第10話 魔獣は友達?

「ではヘルピー」

【はい、マスター】

「昨夜打ち合わせした通り、本日は狩りを行います」

【では、森へ向かいましょう。そして出会った魔獣をサクッと狩りましょう】


 お、おう。

 しかし、俺の武器は短剣だけだよ。


【魔獣に出会ったら、とりあえず石を投げましょう。当たれば問題無いです】

「当たってもさ、色々グロテスクな状況になると思うのよ」

【慣れれば問題ありません】

「出来れば、この短剣でスマートにやっつけたいのよね」


 そう言って俺は、短剣を取り出した。

 この短剣、虹色に輝いていて目茶苦茶かっこいい。

 切れ味も凄く良さそうな気がする。


【今のマスターの能力であれば、投石が最善です。短剣はいざという時の切り札にしましょう】


 切り札。良いねその響き。


「そうだな。切り札にしよう。取って置きの奥の手だな」

【……】

「では、早速森へ行こう」


 俺は短剣という切り札を持っている。

 通常使用する武器は、石……。

 問題無い。投石が強い事は歴史も証明しているし、数々のラノベでも無双している場面を何度も見てきた。


 魔獣なんて恐るるに足らず。

 俺は強い……。はず。



 恐る恐る、森の奥へと向かう。

 違う。慎重に一歩一歩確実に進んでいく。

 決して恐れてなどいない。


「ズバンッ」


 俺の投石が火を噴いた。

 鳥の声が聞こえて、目視出来たのですかさず投石。

 確かに鳥に当たったと思ったが、何も残っていない。


「ヘルピー」

【はい、マスター】

「今、鳥に当たったよね」

【はい。確かに当たりましたが、威力が強すぎて爆散しました】


 何て事だ。

 勝負に勝って戦に負けるとはこの事なのか。

 しかし、当てる事は出来た。


【先程の鳥程度であれば投石では無く、ウォーターを使用しても良いかと思います】

「ああ。成る程ね。昨日木を切った高圧ジェットか」


 昨日俺が木の伐採に使用した魔法はウォーターだった。

 高圧洗浄機からヒントを得て、魔力を大量に細く放出する事で切り込みを入れられると考え、試行錯誤の末何とか成功させる事が出来たのだった。


【そうですね。出し続けるのでは無く、弾丸を撃ち出すイメージで】

「了解、練習しながら進んでいこう」


 それから暫くは生活魔法ウォーターを使った水鉄砲の練習をしながら森を歩いた。

 ヘルピーも言っていたが、魔法はイメージだ。

 ドラマや映画で見た銃撃シーンが凄く役に立った。

 改良の余地は多分にあるが、それなりに使えるようになってきた。


「ヘルピー」

【はい、マスター】

「あのでかい塊は、俺の目の錯覚で無ければ蛇に見えるのだが」

【はい。蛇の魔獣ですね】


 百メートルほど先に、五メートルほどの黒っぽい小山が見えた。

 蛇が蜷局とぐろを巻いているように見えたので、念のためヘルピーに確認したら、蛇だった。


 異世界ヤバイ。

 熊もでかかったが、蛇もでかい。

 胴回りは推定一メートルはあると思われる。


「ここは、水鉄砲……。では無く、石だな」


 あれだけの大きさだ、コントロールが若干悪くても当たるだろう。

 気を付ける事は、最後まで標的から目を離さない事。

 投げた後は神のみぞ知る。


「クレティア頼んだぞ」


 渾身の力を込めて投擲。


「ドガッ」


 こぶし大の石が手から離れた瞬間、蛇に穴が開いた。

 もたげていた首は力なく落ちていく。


「やったのか?」

【さすがマスター。一撃でしたね】


 良かった。

 戦闘になる前に仕留められた。

 かなりグロテスクな光景だが、覚悟の上での投石。

 全てが爆散しなくて良かったと胸をなで下ろした。


「ヘルピー。あの蛇の肉は食べられる?」

【毒も無く安全に食べられます】


 これで夕食ゲット。

 本日の目標は達成だ。

 本当ならウサギ程度の動物が良かったが、今の俺には小さな獲物を仕留める技術が無い。

 肉を確保した事を素直に喜ぼう。


「ヘルピー。どうやって持って帰ろうか」

【そのまま持って行くしかありませんね。マスター力業です】

「ですよねー」


 判っていた。

 便利な収納魔法もマジックバックも持っていないので、人力で森の入り口付近まで運ぶしか無い。

 塒付近には持って行かないよ。

 肉につられて他の魔獣がやってくると思うから。


「しょうがない。持って行くか」


 持って行かないという選択肢は無い。

 大木すらも軽々と持ててしまうのだから、蛇ごとき楽勝よ。

 なるべく汚れたく無いから引きずっていくけれど。


 三往復目。

 少し汗もかいたし、蛇の近くで水分補給をしていた。


(この世界にも大分順応してきてるな)


 そんな事を思っていた時に、大きな影が動いた。


「えっ。あいつは……」


 ゆっくりと歩いてきたのは、初日に出会った巨大な熊だった。

 石で破壊した傷もまだ癒えていないが、さすがの生命力だ。

 俺が吹き飛ばした肩以外にも、傷ついている。

 他の魔獣に襲われたのだろう。


 警戒しながら右手に石を握り観察する。


 巨大な熊は蛇に近づいてくる。

 つまり、俺にどんどん近づいてくる。


「おい。熊さんや」


 俺は近づいてくる巨大な熊に声をかけた。

 自分でも何故そうしたか不思議だ。


 熊は立ち止まり、俺を見つめる。


「こないだは悪かったな。この蛇はお前にやるから、しっかり食べて傷を癒やしてくれ」


 熊は俺を見つめたまま動かない。


「お礼は俺が食べやすい大きさの動物で良いぞ。頑張って生きろよ」


 巨大な熊に蛇を譲って、世界樹へ向かって歩き出した。

 今襲われたら確実にられる。

 しかし、俺の直感はそんな事は起こらないと言っている。


「くおぉん」


 熊がお礼を言った気がした。

 恐らく気のせいだが、そんな気がした。


 世界樹にたどり着いた後、ヘルピーにしこたま怒られた。

 それはもう、恐ろしいほどに怒られた。


【マスターに万が一があってからでは遅いんです】


 何だかんだ言って、ヘルピーも俺の事を心配してくれているのだろう。


【私がクレティア様から叱られるんですよ! 勘弁してください】


 どうやら違ったようだ。

 さすがはヘルピー。ブレる事は無い。

 当然この事も日報でクレティアに報告するらしい。


【私は一切悪くありませんからね。一人でクレティア様から叱られてくださいね。当然私は庇う事はいたしませんので】


 何故だろう。

 いつも一緒にいるヘルピーよりも、巨大な熊との絆が深まった気がする。

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