第12話 第一村人? 発見!

 ヘルピーの指示に従い、道を作りながら街へと向かう。

 かなり面倒だ。


 最初は何も考えずに真っ直ぐ道を作っていた。

 その距離おおよそ五百メートル。

 道幅は結構広くしている。

 馬車が余裕を持って三台は通れるように、十メートル。


 邪魔な木をブリーズカッター(勝手に名付けた)で切り倒し、切り株は気合いで引き抜いた。

 伐採した木は道と森とを隔てるフェンス代わりに並べていった。

 動物であれば乗り越えてくることはあまり無いだろう。

 何せ直径五メートル程の巨木だからね。

 

 いずれ綺麗に作り直す必要があるだろう。


 時間がかかったのは道を固くする作業だ。

 馬車が通る前提の道を作れとヘルピーから指令を受けたから、しっかりと固める必要がある。


 そこで俺は考えた。

 道幅と同じ長さに木を切って、巨大なローラーを作成した。

 ローラーを曳いて三往復すれば綺麗な道が完成する。


 作業工程は次の通りだ。

 最初に伐採抜根作業。

 伐採抜根が終われば枝を払う。

 払った枝は更に細かく刻んで森へ捨てる。時間が経てば自然へ還ってくれるだろう。

 枝を払った幹を道路予定地の端へ除けて、ローラー作業。

 三往復したら幹を道路脇に並べて簡易フェンスの作成。

 根元と先では太さが違うので、高さ調整も行う。


 作業が一段落して振り返ると、世界樹へ向かって真っ直ぐ伸びる五百メートルの直線道路。


 満足満足。


「ヘルピー」

【はい、マスター】

「伐採する木がなるべく少ないようにルート変更しても良いかな?」

【問題ありません。最終的に街へ近づくように私が確認しておきます】


 ヘルピーから許可をもらってから、伐採抜根作業が少なくなるルートを見極めながら作業を進めていった。

 たまに魔獣と出くわすこともあったが、敵意が見られない魔獣に関しては、周囲警戒と荷車の見張りをお願いし、手頃な動物は俺と見張りの魔獣の食事としながら先へと進んでいった。


 日没二時間前には道を作る作業を止め、宿泊用の小屋とトイレを作り、安全に夜を過ごす。


 世界樹を出発して三日経過していた。


「この作業もかなり効率よくなってきたな」

【そうですね。魔法の練度も更に上がっていますね】


 ヘルピーも認めてくれるほど作業は順調で、魔法も様になってきているようだ。

 やはり俺は出来る子だったんだ。


「普通に歩けば一ヶ月と言っていたが、後どれくらいかかるかな?」

【後一週間ほどで森を抜けると思われます】

「えっ。そんなに早く?」

【マスターは体力お化けですから】


 何それ。

 頭悪い人みたい。

 全く嬉しくない。


 しかし、二ヶ月くらいかかるかもと思っていた俺からすれば、嬉しい限りだ。

 俺の体力は良い仕事をしているようだ。

 体力万歳。

 クレティアありがとう。


 予定より早く進んでいるので、考えていたことをヘルピーへ伝えよう。


「ヘルピー。今度土魔法を教えてくれよ。道路工事にも役立つだろうし、何かと便利そうだ」

【土魔法を極めればお金に困ることも無くなりますからね。今夜から少しずつ練習していきましょう】

「土魔法がお金になるとはあまり想像出来ないな」

【マスター。土魔法は夢とロマンの塊です!】


 ヘルピーのやる気を刺激してしまったようだ。

 お金になるなら頑張るけれどね。

 当面は道路工事が楽になれば問題無いし。


 その夜からヘルピーの土魔法講義が始まった。

 ヘルピーが言った通り、土魔法を極めればお金に困ることは無いだろう。

 俺はストーンバレット等の攻撃魔法や、ブロックを作ったり、地均ししたりと言ったイメージだったが、例えば金のみを抽出したり、合金を作ることも可能になるらしい。


 理解しなくてはいけないことも多く難しいが、頑張って習得して練度を上げよう。


 翌朝から、土魔法を使った道路工事を始めた。

 伐採抜根作業は今まで通りだが、地均しや固める作業は土魔法で行った。


 使い始めたばかりの魔法なので道路工事の速度は落ちたがしょうがない。

 練度が上がれば体力任せの作業よりも圧倒的に早くなるだろう。

 何せ俺は体力だけで無く、魔力量もお化けだからね。


 それから四日経過した。

 世界樹を出発して一週間。

 ヘルピーによれば、三日もすれば森を抜けられるだろうとのことだ。


「グウオォォォ」

 突然遠くから魔獣の声が聞こえた。

 狼型の魔獣が戦闘する際に発する鳴き声だ。


 遅れて木が倒れる音も聞こえる。

 微かに人の声が聞こえた気がした。


「ヘルピー。行ってみよう」


 音のした方に向かい駆け出す。

 遠目に狼型の魔獣の影が見える。

 何かと戦っている。


「人だ」


 エルトガドで初めて見た人間は魔獣と戦う女性だった。


「止めろ!」

 

 石を投げ、魔獣と女性の間にある木を粉砕する。

 驚き、動きを止め二つの視線が俺に向けられた。

 ゆっくりと近づいていく。


「理由は知らないが、戦いは止めろ」

 どちらも血を流している。

 女性の方が傷が酷いように見える。


「狼くん。俺に免じてここは引いてくれ。熊どんに言ってお礼を用意しておく」

「待て。この魔獣は私の従者を……」


 女性は引く気が無いようだ。

 少し離れたところに、三人倒れている。


「先ずは三人の手当が先だ。君しか三人を助けることは出来ないんだぞ」


 女性は戦う意思を捨てる様子が無い。

 しかし、頭からは血が流れ、体中傷だらけだ。

 膝は震え、気力だけで立っている状態だ。


 そして、血に濡れた女性は美しかった。

 このような場面で不謹慎だが、美しかった。


 クレティアは金髪碧眼で完璧な黄金比による神のみに与えられた神々しい美しさ。そして匂い立つような色気を放つプロポーション。

 忘れてはならないことは、推定E。


 目の前の女性は、銀髪翠眼で凜とした気品のある美しさ。健康的で引き締まったボディでスレンダーだが、しっかりと膨らんでいる。推定D。


(この女性は保護しよう。俺が治療しなければならないし、ゆっくり休んでもらわなければならない)


 男には勝たなければならない戦いがある。


「魔獣のことは俺に任せてくれ」

「……。っく」


  彼女の中でこのまま戦うか、ここで引くのか戦っているのだろう。

 悔しく、苦しいのだろう。

 表情が歪む。


「君はよく戦った」

「……」


 彼女の体から力が抜け崩れ落ちる。

 俺はそっと彼女を支えた。


 目茶苦茶いい匂いがした。

 そして、柔らかい。

(美しい女性は、良い匂いがして、柔らかいのか)


 素人女性との初めての触れあいに感激していた。        

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