孤独な一人と繋がる複数。歩み始める。


あれから、いじめに耐えしのいだ僕は、小学校四年生へ進級した。


そして、その進級と共につむがれてきた心の糸が一気にほどけてしまうのを感じた。

始業式の次の日から学校へ登校する事ができなくなってしまっていた――。


辛い言葉を繊細な心に植え付けられ、まるで薔薇ばらのようなとげおおわれてしまった……心。

再起不能になる程の破壊力をこの身に浴びせられてしまった……身体。


無気力かつ、疲弊ひへいしている心と身体。


「いじめは絶対にしては行けない」


不登校になったあの日から僕の身には、もう一つ悲しい出来事が起こってしまった。


簡潔にいうと、と言えばいいだろう。


頭痛と気分の不調。その二つの症状が毎日、僕の生活に支障をきたすようになった。


身体は一時的に痩せ細り、経験したこともない頭痛と気分不調のダブルパンチで睡眠と食事は少量しか取れずじまい。寝ているとき以外は永遠に続く頭痛と気分不調。まさに地獄だと思った。なんなら、この酷い悪夢から解放されたいとまで思うようになっていた。そして、その延長線上に『死にたい。』と叫びたくなる、思いたくなる、自分自身が、そこにはいた。


当時を思うのであれば、この時の自分は限界に到達しかけていたとさえ思う。メーターの水位がドーンと急上昇し溢れんばかりの高水位に達していた。


今となっては、『死にたい。』なんて思ってしまった自分に嫌気が刺す。


あのとき、心の堤防が決壊して、自分の心情を口に出してとして吐き捨てていなければ、と思うと怖くてたまらない。それがなければ、父親があんなに親身になって、僕の事を想って、心の底から叱ってくれることは無かったと思う。


あのとき――。

叱ってくれている父親は泣いていた。

泣く姿を見たのは昔も今も最初で最後だと思う。


父親からしてみれば、息子が『死にたい。』なんて突然言い出したら、そうなるに決まっている。


「生まれてから父さんと母さんが大切に育ててきた大切な息子」


そう泣きながら言われたとき、『死にたい。』なんて言った自分の発言が生半可で馬鹿らしく、こんなにも重いものだったんだと実感すると同時に、その言葉を言ってしまったことへの後悔と罪悪感に苛まれたのを否が応でも思い出す。自分のした行為が情けなく恥じてしまう。


『頭を冷やして落ち着け!』と、最後に一発殴られたのだが、その一発が両親の愛情を肌身で感じることができ一番温かかった。


それから頭に血が通った僕は、頭痛と気分不調に慣れながら、少しづつではあるが、学校へ登校できるようになっていった。最初は別室登校だったのだが、進級するタイミングで教室へ戻り、ある程度、元通りの生活を送れるようになった。


しかし、それでも体調不良だけは元に戻ることはなく、現在に至るまで、いじめによる体調不良と付き合いながら進級、中高ちゅうこうへの進学をしていった。


度々、体調が凄く悪くなるときがある。

そんなとき、スクールソーシャルワーカーから、とある病院を紹介された。




病院へ通い始めると、薬物療法とカウンセリング療法の2つを行いながら徐々に回復していった。


『人と関わることは大切だ』


同じような境遇の方には特に伝えたい。

誰でも良いから自分をさらけ出せる存在。その相手へ自分の思いをしっかり伝えることが大切だ。それは、たわいもない会話でキャッチボールすることでも良い。自分が話したいと思った時に話す、それだけでもいい。


自分では、どうすることもできない。

不安。恐怖。焦燥しょうそうに駆られそうになった……。


そんな時は、相手を頼り自分から関わろうとすることで、きっかけを作り、その影響で周囲の人々が手を差し伸べて助けてくれるようになり、自分を取り巻く環境が変化し、進み始めるだろう。


一歩いっぽすことは間違まちがいなく大切たいせつなことだ。


そしてもうひとつ。勇気ゆうきのいることだ。

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