第13話 天職を発見する
気を失った美女を支えたまま狼くんを見ると、狼くんはお辞儀をして森の奥へと去って行った。
傷だらけで血も流れているが死んではいない。
彼女はきちんと呼吸している。
「狼くんありがとう。今度お礼するから」
「ウォン」
気にするなと言ったような気がした。
狼くんとも友情を築けた気がする。
「ヘルピー。他の三人の状態はどうかな」
【かなり厳しい状況と思われます。呼吸と脈を確かめ、ドッグタグを確認しましょう】
倒れているのは全員女性のエルフだった。
一人一人確認するが、全員息を引き取っていた。
ドッグタグにも明記してあった。
享年が……。
全員傷つき、血を流していた。
片腕の肘から先がない女性もいた。
初めて人の死を感じた。
意外と平常心を保てている。
まだ息のある女性が腕の中に居るからか、この世界に転移してきた影響かは判らないが、今は平常心を保てている事に感謝しよう。
全員にクリーンをかけ綺麗にしておこう。
この世界は死が身近にあるのかもしれない。
だからこそ最後まで尊厳を保たなければと思う。
荷車を作り、四人を乗せて小屋へと戻る。
「ヘルピー。彼女を治療するための魔法は俺に使える?」
【訓練をすれば可能かと思いますが、今はオススメしません。治癒魔法では無く治癒薬を作成する事を推奨します】
「俺でも作れる?」
【世界樹まで戻れば材料は揃いますので、問題ありません】
どうやら出来るらしい。
ヘルピーが言っているから間違いない。
行動は決まった。
「ヘルピー。予定変更だ。四人を連れて世界樹まで戻る」
【クレティア様の使徒として当然の行動です】
この判断は使徒として合格らしい。
良かった。
見捨てていたらヘルピーから恐怖のお説教が待っていたはず。
心から安堵した。
魔獣を積んだ荷車は……。
とりあえず置いて行こう。
他の魔獣に荒らされたとしても、また狩れば良いだけだ。
帰りの道中気付いた事があった。
土魔法で作った道と、力業で作った道では快適さが違う。
圧倒的に土魔法の道が滑らかで歩きやすい。
「ヘルピー。今度街に行くとき、道を作り直さないとな」
【そうですね。完成度が違いすぎます。特に世界樹までの直線は念入りに】
「そうだな」
世界樹の神殿へと続く道。
女神クレティアの名に恥じないクオリティーにしなければ。
細かな所も手抜きせずにコツコツとやっていこう。
――
四人を連れて世界樹まで戻ってきた。
熊どんがお出迎えしてくれた。
俺のお願いを聞き届けてくれてありがとう。
後で荷車に乗っている魔獣を食べる許可を出しておこう。
「熊どんありがとう。狼くんと戦っていた女性達を連れてきた。この女性達は俺のお客さんだ。よろしくな」
熊どんが頷いてくれる。
俺の言葉は理解してくれている。
言葉を理解していなくても、俺の気持ちは判ってくれているはずだ。
「それから、狼くんにお礼しなくちゃいけないから、熊どんの所に来たら道に置いてある荷車から好きな魔獣食べて良いって言っておいて」
実際に狼くんが熊どんの所に来るのかは判らないが、きちんと伝えておかないと。
俺は約束を守る男なのだ。
「今から小屋を作ったり、治癒薬を作ったりするから、熊どんの都合が良ければ家を守っておいて」
熊どんにそう伝えて、四人を俺の家に移動させる。
埋葬方法が判らないので、亡くなった三人は腐敗防止のために氷で包み、俺の部屋に運んでおく。
気を失っている件の美女はリビングの床に寝かせ、袋に入っていたマントを掛けておく。
ベッドや寝具がいのが申し訳ない。
三人のための小屋をサクッと作り、治癒薬作成に取りかかろう。
「ヘルピー。治癒薬を作ろう」
【まず薬研を作って下さい。その後材料を採取しましょう】
「薬研ってどんなだったかな?」
【表示します】
久しぶりのデータ表示。
これを見ると異世界に来た実感が出る不思議。
異世界で生活しているのにね。
「了解。小屋を作ったときに余った木材で作るよ」
木材加工はお手の物。
あっという間に薬研は完成した。
「これでOKかな?」
【問題ありません。魔法の練度がかなり上がっていますね】
ヘルピーからお褒めの言葉をいただきました。
何よりも嬉しい瞬間だ。
【治癒薬の材料は、世界樹の葉を二枚と、世界樹の実を十個です】
「それだけ?」
【後は水と魔素だけです】
意外と簡単に作れるらしい。
目の前に材料があるのだ、探す手間すらかからない。
ちゃちゃっと材料採取を済ませよう。
「とうっ!」
かけ声をかけて、世界樹の枝にジャンプ。
慎重且つ大胆に枝先まで移動して、世界樹の葉を二枚。
世界樹の実を探すのも、採取も簡単。
世界樹の実は直径一センチ程で、巨木になる実とは思えない程小さいが、美しい色をしている。
透明の膜の中に金色の液体が入っていると思うほどの透明感があり、その中に青い粒子が漂っている。
あの日見たクレティアの髪の色と瞳の色と同じ色。
神々しくて崇めたくなる。
クレティアの化身と言っても良いだろう。
軽くつまんでくるっとひねると簡単に採取完了。
十回同じ作業を繰り返せば材料採取は完了した。
世界樹の実は食べた事がない。
ヘルピーから絶対にダメだと言われているからね。
ヘルピーの言いつけは守るのがエルトガドにおける俺の処世術。
「次の工程を教えて」
【採取した世界樹の葉と、世界樹の実を薬研ですり潰して下さい」
言われたとおり薬研ですり潰していく。
意外に薬研を遣うのは難しい。
材料を乾燥させていないので、なかなかすり潰せない。
無心でゴリゴリ。
【もう良いでしょう】
ヘルピーからOKが出た。
【では、そこにウォーターで水を入れて下さい。魔力をいつもの十倍くらい込めて下さい】
いつもの十倍ね。
ついでに、綺麗に治りますようにと念を込めておこう。
【では次に、短剣に魔力を通して攪拌して下さい】
短剣に魔力を通すか。
やった事はないが、短剣を握っている手のひらから魔力を放出するイメージをしてかき回した。
不思議な事に、薬研の中で液体が金色に輝きだした。
【完成です。マスター。完璧な仕事です。薬屋としてやっていけますね】
「薬屋か。のんびり出来て良さそうだね」
【マスターに限ってのんびりは出来ませんけどね】
それって、引き寄せのせいですか?
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