第3話 やれば出来る子

スローライフのためにチート能力をゲットしたい。

 そのためには交渉だと、意気込んではみたが、人生で交渉ごとなどしたことが無い。


 ここに来て、女神クレティアが言っていた『地球で最も世界に影響を与えない存在』であると実感してします。


 しかし、やるしか無い。

 大丈夫。俺はやれば出来る子。


「今回私は、慈悲深い女神クレティア様のおかげで転移してお役に立てます。心より感謝いたします」

「……。急にどうしたんですか? 気持ち悪いですよ」

「いえ。今までの私が不敬だったのです。お気になさらずに」

「……」


 まずはへりくだっておこう。

 好感度が爆上がりのはず。


「私は転移した後、女神クレティア様への信仰心向上のために行動いたします」

「それはありがたい事ですが……」

「更に、今回魔素枯渇の原因であります魔素供給装置である世界樹の保護も同時に行おうと考えております」

「ええ。ありがとう」


 感動しているのかな?

 目を細めて若干湿り気のある視線を俺に送ってくる。

 此処までは完璧のはず。


「それを完遂するに当たり、転移時に私に授けていただきたいものがあります」

「それは構わないのですが……。何を望みますか?」

「私が望むものは三つです」


 三つの内一つだけでもゲットしたい。

 魔法無双は確定しているかなね。


「まず一つ目は、あらゆる困難を排除出来る圧倒的な力です」

「まずは力ね」


 当然だろう。

 魔法が効かない相手も居るはずだ。

 圧倒的戦闘力、暴力が必要だ。


「二つ目は、全てを見通せる知識です」

「力と知識ね。まあ、無難な所ね」


 魔力、力、知識。

 三つ揃えば全知全能。

 考えるとヤバイよね。

 レッツ不労所得。


「そして最後に、女神クレティア様の使徒にふさわしい容姿と肉体です」

「使徒ですか?」

「はい。私がエルトガドで行うことは、神の使徒としての行動だと思います」

「そうですね。使徒ですか……」


 欲張りすぎだったか。

 ハーレムは無理でも綺麗な奥さんが欲しかったからお願いしてみたけれど。

 まあ、圧倒的能力があればそれなりにモテるはず。

 大丈夫。俺は間違っていない。


「全てとは言いませんが、可能な範囲で能力を授けていただければと思います」

「そうですね。少し考えるから、貴方はもう少し具体的な内容を考えておいて」

「畏まりました」


 具体的に考えろってことはある程度は大丈夫って事だよな。

 これは好感触。

 手応えありだ。


「それと、最後に確認なんだけど。貴方は私の使徒になりたいの?」

「はい。勿論です。クレティア様の使徒になる。これ以上の喜びなどございません」

「使徒が何かを理解しているのよね?」

「勿論です」

「そうですか……」


 こういう質問は即答に限る。

 確か使徒というのは、神から遣わされた者だったはず。

 それよりも、具体的能力だったな。

 これからの人生に直結するから真剣に考えよう。

 まずは、力だよな。力と言っても色々あるから……


 ――

「……太さん」

「……」

「佐藤翔太さん」

「はい」

「お待たせしました。貴方が転移する際に授ける能力が決定しました」

「ありがとうございます。私も具体的に考えられました」


 かなり時間が経過したが、おかげで俺もゆっくり検討出来た。

 これで勝てる。

 何に勝つかは判らないが、勝利は約束されている。


「これは神界唯一の創造と終焉の神であるサイナス様が決定された内容です。基本的に変更は出来ません」

「基本的にってことは、場合によっては変更可能ってことですか?」

「そうですね。授ける能力に影響がない範囲であれば私の権限で可能です」


 能力値は変えられないって事か。

 まずは聞いてみよう。

 時間もかかったのだから、ある程度は能力が保証されているはずだ。


「能力値を伝える前に最終確認です」


 真剣な表情で俺を真っ直ぐに見据えられ、俺も居住まいを正す。

 

「佐藤翔太さん。貴方は神の使徒が何であるかを正しく理解し、私クレティアの使徒としてエルトガドへ自らの意思で赴くのですね?」

「はい。私佐藤翔太は、自らの意思でエルトガドへ赴き、世界樹の管理と女神クレティア様への信仰心向上を行うことで、クレティア様を最高神へと至らしめる事が使徒である私の使命です」


 この状況で悠々自適のスローライフが目的とは言えません。

 俺は空気が読める男だからね。


「此処に私クレティアと佐藤翔太との間に使徒契約が成立しました」

「ありがとうございます」


 使徒契約?

 かなりヤバそうなフレーズだ。

 体温が上がり嫌な汗が背中を伝う。

 しかも成立したって言いましたか?


「佐藤翔太さん。貴方はこれまでの輪廻の中で、一度も聖職者になったことがありません。それでも尚、使徒を望みました。そこで、創造と終焉の神にかなり交渉しました」

「それはお手数をおかけしました」


「問題ありません。私にとっても重要な事でしたから」


 どうやら神の使徒になる事は俺が思っていたよりも重要な事のようだ。

 大丈夫。スローライフのついでにクレティアさんの事を伝えていけば良いだけだ。

 それ以上でもそれ以下でも無い。


「貴方に授ける能力ですが、使徒基本セットの他に完全チート級の能力値をゲットしてきました」

「ありがとうございます。心強いです」

「それと、貴方の肉体や容姿は私の権限で如何様にも変更可能です。希望はありますか?」

「そうですね。イメージとしてはダビデ像ですかね。エルトガドで違和感が無い範囲で、クレティア様が望む姿でお願いします」


 俺が目指すのはイチャラブスローライフ。

 そのためにはイケメンになる必要がある。

 普遍的なイケメンと言えばダビデ像しか思いつかなかった。


「判りました。ダビデであれば問題ありません。しかし、ミッション終了後の事を考えると……」


 ミッションって何?

 終了後はどうなるの?

 理解できない事が増えていく。


「クレティア様。能力の詳……」

「エルトガドの魔素が限界です。すぐに転移させます。詳細はエルトガドに到着後に確認して」

「いや、詳細を……」

「転移先は魔素供給装置のすぐ横です。それからエルトガドでは『女神クレティアの使徒カミーユ』と名乗りなさい」


「カミーユ。貴方に託します。頼みましたよ」


 今まで見たことのないクレティアの表情だ。

 信頼と心配。

 自信と不安。

 子供を送り出す母親のような表情と似ている気がした。


 突然光に包まれると同時に、俺は再び意識を手放した。

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