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私はクジラが好きだ。
初めて見たのはお父さんと船釣りに行った時で、三匹の親子が挨拶しに来てくれたのを今でも覚えている。
クジラは今まで見た生物の中で一番大きく、何か人智を超えた迫力がある。私は悠々と巨体を翻して泳ぐその姿に一目惚れしてしまったのだった。衝動に任せて海に飛び込みたかったけど、「クジラも家族水入らずで楽しんでるんだよ」と父に諭されたのは恥ずかしい思い出だ。
中学の時、クジラをまたこの目で見た。なんと無く乗り気がしない不愉快な人生の真っ只中で、授業をサボって一人で黄昏ていた時だ。
遠くで潮吹きの柱が見えて、私は悟ってしまった。私とクジラは運命で繋がっているんだと、私はクジラの為に生きていたんだと思う様になり、必死に海洋について勉強して、大学に入る頃にはクジラのことしか考えられない化け物の誕生だ。
気がつけば大学生。どうしてもクジラを見たくて、死ぬ気で稼いだお金で海外へ。
現地の人と頼り無さげなボートに乗って海の上を直走っていると大きな何かが見える。私はすぐに分かった。シロナガスクジラだ。地球最大の生物。明らかに今まで見たクジラとは訳が違う。生きているのかも分からないほど大きいが、目の前からは確かな鼓動を感じている。それが目の前に。
視界が弾けて脳に血が昇る。高まった私は自分を抑えられず、海へ飛び込んだ。
思ったより冷たい海水をかき分けて水面を泳ぐクジラへ駆け寄ろうとするが波が揺れて近づけない。それでも何とか泳いで頭の上にたどり着く。
「こんにちは!!!私、今すごい興奮してる。あなたと出会えて良かった!!大好き!!」
自然と言葉が出てくる。多分後で色々怒られるだろうしお金も払わなくちゃいけないかもしれない。けれど、それがどうでも良いぐらい興奮して、頭がいっぱいだ。もういっそのこと、ここで眠ってしまいたい。いつまでも貴方と一緒に。
ざぶん
いきなり海に放り出されて目にも鼻にも海水が入る。
私が最期に見たのはクジラが大きく口を開けて微笑んでいる所だった。
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