中二病少女と妹の邂逅
家へと続く石畳の道を歩くヒロとユキ。
「お兄ちゃん、あの、私、さっきはごめんなさい」
ユキは、俯きながら言った。
「気にするなよ。昔あんなことがあったんだ」
ヒロは、ユキの頭を撫でる。
「でも、怖かった。あんな奴らにまた会ったらどうしようって……」
「もう大丈夫だ。俺がそばにいるから」
ヒロは、ユキの手を握りしめ、優しく微笑んだ。
「うん……」
ユキは、ヒロの手を握り返し、安心したように頷いた。
二人は、並んで歩きながら、たわいもない話をした。今日の出来事や、学校のこと、そして、この先の不安について。
「お兄ちゃん、太陽は、また昇るのかな?」
ユキが、不安そうに尋ねる。
「きっと、昇るさ。そう信じよう」
ヒロは、力強く答えた。しかし、彼の心にも、拭い去れない不安が広がっていた。
「お兄ちゃんがいるから、大丈夫だよ」
ユキは、ヒロの手をぎゅっと握りしめた。ヒロは、ユキの言葉に励まされ、少しだけ気持ちが楽になった。
二人は、家が見えてくると、足早に玄関へと向かった。しかし、玄関の前に行くと、そこには思いがけない人物が立っていた。
「ふふふ、相棒! あなたと私は運命共同体なの! さあ、世界を救いに行きましょう!」
黒を基調としたゴシックロリータのドレスを身に纏った少女、マイが、満面の笑みでヒロの手を取った。
ユキは、突然現れたマイに驚き、警戒心を露わにした。
「お兄ちゃん……この子、誰?」
ユキは、ヒロに尋ねた。
「ああ、えっと……マイっていうんだ。今日、スーパーで会ったんだよ」
ヒロは、戸惑いながら説明した。
「マイさん? お兄ちゃん、この子に相棒って呼ばれているの?」
ユキは、ヒロに詰め寄った。
「え、ああ、まあ……」
ヒロは、マイから離れ、ユキの視線を避けるように答えた。
マイは、そんなユキを訝しげに見つめ、ヒロに尋ねた。
「相棒! そいつは一体何者!? まさか私という者がいながら別のパーティーメンバーを……」
「いや、こいつは妹だが」
ヒロは、ユキを紹介した。マイは、ユキをじっと見つめた後、突然、手を差し出した。
「はじめまして、ユキ。私は、光の巫女、ルミナス・プリーステス・マイ。あなたを、私の使い魔として認めるわ」
ユキは、マイの言葉に唖然とした。ヒロは、二人の間に入り、慌てて仲裁に入った。
「ちょ、ちょっと待ってくれ、マイ。ユキは、俺の妹なんだ。使い魔とか、そういうのは……」
「ふふふ、心配しないで、相棒。私は、ユキちゃんを傷つけたりしないわ。むしろ、彼女には、私と共に世界を救うという、重要な使命があるのよ」
マイは、不気味な笑みを浮かべながら、ユキに近づいた。
「お兄ちゃん……」
ユキは、不安そうにヒロに助けを求める。しかし、ヒロにはどうすることもできなかった。
「さあ、ユキちゃん。私と共に行きましょう」
マイは、ユキの手を掴み、玄関から外へ連れ出した。
「おい、待て! どこへ行くんだ!」
ヒロは、慌てて二人の後を追いかける。
「決まってるでしょ、相棒。私たちの英雄譚の始まりよ」
マイは、満面の笑みを浮かべて答えた。
「英雄譚って、一体どこへ行くんだよ!」
ヒロは、マイに尋ねた。
「ふふ、ふふふ」
マイは笑うだけだった。
「何も決まってないのかよ!」
ヒロは、マイの態度に苛立ちを覚えた。
「とにかく、ユキを連れて行くな!」
「ふぇ!?」
マイは、語気の強いヒロに驚き、思わず立ち止まった。
「お兄ちゃんっ!」
ユキは隙を突き、マイのもとを離れ、ヒロの後ろに隠れる。
「ユキ、大丈夫か?」
ヒロは、心配そうにユキを見た。
「うん……」
ユキは、ヒロの服の裾をぎゅっと掴みながら頷いた。
「ちょ、ちょっと! これじゃ、まるで私が魔王みたいじゃない!」
マイは、ヒロとユキの間に入り、抗議した。
「私は光の巫女よ! 悪の魔王じゃないわ!」
「いや、そもそもお前は何者なんだよ」
ヒロは、マイに尋ねた。
マイはその言葉にひどく動揺し、ショックを受けているようだ。
「あ、相棒が私のことを忘れるなんて……やはり、此度の災厄は強大のようね」
「いや、だからお前はなんなんだ」
ヒロは、マイに再度尋ねた。しかし、マイはペンとノートを取り出し、自分の世界に入りきっている。
「記憶を取り戻すには……頭を思いっきりぶっ叩く? いや儀式が必要よね、例えば……キ、キスとか……?」
マイは、ぶつぶつと独り言を言いながら、ノートに何かを記し始めた。
「マイ?」
ヒロは、マイの顔を覗き込みながら、彼女の名前を呼んだ。
「ひゃいっ!?」
マイは驚き、思わずペンを落としてしまった。
「あ、あの……マイ?」
ヒロは、ペンを拾いながらマイに尋ねる。
「な、何かしら?」
マイは、平静を装いつつ答えた。
「あの、キスとか聞こえたのですが」
「き、気のせいじゃないかしら?」
マイは、引きつった笑顔で答えた。
「そ、そんなことより行きましょう!」
マイは強引に話題を転換する。
「はあ……しょうがないな。ついていくよ」
ヒロは、ため息をつきながらも、マイの申し出を受け入れた。よくわからないが、マイを一人にするわけにはいかないと感じた。この状況下で、一人でいるのは危険すぎる。
「やったー! 相棒はやっぱり優しい!」
マイは、喜び勇んでヒロの手を握った。ユキは、その様子を複雑な表情で見つめていた。
「ユキ、お前は家にいるんだぞ」
ヒロは、ユキにそう言い聞かせようとしたが、ユキは首を横に振った。
「私も行く! お兄ちゃんが女の子と二人きりで出かけるなんて、放っておけるわけないじゃない!」
ユキは、ヒロの腕にしがみつき、離れようとしない。ヒロは、困り果てた表情でマイを見た。マイは、肩をすくめて答えた。
「仕方ないわね。ユキちゃんも一緒に連れて行くわ。もしかしたら、彼女も私の力になれるかもしれないし」
こうして、ヒロ、ユキ、マイの奇妙なトリオは、街へと繰り出すことになった。
*
「どこに行くんだ?」
ヒロは、マイに尋ねた。
「ふふふ、それは秘密よ。でも、きっとあなたも気に入るわ」
マイは、不敵な笑みを浮かべた。
マイが案内したのは、街外れにあるゲームセンターだった。薄暗い店内には、古びたゲーム機が並んでいる。しかし、マイの目的は、ゲームをすることではなかった。
「あれよ!」
マイは、UFOキャッチャーの景品を指差した。そこには、巨大なぬいぐるみが鎮座していた。それは、禍々しい触手を持ち、目がたくさんついた、クトゥルフ神話を彷彿とさせる不気味な生物だった。
「これは……何だ?」
ヒロは、思わず眉をひそめた。
「闇の眷属の化身よ! これを手に入れれば、ラグナロクが起こった原因についてきっと何か分かるはず!」
「北欧神話とこのクトゥルフ神話的な生物に何のかかわりがあるんだ……」
思わずツッコむ。
しかし、マイはそんなヒロのツッコみを無視して、目を輝かせながら、100円玉を投入した。しかし、何度挑戦しても、ぬいぐるみを掴むことはできない。
「くそっ! なんで取れないのよ!」
マイは、悔しそうに地団駄を踏んだ。
「よし、貸してみろ」
ヒロは、マイから100円玉を受け取り、UFOキャッチャーの前に立った。彼は、冷静にアームの位置を調整し、ボタンを押した。アームがゆっくりと下り、見事にぬいぐるみを掴み上げた。
「やったー!」
マイは、歓喜の声を上げ、ヒロに抱きついた。ユキは、その光景を見て、顔を真っ赤にした。
「お、お兄ちゃん!」
ユキは、マイをヒロから引き離し、自分の後ろに隠した。
「な、なんだよ、ユキ」
ヒロは、ユキの行動に戸惑った。
「別に……」
ユキは、顔を赤らめながら、そっぽを向いた。
「?」
マイはユキの行動を理解できていないのか頭に? マークを浮かべている。
「はい、これ」
ヒロは、マイにぬいぐるみを手渡した。
「ありがとう! 大事にするね!」
マイは、満面の笑みでぬいぐるみを受け取った。
「さて、用が済んだなら帰るか?」
ヒロは、マイに尋ねた。しかし、マイは首を横に振った。
「まだよ! 次は、あっちに行くんだから!」
マイは、ヒロの手を引いて歩き出した。その勢いに圧倒されながら、ヒロは、マイについていくことにした。
「ねえ、お兄ちゃん」
ユキが、小声でヒロに話しかけた。
「なんだ?」
「マイさんとは、どういう関係なの?」
ユキは、不安そうな表情を浮かべていた。
「うーん? なんだろう、昨日知り合ったばかりなんだよな……」
ヒロは、頭をかいた。ユキは、疑いの眼差しを向けている。
「本当? 何か隠してない?」
「いや、別に何も……」
ヒロは、言葉を濁した。
「ふーん、そう」
ユキは、納得していない様子だったが、それ以上追及はしなかった。
3人は、しばらくゲーセンで遊んだ後解散することになった。ちなみに支払いはヒロ持ちだった。兄の懐事情を知ってか知らずか、ユキは散財をした。
*
次の朝、ヒロのスマホが再び鳴り響いた。学校からのメールだ。ユキと顔を見合わせ、おそるおそるメールを開く。
「明日から学校、段階的に再開だって」
ヒロは、驚きと安堵が入り混じった声でユキに伝えた。ユキは複雑な表情を浮かべた。
「学校……」
「ああ、でも、これで少しは日常が戻るかもな」
ヒロは、ユキの頭を優しく撫でた。ユキは、小さく頷きながらも、どこか不安そうな様子だった。
「ユキ、何か心配なことでもあるのか?」
ヒロは、ユキの表情を見て尋ねた。
「ううん、別に……」
ユキは、首を横に振った。しかし、ヒロには、彼女が不安を隠していることが分かった。
「もし、何かあったら、いつでも言ってくれよ。俺が守るから」
ヒロは、ユキの手を握りしめ、力強く言った。ユキは、ヒロの言葉に安心したのか、小さく頷いた。
その日は、二人で家で過ごした。テレビゲームをしたり、アニメを見たり、たわいもない話をしたり。太陽が昇らないという異常事態の中、束の間の平和な時間が流れた。
「お兄ちゃん下手すぎ……」
ユキは、ヒロのプレイを見てクスクス笑った。
「お前がうますぎるんだよ……」
ヒロは、苦笑いしながら答えた。ユキのゲームの腕前はプロ級で、ヒロが勝てる相手ではなかった。
「でも、楽しかった」
ユキは、満足そうに微笑んだ。
「俺も、楽しかったよ」
ヒロも微笑み返した。ユキが楽しんでくれたことが何よりも嬉しかった。
しかし、夜が更けると、ユキは再び不安そうな表情を見せた。
「お兄ちゃん、明日、学校に行くの?」
「ああ、行くよ」
ヒロは、ユキの頭を優しく撫でた。
「私も一緒に行く……」
ユキは、ヒロの服の裾をぎゅっと握りしめた。
「ユキは、まだ家でゆっくりしていた方がいいんじゃないか?」
ヒロは、心配そうにユキを見つめた。
「でも、お兄ちゃんと離れたくない……」
ユキは、涙を浮かべながら訴えた。ヒロは、ユキを抱きしめ、優しく言った。
「安心しろ。何かあったらいつでも帰ってくる」
「約束だよ?」
ユキは、そう言うと安堵したようにヒロに抱きついた。
*
翌日、ヒロはいつもより遅い時間に家を出た。ユキは、昨日よりも落ち着いており、笑顔でヒロを見送った。
「お兄ちゃん、行ってらっしゃい」
「ああ、行ってきます」
ヒロは、ユキに手を振り、学校へと向かった。彼の心には、ユキへの心配と、学校で何が待ち受けているのかという不安があった。しかし、同時に、この異常事態を乗り越えるために、日常を取り戻さなければならないという思いがあった。
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