第11話 いざ街へ

 親友の熊に余った蛇肉を渡して意気揚々と世界樹へと戻ってきた俺は、ヘルピーのアドバイスを聞きながら、魔獣の解体を行った。


 皮を剥ぎ取る作業は結構気持ちが良かった。

 短剣でスッと切り込みを入れて、肉と皮の間の薄い膜に短剣を差し込み、グッと力を込めれば、ツルリと皮と肉が分離される。


 初めて狩りをした記念に、頭部を家に飾ろうかとも思ったが、止めることにした。

 鹿みたいに立派な角があれば見栄えが良いが、デカい蛇だからね。

 正直気持ち悪い。


 内臓を取り出して、穴を掘ってイグニで焼却処理。

 埋め戻す事も忘れずにしっかりと行う。


 とりあえず、焼いて食べてみた。


「意外と美味いな。淡泊だけど問題無い」


 調味料は無いので単純に焼いただけだけれど、意外と美味しかった。

 特に臭みも無く、鶏胸肉の食感。


「他の肉も食べてみたいが、当面はこの肉があるから家づくりに精を出すか」


 水を飲み、口をゆすぎ、口内にクリーンをかけ、口腔ケアもバッチリ。


「ヘルピー。家作ろう」

【アシスタントとしてしっかりアドバイスしますので、安心してください】

「頼んだぞ相棒。マイホームだ。気合いを入れるぞ」


 ――


 それから三週間経過した。

 家は完成した。

 立派な平屋だ。


 魔法も上手くなったと思う。

 木の伐採には当初ウォーターを使っていたが、今は風の生活魔法であるブリーズを遣って、空気の刃でサクサクと伐採をし、木の加工もしている。


 建築用の木材はある程度木を乾燥させてから使用すると聞いた事があったので、木に含まれる水分を利用してウォーターを発現させるように生活魔法を改良改善した。


 害虫除けのために、外壁に使用する木材の表面を、火の生活魔法イグニで軽く焼いてみたりしたので、イグニの練度も上がった。


 生活魔法全般の練度が上がった事により、扉も作れたし、引き戸も作れた。

 ダイニングセットも作ったし、飾り気が無いので、扉や壁に模様を彫ったり。

 満足出来るく家が完成した。


 そして、バスタブ(木製)も完成した。

 やはり日本人とお風呂はセットだよね。

 お湯張りもお手の物で、ウォーターとイグニの合わせ技で、適温のお湯を直接バスタブに入れられる。


 湿気が気になるので、別棟にしている。


 因みにトイレはそのまま。

 便器を作る技術はあるけれど、処理の問題があるから解決方法が見つかるまでは現状で我慢する事にした。


 食料調達には劇的な変化が起こった。

 何度か森に入って狩りをしていたのだが、親友の熊さんが小動物を運んでくれるようになった。

 ウサギや狼がメインだけれど、たまに小さな熊を運んでくる。

 ヘルピーに確認すると全てらしい。


 あの時言った言葉を覚えていたのだろう。


 タイミング良く会えると、話し相手になってくれたり、モフらせてもらったり、クリーンで綺麗にしたあげたりと友情を深めている。


 傷もすっかり癒えており、一安心だ。

 大きな熊さんと言うのもあれなので、「熊どん」と呼ぶ事にした。


 熊の毛はかなりモフりがいがある。

 見た目はゴワゴワした印象だが、実際はフワッフワで極上のモフり心地だ。


 食料の心配も無くなり、安全に生活できる拠点は出来たが、不満は沢山ある。


 まず食料だ。

 動物の肉は想像より美味しいが、味気ない。

 野菜も食いたいし、米も麺類も食べたい。

 水以外の飲み物が欲しいし、酒が飲みたい。プシュりたい。

 ワイルドな食事はたまにでお願いしたい。


 そして寝床。

 ベッドが欲しい。ベッドと言うか、マットレスが欲しい。

 俺は寝る時は未だに寝袋。

 自宅で寝袋に入る生活は問題は無いが、改善したい。


 トイレも改善したいし、何より人と話したい。

 俺がエルトガドに来てから人間に会っていない。

 ヘルピーは実態が無いし、熊どんは熊だ。

 同族と話したい。


「という事でヘルピー。街へ行こう」

【どういう事かは判りませんが、礼拝堂兼管理等がまだ完成していません】

「その事だけどヘルピー。街へ行って道具とか揃えれば、より良い礼拝堂が出来ると俺は思うのだよ」

【それは……。一理あるかも知れませんね】


 お。あのヘルピーが悩んでいる。

 ここは畳みかける場面だ。

 大丈夫。俺はやれば出来る子。


「クレティアを祀る社だろ? 半端なものではクレティアに失礼だ。万全の準備を整えたい」

【そういう事でしたら仕方ありません。ただ単に調味料が欲しいとか、ベッドが欲しいとか、人恋しいとかマスターの都合だけでしたら許可はしませんでしたが……】


 ばれてーら。

 まあ、ヘルピーだからと納得するしか無い。


「いや、俺の都合はあくまでもついでだ。最優先はクレティアの礼拝堂だ」

【その言葉を信じましょう】


 よっしゃ。

 善は急げ。

 早速出発しよう。

 何せ俺は身軽だ。


「では、早速街へ行こう。一番近くの街はどっちだ?」

【一番近くですと南ですね。せっかくでしたら道を作りながら行きましょう。礼拝堂に人が来られないのは問題ですからね。クレティア様の事を考えればそれが最善ですね】


「……。仰せのままに」


 その場しのぎの嘘はダメだと言う事を実感しました。

 口は災いの元。

 身から出た錆。

 先人の教えは偉大だ。


【マスター。資材を揃えるとして、お金の調達方法は?】

「動物を狩って売れば良いと思ってたんだけど」

【相場が判りませんから、大型の魔獣を狩っていきましょう】

「そうだね。その方が安全だね」


 本日二度目の善は急げだ。

 森に入って、サクッと狩りをする。

 何が売れるか判らないから、熊(熊どん以外)、狼、蛇、鹿と水鉄砲で狩っていく。


 かなりの大きさだから、超特大の荷車を作って曳いていこう。

 何せ俺は力持ちだからね。


 肉が腐敗しないように、一応血抜きをして、ウォーターで氷を作る。

 最近覚えた応用技術です。


 作業中にやってきた熊どんに留守中の世界樹の安全をお願いする。

 ついでに、熊どんの知り合いにも声をかけてもらえるようにお願いしておいた。


「ではヘルピー。これから道を作りながら街へ出発します」

【私に声をかけなくても問題ありません。私は肉体を持っていませんので、実質マスターの一人旅です】


 違うのだよヘルピー。

 こういう儀式、様式美ってのは大切なのだよ。


 まだ見ぬ異世界の街。

 心を躍らせながら、街へ向けての第一歩を踏み出した。    

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