第9話 食料を調達しよう

 当面のスローガン『拠点を作って街へ行こう』は決まったが、どうやって実現していくか。


「さて、ヘルピー」

【はい、マスター】

「俺は家を作りった事はありませんし、建築に関する知識もありません。その辺はヘルピーの全面的な協力が欲しい。頼めるか?」

【私が出来る範囲なら当然です】


「ありがとう。頼りにしてるよ」


 拠点作りと言うか、この世界での生活はヘルピー頼りだ。

 確約を得られたので一安心。


 先ずは、設計だ。

 計画は大切です。


 と言っても、日本で生活していた自宅を大きくした感じで。

 玄関、LDK、寝室、お風呂、トイレを簡単に配置していく。


「良し。まずまずの出来だな」


 地面に書いた簡単な間取り図を見て一人納得した。

 完璧が過ぎる。

 だって俺が住んでいた家だからね。

 プロが設計したものだ。間違いがあるはずが無い。


「ヘルピー」

【はい、マスター】

「設計完了だ」

【……。話になりませんね】


 ヘルピーのダメ出しはえげつなかった。

 クレティアも無慈悲だと思ったが、ヘルピーはそれ以上だ。

 確実に俺の心を抉ってくる。


【少し言い過ぎました。すみません】


 涙目の俺を見てヘルピーも少し反省したようだ。

 まあ、見えていないのだけれど。


【そもそも、この世界では生活魔法ありきの家作りをします。マスターはその辺りが判らないでしょうから、私が基本設計をします。マスターは修正してください】


「そうだね。ありがとうヘルピー」


 それから、ヘルピーが言う通りに地面に間取りを書いていった。

 ヘルピーも、この部屋は何かとか一切説明せずに大きさだけを指定していく。

 ヘルピーも俺について学習したようだ。


「ヘルピー」

【はい、マスター】

「建物の数が多くありませんか?」

【そうですか?】

「トイレと俺の家を別にするのは理解出来るよ。衛生面も大事だからね」

【ご理解いただけて何よりです】


「これは何?」

【礼拝堂兼管理棟ですね】

「必要?」


【何を仰っているのですか? これこそが最重要ですよ。そもそもマスターはクレティア様の使徒であり世界樹の管理者です。礼拝堂にクレティア様の像を置き、そこで世界樹を管理するのですよ。マスターがエルトガドへ赴いた本来の目的を達成するためには必要不可欠です】


「俺、素人だよ」

 

【ですので、まずトイレを作り問題無ければマスターの家を作ってと、練習を重ねて礼拝堂兼管理棟を建築します】


 俺の家は練習なのね。


【完成する事にはマスターの魔法もかなりの練度となっているでしょう】


 俺は学習しているのだ。

 ここで反論してもダメージを受けるのは俺と判っている。

 素直に従うしか無い……。はず。


「了解したが、ヘルピーも良く判っているように、俺はズブの素人。ヘルピーの助けが必要だ。頼りにしている」

 

【私はマスターの優秀なアシスタントです。不利益になるような事は一切いたしませんので、私に従っていただければ問題ありません】


 あれ?

 主従が逆転していないか?

 気のせいか。何も変わっていない。


「では、早速トイレから始めよう」



 ――

 その日の夕方にはトイレが完成した。

 壁も屋根もちゃんとあるんだぜ。

 窓は無いが、壁を屋根まで伸ばしていないので、風通しも良い。雨も降り込んで来ないだろう。


 便器は無い。と言うか、俺の魔法の練度では作れない。

 練度が上がってから作れば良い。

 木製になるだろうけれどね。


 トイレは原始的だが、穴を深く掘ってその中に。

 処理方法は、クリーンで浄化した後にイグニで燃やす。

 一応その後に少しだけ土を投入して痕跡を無くすようにしている。

 

 紙は無いので、ウォーターで洗浄してブリーズで乾かす。

 ウォーターでズボンが濡れる心配があるので、トイレに入る前にはズボンを全脱ぎする。

 まるで幼児だが、ウォーターの練度が上がれば解決するとヘルピーは言っていた。


 木を伐採したり、枝を払ったり、大きさを加工したり、板を作りったりと大変だった。

 世界樹は規格外の大きさだが、森の木々も大きい。

 幹の太さは概ね五メートルはある。

 

 ヘルピーの助けを借りて、何とか頑張った。

 おかげでウォーターとブリーズはかなり使えるようになった。

 伐採から加工まで全て生活魔法で行ったからね。


 生活魔法マジ便利。

 

 運搬や地均じならしは楽だったよ。さすがは超越者。巨木を苦も無く運べる。

 力仕事はエルトガドで俺の右に出るものはいないのじゃ無いかな。


「充実した一日だった」


 満足感に浸りながら完成したトイレを見ながら独りごちる。

 夕焼けも綺麗だ。


「ヘルピー」

【はい、マスター】

「ヘルピーのおかげでトイレが完成した。俺一人じゃ無理だった。素直に感謝するよ」

【当たり前の事をしたまでですが、感謝は受け取りました】

「うん。ありがとう」


 もう少し浸っていたが、日が落ちる前にねぐらに帰ろう。

 ここは巨大な魔獣が跋扈する森の中だ。


 世界樹の根に腰を下ろし、夕食を取りながら、明日以降の予定も確認しておかないと。


「ヘルピー」

【はい、マスター】

「夜は魔法の講義だよね?」

【そうですね。先ずは生活魔法を極めましょう】

「色々試したいと思っていたんだ。生活魔法の組み合わせで色々出来ると思うんだよね」

【可能性は否定しませんが、そのためにも単体の生活魔法を極めるのが先決かと】


 おお。初めてヘルピーと意見が合った気がする。


「練習を始める前に今後のスケジュールについて話し合いたい」

【明日からはマスターの家を作りる予定ですよね?】

「そうなんだけど、明日は狩りをしたいと思います。寝床はある。食糧確保が優先だ」

【食料が無くなってからサクッと魔獣を狩れば問題無いのでは?】

「いや。無くなってからでは遅い。それに、今ある食料は非常食として少しでも取っておきたい。魔獣相手に俺が戦えるかも判らないし、可能であればウサギ程度の動物が良いと思っている」


 そうなのだよ。

 魔獣問題があるのだ。

 血抜きも解体もしなければならないのだ。

 解体後の肉の保存方法も今のところ無い。

 出来れば狩った獲物はその日に消費したい。


【判りました。では、明日は食糧確保を最優先として、余った時間で建築準備をしましょう】


 よっしゃー。

 初めて俺の意見が通った気がする。

 そう、俺はやれば出来る子なのだよ。

 

 夜の魔法の練習にも俄然やる気が出てきた。    

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