第2章 ハイエルフ

第18話 世界樹を目指して(Side ルシアナ)1/3

 私はルシアナ・ヘノベバ・レムス・ムルシア。


 ムルドラン自治領で生活しているハイエルフ。

 性別は女。

 年齢は判らない。


領主の娘として生まれたが、領主になれるのは男性だけだからあまり関係ない。

 他のエルフと変わらない生活を送っている。

 みんなからは『姫様』『姉様』と呼ばれる事が多い。


 チャームポイントは、長い銀髪とエメラルドグリーンの瞳。

 エルフとしては大きすぎる胸は大嫌いだ。


 年齢に関しては、教えたく無い訳では無くて判らないのだ。

 エルフはヒューマンと比較するとかなりの長寿だ。

 特にハイエルフの寿命は数百年。時には千年を超えて生きる。


 長寿だから、何年生きているのかなど些細な数字を数える事が無い。

 それに、エルフは外見の変化が少ない。所謂老化が緩やかだ。

 他の種族と比べると時の流れが違うのだ。


 エルフは長寿故に魔法に長けている。

 他の種族が一生を過ごす間に、私達エルフはその時間を練習に充てられる。

 私も治癒魔法、風魔法が得意だ。火魔法は苦手だけれどね。


 この魔法が私達エルフが外貨を得る武器となっている。

 世界中の国に女神クレティア様の教会を作り、治療院を併設している。

 エルフは世界の創造神である女神クレティア様を信仰している。


 寿命が短いヒューマン達は、変わらぬ美と長寿を求めてエルフと交配した。

 欲深いヒューマン達は教会で過ごすエルフだけで無く、エルフをさらい凌辱した。

 凌辱されたエルフは嘆き自害し、エルフは次第に減少していった。


 いつしか、多種族と交配していない純粋なエルフをハイエルフと呼ぶようになり、それ以外のエルフを単にエルフと呼ぶようになった。


 現在はエルフの保護区があり、そこを自治領として認められている。

 独立しエルフの国を建国する事が私達エルフの悲願である。


 悲願ではあるが、時の流れが緩やかで穏やかな性格で戦闘を好まない私達エルフは、独立戦争をする事も無く、変わらぬ生活を続けている。



 十年ほど前。

 森の魔素が減少している事に気がついた。

 僅かな変化だったので、気のせいかと思いそのまま過ごしていた。


 三年前。

 確実に魔素が減少している事が判った。

 世界中にいるエルフ達からも同様の報告が上がってきたからだ。


 一年前。

 いよいよ危機的状況になってきた。

 以前と比べて魔素量が半減している。

 しかも、加速度的に魔素は減少している。


 このままでは世界中の魔素が全て無くなる。

 私達エルフは立ち上がった。


 エルフの手で魔素の減少を食い止める事を。

 世界を救い、今こそ独立を果たすと。


 神話や預言書、長老達聞いた伝承から、魔素減少の原因は世界樹の異常だと判明した。


 世界樹。

 女神クレティア様が世界の礎として神界からもたらされたという伝説の巨木。

 魔獣が跋扈する死の森の奥深くにある世界の礎。

 生きて戻れない森。それが死の森。


 森と共に生き魔法に長けたエルフこそが世界樹を救えると訴え認められた。


 私は世界樹へ赴く事に立候補した。


 領主の娘として。

 ハイエルフとして。

 共に生きるエルフを守るため。


 反対も多かった。

 特に父からの反対は強かったが、私は世界樹へ赴く事が認められた。



 それから半年以上準備に費やし、ようやく出発となった。

 準備の大半が私が身に纏う衣装や装飾品の準備。

 世界存亡の危機に何故身なりに拘るのか理解が出来なかった。


 早く世界樹へ向かいたいが、エルフ族として必要な事だと説得され、渋々了承した。


 エルフの姫巫女として私は着飾らされた。

 上質なシルクを私の瞳と同じエメラルドグリーンに染め金糸で精緻な刺繍を施した衣装。

 宝石をちりばめた月桂冠を模したティアラに、首や胸元、腕や手首、足首まで用意された光り輝く装飾品。

 錫杖に偽装したレイピアにも美しく精緻な細工が施されている。

 

 素材も色も装飾も全てが美しい。

 

 見ているだけであれば。


 身に纏うだけで吐き気がする。

 特に私が大嫌いなエルフとしては大きな胸を強調するような煽情的なデザインが。

 

 しかし、死の森までは多くの街を経由する。

 エルフの姫巫女として必要な演出なのだと自分に言い聞かせる。


 いよいよ死の森が見えてきた。

 

 森に入るのは、カイン、クレア、ナターシャ、ミランダと私の五人だけ。

 全員が何か一つの魔法に特化して秀でているスペシャリストだ。

 男性はカインだけで、申し訳ないが荷物の運搬もお願いしている。

 

 それは私が望んだ事。


 死の森で戦闘は全て回避すると決めていた。

 死の森に住まう魔獣は、単体で街を破壊するほど巨大で凶暴なのだ。

 戦えば確実に死が待っている。


 少数精鋭が隠密行動の鉄則だ。


 何かあっても私の治癒魔法がある。

 風の刃で木々を切り倒し、逃走経路を確保出来る。

 土魔法で壁を作り、身を隠せる。


「カイン、クレア、ナターシャ、ミランダ。森に入り世界樹を目指します」


 森の入り口で共に行動する仲間に向き直り言葉を掛ける。

 

 その様子を、各国から派遣された監視役達が見守る。

 私達が森に入り戻ってくる事を見届けるためだ。


「私達の使命は、世界樹を癒やし、再びここへ戻ってくる事です」


 必ず生きて戻ってくる。

 一番大切な事。


「ルシアナ・ヘノベバ・レムス・ムルシアはここに誓います。世界樹を癒やし、再びここへ戻ってくる事を。仲間を助け、守り、決して見捨てない事を」


 四人は頷き、瞳には燃えたぎる炎が宿る。

 大丈夫だ。

 今の私達なら必ず出来る。


 胸の奥に抱いていた不安や恐怖はいつしか無くなっていた。

 未来への希望を胸に抱き、死の森へと足を踏み入れた。

今後とも『球で最も影響力が無いおっさん、異世界スローライフを夢見る』を宜しくお願いします。

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