てと……。

 あれ?

 言われていないな……。


「新婦は今頃泣いてるわよ! 男としてあるまじき行為ね。ヘルピーもそう思うでしょ?」

「そうですね。クレティア様から第二夫人の証しとして頂いたこのハイヒールで踏み抜きたいと思います。プレイとしてでは無く本気で破壊してやりたいですね」


 ヒュンとしたよ。

 やめてあげて。


「今から急いで彼女の元に向かいなさい」

「ありがとうクレティア。俺はクレティアもヘルピーも特別だけど、サクラも特別だから」


「もう。判ってるわよ旦那様。でも、嬉しいけど、ちょっと複雑」

「やはりクレティア様。ここは私のハイヒールで……」


「それと、これを彼女に渡しておいて。女神クレティアが使徒カミーユとの結婚を認めた証しとして」


 クレティアはそう言ってエメラルドグリーンに輝く薔薇の髪飾りを渡してくれた。

 サクラの瞳と同じエメラルドグリーンの花弁。

 不思議な事に黄金色の粒子が花弁の中で踊っている。

 花弁を彩る茎や葉はクリスタルシルバー。


 サクラを象徴する色。

 サクラが好きな色。


 クレティアの心遣いに涙が溢れる。

 クレティアは愛で出来ている。

 ヘルピーだってそうだ。

 俺は愛に包まれている。


「ほら、泣いてないで行きなさい。泣いているのはサクラさんよ。私の可愛い妹なのよ。幸せにしないと私が踏み抜くわよ」


 クレティアありがとう。

 大丈夫。サクラは俺と一緒に幸せになるから。

 勿論クレティアもヘルピーも一緒に幸せになるから。

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