第2話 目指せスローライフ
「貴方は……。貴方は、地球で最も世界に影響を与えない存在。居ても居なくても問題無い存在」
「地球では無能で役立たず。貴方以外に適任者が居ないのよ。誇りなさい」
まさかの選定理由である。
あまりの衝撃に絶句する。
「あら。そんな顔して。選ばれたことがそんなに嬉しかった?」
「……ちっ、違います」
頑張って言葉を紡いだ俺、偉い。
落ち着け俺。これは夢。全てが夢。目が覚めたら綺麗さっぱり全て忘れる。
今はこの夢を楽しむんだ。
出来るはずだ。俺は頑張れば出来る人間だ。
「あまりの言いように絶句していただけです。もう少し柔らかく、ふわっとした説明をしていただけたらと……。そう思っております」
「あら、わかりにくかったかしら。ごめんなさいね。人間と直接話すことが初めてだから配慮に欠けてたわね」
配慮に欠けていたのは間違いないが、判りやすかったのが問題であって、配慮の方向性が間違っている。
「えっと……」
首をかしげ、頬に右手の人差し指を当て考えるクレティアさん。
実に美しい。
そして、テーブルに乗っているもっちりフワフワが最高です。
「まず、貴方の誕生日なんだけど。この日はこの年で一番人間が生まれた日なの」
「それ知ってます。調べたことあるんで」
「更に、名前。苗字は日本一多い苗字だし、名前はその年で一番名付けられた名前」
それは知りませんでした。
新しい知識をありがとう。
「身長も体重も同い年男性の丁度平均。何も特徴が無いって事ね」
そ、そうだったんですね。
「それから、貴方仕事でも特に改良改善とかしないし、変化を起こすことが無いのよね」
はい、仰るとおりです。
「趣味はスマホでラノベ。無料だよね? 趣味にお金を使ったり、誰かと外出したりしないし、経済的にも役立たずね」
そうです。貯金が増えていくだけです。
「銀行の残高が増えて喜んでいるけど、特に投資に回したりする事も無いし自分から行動を起こす事も無い。ただお金を寝かせているだけで社会の役に立っていないのよね」
何か、ごめんなさい。
「特に親孝行をするでも無く、誰かのために動くでも無く、ただ生きているだけの存在。それが佐藤翔太という存在ね」
「ずびばぜん」
何故だろう。目や鼻から汗が出ている。
「地球上で最も不要な人間って事は理解できたかしら?」
「ごべんだざい。いっそ殺してください」
「それは無理ね。既に貴方という存在も、そこで生きていたという事実も消しちゃったから」
存在自体消えていたようです。
「心配しなくて大丈夫よ。地球で暮らしている人達には最初から貴方の存在は無かったことになっているから。貴方がいなくなった後のことは問題無いからね」
勘違いしてすみません。
最初から存在していなかったようです。
いっそ異世界転生したいと思っております。
「本題はここからなんだけど。今私が管理しているエルトガドで緊急事態が起こっていて、その解決方法が地球から一人転生させることだったのよ。貴方が居てくれたおかげで万事解決ね」
「その問題って何ですか?」
「魔素の枯渇ね」
「魔素ですか。そうですか」
魔素ってことは魔法がある世界だよね。
さすが異世界。
「で、俺はそこで何をするんですか?」
「特に無いかな。転生するときに全て問題が解決するから」
転生するだけで問題解決するらしい。
俺は、異世界で一番役に立つ存在だ。
クレティアさんが言っていた『誇りなさい』は異世界での話だったか。
「でも、そうね。せっかく転生するなら、なるべく貴方の希望は叶えてあげるわよ」
「ありがとうございます。俺、役に立つ人間になりたいと心から思っています」
よっしゃ!
転生チートゲットだぜ。
何をもらうか慎重に考えよう。
異世界でしたいこと。
・チート無双
・スローライフ
・ハーレム
まあ、この三つだな。
しかし、戦闘はなるべくしたくないし、女神様にハーレムをおねだりする訳にはいかないよな。
残りはスローライフか。
理想のスローライフって何だ?
早期リタイアして南の島のコテージで悠々自適。
可愛い奥さんとふらっと旅行して、イチャイチャして。
お金を気にせずショッピングを愉しんで。
うん。低俗だ。
低俗だが、それでいい。
俺は低俗ライフを満喫したい。
「クレティア様。まずはエルトガドの事について教えてください」
「そうですね。予備知識なしで転生というのも少し可愛そうな気もします」
少し可愛そうな気もします?
いや、かなり悲惨だと思います。
まあ、転生だから0歳児になることも考えればその考えもありだ。
そこも確認しておかないと。
「成る程、良く判りました。つまり私はこのまま転生すると。転生と言うより転移といった方が良いかも知れませんね」
「そうですね。その表現の方がしっくりきますね」
「そして、転移するときに私に地球の魔素を詰め込んで、転移完了時に魔素を放出すると」
「そうです。その処理は自動で行われますから、特に意識することはありません」
「そのおかげで、私の魔素、魔力の容量は無限に近いと」
「はい。一つの世界の魔素を全部持って行く容量ですから、無限と言っても過言ではありませんね」
よし。まず魔力に関しては完全にチート級だ。
絶対的アドバンテージ。
「確認なのですが、エルトガドにおけるクレティア様への信仰はどの程度でしょうか」
「そうですね。私の名前と容姿は伝わってはいますが、信仰心はそこまで高くないですね。一応教会もありますから、祈りを捧げることによって信仰心は私に届き、それが神力となっています」
「今より信仰が高くなることでクレティア様のメリットはどの程度でしょうか」
「神力が多くなれば、神位が上がります。今私は上級神ですから、最高神へと至れるでしょう」
「最高神になりたいですか?」
「当然です。私達神々は皆、最高神を目指しておりますから」
よし。これなら十分に交渉できそうだ。
俺は異世界スローライフを目指す。出来ればウハウハ付きで。
そのためには圧倒的力が大前提。
邪魔者は排除すべし!
絶対に負けられない戦いがこれから始まる。
俺は頑張れば出来る子。今まで敢えて頑張っていなかっただけ。
地球では無価値だったけど、異世界で唯一無二の存在になる。
交渉ってどうやってやれば良いんだ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます