第7話 メビュラス星人の逆襲。
それから一週間くらい経ちました。でも、瓜生先生・・・
ではなくて、メビュラスは、目立った行動をしませんでした。
学校でも、普通に生徒たちに接して、何もなかったかのように授業をします。
授業中に、私たちと会っても、他の生徒と同じように接してくれました。
それだけに、私は、ちょっと怖くなりました。
また、事件らしい事件もなく、バッヂが光ることもなく、お兄ちゃんの出番はありませんでした。
こんな平和な毎日が続けばいいなと思っていたけど、そんな訳がありません。
それから数日過ぎたころ、バッヂが光りました。事件の知らせです。
私は、ため息とともに、緊張感を感じながら、いつものように授業が終わると同時に、タブレットを持って校舎の屋上に向かいました。そして、後から、お兄ちゃんがやってきました。
「遅いよ、お兄ちゃん」
「京子ちゃんと、おしゃべりしてたんだよ」
「そんなの理由にならない」
私は、思いっきり却下してやりました。タブレットを開くと、どうやら飛行機が故障で今にも墜落しそうということでした。
今は、残りのエンジンでどうにか空を飛んではいるものの、次第に海に向かって高度が落ちてきているらしい。
「お兄ちゃん、急いで」
「わかってるよ。場所は、羽田沖だな」
お兄ちゃんもさすがに危機感を感じて、すぐに胸のバッヂで変身した。
マントを羽織って、仮面を被った。
「おっと、いけない、忘れてた」
お兄ちゃんは、ポケットから、コピーロボットを出して、鼻をチョンと触る。
「ハ~イ、呼ばれて飛び出ちゃいました」
能天気な声が聞こえて、一気に脱力する。
「あとを頼むぞ」
「お任せ下さい、わたるくん」
「京子ちゃんには、変なことするなよ」
「しないよ。安心して行ってきて」
「大丈夫かな・・・」
「いいから、お兄ちゃんは、早く行って!」
私は、お兄ちゃんとコピーの交わらない会話を途中で強制的に終わらせた。
お兄ちゃんは、手を振るコピーに見送られて、空を飛んで行く。
「お兄ちゃん、そっちじゃなくて、反対だって」
相変わらず、方向音痴で困る。私は、急いでタブレットのマイクに向かって、方向を修正するように叫んだ。
「コピーも、教室に戻って」
「ハイハイ、了解です」
コピーもやっぱり、お兄ちゃんのコピーだけに、言動が同じなので手が焼ける。
コピーは、足取りも軽く、屋上から出て行く。ところが、そのコピーが戻ってきた。
「どうしたの? 早く行って。授業が始まるでしょ」
私は、タブレットを見ながらコピーに声だけをかけた。
「美月さん・・・」
コピーが震える声で私に話しかけた。
「なにをしているのかと思えば、こんなとこで、何をしてるんですか? 今は、授業中だぞ」
声に気が付いて振り向くと、そこにいたのは、先生に化けたメビュラスでした。
私は、慌ててタブレットを閉じる。
「なるほど、正義の味方が、地球の平和を守る活動ですか。相変わらず、くだらないことをしてるな」
先生は、私を見下ろして言いました。悔しいけど、今は、それどころではない。
先生の相手をしている暇はない。
「コピー、ここはいいから、早く教室に戻って」
「これは、よく出来てるコピー人形ですね。これで、お兄さんの代わりをさせるということですか。考えたね」
「いいから、早く行きなさい。授業が始まるわよ」
「ハ、ハイ」
そう言うと、コピーは、急ぎ足で屋上から出て行く。
「おっと、待った。そうはさせないよ」
先生は、そう言うと、指先から稲妻のような光線を放った。それが、コピーに命中すると、お兄ちゃんの姿をしているコピーロボットが、元の人形に戻ってしまった。
「あっ!」
「これで、兄妹揃って、授業をサボったことになるね。担任に報告しておくよ」
「なにすんのよ!」
「こんなことしても、もうすぐ、地球は、俺のものになるんだから、無駄なことをするなよ」
先生は、床に転がっているコピーロボットを足で蹴り上げました。
私は、急いでそれを拾いました。よかった、とりあえず、どこも壊れていない。
ショックで、元のコピー人形に戻っただけらしい。
「ほらほら、見習いスーパーマンが呼んでるよ」
先生に言われて気が付けば、タブレットからお兄ちゃんの声が聞こえた。
「あっちに行ってください。私もあなたの邪魔はしないから、先生も邪魔しないでください」
「ハイハイ、わかったよ。でも、さっきも言っただろ、無駄なことをするなって・・・」
そう言いながら、先生は、屋上を出て行きました。
私は、その背中を思いっきり睨みつけてやりました。
『美月、美月、どうした? 返事してくれ』
タブレットからお兄ちゃんの声が聞こえた。私は、急いで通信を返す。
「ごめんお兄ちゃん」
『どうした? なんかあったのか?」
「あとで説明する。それより、そっちはどう?」
『何とか間に合った。このまま、羽田空港まで飛行機を支えて着陸させる』
「ケガ人とかいるの?」
『わからないけど、たぶんいないと思う』
「機体は、燃えたりしてるの?」
『消したから大丈夫だ』
「がんばって、お兄ちゃん」
『任せろ』
私は、通信しながらタブレットを見ると、間もなく空港だった。
空港には、知らせを聞いて、消防車など、救助隊が待っている。無事に着陸させれば大丈夫だ。
それよりも、コピーのこともバレたし、こうしてお兄ちゃんと通信していることもバレてしまった。こっちの弱みばかりを握られて、私は、心から悔しかった。
このままじゃ、やられっ放しだ。何とかして、逆転する方法はないか考えたい。
少しして、お兄ちゃんが戻ってきた。
「お帰り、お兄ちゃん。お疲れ様」
「もう、疲れたよ。ジェット機って、重いのなんの、たまんないよ」
ジャンボジェットを一人で支えながら空港に着陸させるなんて、お兄ちゃんしかできないことだ。
マントをはずして、仮面を脱ぐお兄ちゃんに、さっきのことを話した。
「ごめん、お兄ちゃん。コピーのこととかバレちゃった」
私は、そう言って、コピーロボットを見せた。
お兄ちゃんは、それを黙って受け取ると、こう言った。
「壊れていないか?」
「たぶん・・・」
試しにお兄ちゃんは、コピーの鼻を触った。すると、もう一人のお兄ちゃんが現れた。
「コピー、大丈夫か?」
「まったく、ひどい目にあったよ。あいつ、誰?」
本物のお兄ちゃんとコピーのお兄ちゃんが話している。
「とにかく、ケガとか故障がなくてよかった」
「当り前だよ。俺は、わたるくんのお父さんが作ったんだよ。ちょっとやそっとで壊れるわけがないだろ」
それを聞いて、私は、安心した。やっぱり、お父さんてすごい。
「とにかく、今は、授業に戻るぞ」
「先生に、なんていうの?」
「適当に誤魔化せ。それと、これからは、屋上で通信しない方がいいかもしれないな」
「でも、学校の中じゃ、他に場所がないわ」
「それは、後で考える。とにかく、教室に戻るんだ」
コピーを元の人形に戻すと、私とお兄ちゃんは、教室に戻ることにした。
もちろん、教室に戻ると、早速、先生に理由を聞かれたけど、お腹が痛くなったから保健室で休んでいたと適当に理由を作って誤魔化した。
それにしても、考えることが多すぎる。こんな時に、お父さんがいてくれると、相談出来るのに・・・
思っていても、仕方がないことだけど、今は、お父さんしか思いつかなかった。
放課後になって、私は、もう一度、お兄ちゃんと話し合った。
今日は、部活どころじゃないし、陸上をやる気分でもないので、サボることにした。
「とにかく、今後のことを考えないと、あいつにやられっ放しよ」
「でもな、あいつが何をしようとしているのか、何をする気なのか、わからないんじゃ手を出しようがないじゃないか」
「だって、このままじゃ、どっかの誰かに、地球をあげますって言わせるのよ。もし、そんなことを言ったら、地球は、あいつのものになるのよ。そんなの悔しいじゃない」
「そんな人いないって。安心しろよ。自分の星を、宇宙人にあげるような人間は、いないよ」
「そうだといいけど・・・」
お兄ちゃんは、そう言うけど、私は、心配で仕方がない。
いう人はいなくても、言わせることはできる。宇宙人だから、なにか超能力でも使って言わせることはできるはず。
それが騙されて言わされたことでも、言ったことには変わりはない。
それなのに、お兄ちゃんは、京子先輩とデートだからと、さっさと帰ってしまった。地球の危機なのに、デートする方が優先するなんて、信じられない。
私は、一人怒りながら帰宅することになった。
帰宅した私は、ブレンダーを相手に、お兄ちゃんの悪口とか愚痴を一方的に話す。
ブレンダーは、ただ黙って聞いているだけでも、話したことで、少しは楽になった。
夕方になって、暗くなってきたのに、お兄ちゃんがまだ帰ってこない。
いつまでデートしてるんだろう? 今夜の食事当番は、お兄ちゃんなのに・・・
そんなことを考えていると、お兄ちゃんからメールが来た。
『京子ちゃんが、消えた』
メールには、その一言だけが書いてあった。私は、それを見た瞬間、血の気が引いた。
まさか、あいつは、京子先輩に、地球をあげますと言わせようとしているのか・・・
その為に、拉致したのか? お兄ちゃんと京子先輩のことを知っても不思議はない。
私は、事の重大さを感じて、すぐにお兄ちゃんに電話した。
「もしもし、お兄ちゃん、京子先輩は?」
『ウチに帰ってないって言うんだ。駅前で、お茶して別れたんだ。なのに、今になっても帰ってないって、京子ちゃんのお母さんから連絡が来て、探してるところ』
「もしかして、あいつが京子先輩をさらったなんてことはないよね?」
『まさか・・・』
「だって、お兄ちゃんの弱点は、京子先輩でしょ」
『バカなことを言うな。京子ちゃんは、関係ないだろ』
「お兄ちゃんが手出しできないように、人質にしたのかもしれないわよ」
『そんな・・・』
「あいつ、京子先輩に、地球をあげますって言わせる気かもよ」
『そんなこと、京子ちゃんが言うわけないだろ』
「そんなことわかってる。でも、あいつがどんな手で言わせるか、わからないわよ」
『くっそ・・・ 京子ちゃんに指一本でも触れたら、俺は、許さないから』
そう言うと、電話が切れた。それ以上、呼びかけても、お兄ちゃんは電話に出てくれない。
「どうしよう・・・」
私は、無い知恵を絞って考えた。こんな時に、お父さんがいれば・・・
でも、今は、そんなことを思っても仕方がない。私も京子先輩を探しに行こう。
「ブレンダー、いっしょに来て。京子先輩を探すわよ」
「ワン」
私は、ブレンダーを連れて外に出た。そして、バッヂを使って、お兄ちゃんに連絡する。
「お兄ちゃん、今どこ? あたしもいっしょに探すから、今、ブレンダーもいるから」
『それじゃ、学校で待ってる』
そう言うので、私は、お兄ちゃんが待つ学校に向かった。
校門の前で、お兄ちゃんと合流すると、私は、ブレンダーにニオイを嗅いで探すように言った。
お兄ちゃんが借りたまま返し忘れたハンカチがあったので助かった。
ブレンダーは、そのニオイを嗅ぐと、鼻を地面に近づけて、歩き出した。
私とお兄ちゃんは、ブレンダーの後をついて歩く。ブレンダーは、ニオイを嗅ぎながら歩き続けた。
学校からお兄ちゃんと歩いた駅前のカフェに着いた。そこから、途中までお兄ちゃんといっしょだった。
しばらく歩くと、左右に別れる道がある。右に行くと京子先輩のウチで、左に曲がると私たちのウチだ。
ブレンダーは、迷うことなく右に曲がった。このまま少し歩けば、京子先輩の自宅に着くはず。しかし、ブレンダーは、自宅に着く前に足が止まった。
「ワンワン」
「どうしたの?」
「クウゥ~ン」
ブレンダーは、ニオイの追跡をやめて、空を見上げた。空は、すっかり暗くなっていた。
「どうやら、ニオイは、ここで途切れているみたい。だから、ウチには帰ってないのよ」
「途切れているって、どうして?」
「きっと、ここで、あいつに会ったのよ。それで、連れ去られた」
「まさか・・・」
「だって、これ以上、京子先輩のニオイがないのよ。それしか考えられないじゃない」
「ニオイがないということは、車か?」
「きっと、違うわ。空よ」
「空?」
私とお兄ちゃんは、暗くなった夜空を見上げた。
「あいつは、ここで京子先輩を待ち伏せた。どういう方法かわからないけど、京子先輩をさらったのよ。
しかも、ニオイが付かないように空に逃げた。それしか考えようがないと思う」
「それじゃ、追跡できないじゃないか」
お兄ちゃんが悔しそうに足を踏み鳴らした。
「ブレンダー、何とか追跡できない?」
こうなると、頼りになるのは、ブレンダーの鼻だけだ。
「ワン」
ブレンダーが、夜空向かって一つ鳴いた。
「空から追跡するの?」
「ワオォ~ン」
自信があるのか、遠吠えをして、夜空を見上げた。
「行ってみよう」
お兄ちゃんが言うのと同時に、バッヂを使って、素早く変身した。
私は、ブレンダーをジェットモードにチェンジさせて、背中に乗ると夜空に向かって飛び立った。
「頼むわよ、ブレンダー」
私は、祈るような気持ちでブレンダーに話しかけた。
京子先輩のニオイが風に乗って流れているらしく、ブレンダーは、すっかり暗くなった空を旋回したり、右に行ったり左に行ったりしながら飛び続けた。
しばらく空を飛んでいると、急にブレンダーが下降を始めた。そして、地面に降り立った。
「ワンワン」
ブレンダーが大きく鳴いた。
「ウゥゥゥ~」
元のハスキー犬の姿に戻ったブレンダーが、キバを剥いて威嚇の声を出した。
「近くにいるのね」
「ワンワン」
ブレンダーが、激しく鳴いた。
そこは、河川敷がある広場だった。すぐそこには、川が流れていて、公園や野球のグランドがあった。
今は、夜なので、誰もいない。河川敷には、私の腰くらいまでの草が生えている。
それをかき分けながら川岸に向かって歩いてみた。
「京子ちゃ~ん」
お兄ちゃんが京子先輩を何度も呼んだ。
「京子ちゃ~ん、どこにいるんだ? いたら、返事をしてくれ」
お兄ちゃんは、変身したままの姿で、京子先輩を夢中で探し回る。
「ブレンダー、京子先輩は、どこにいるの?」
すると、ブレンダーは、口を大きく開くと、小型ミサイルを発射した。
私の命令を聞かないで、自分から攻撃するなんて絶対にない。
ブレンダーが自ら相手に攻撃をするなんて、私には信じられませんでした。
「ブレンダー!」
私は、ブレンダーを𠮟りつけるように大きな声を上げた。
しかし、ブレンダーは、私の声など聞こえないのか、続けて目から光線を出す。
「ブレンダー、やめなさい」
私は、ブレンダーに抱き付いてそれを止めると、ブレンダーは、おとなしくなった。
「どうしたの、ブレンダー」
私は、ブレンダーの顔をじっと前から見つめた。
その時だった。草むらをかき分けながら、あいつが歩いてきた。
「さすが、犬だな。ロボットでも、ニオイは嗅ぎ分けられるらしいな。それにしても、いきなりミサイルをぶっ放すとは飼い主思いの犬だな。その犬を褒めてやれ。もし、ミサイルで攻撃しなかったら、お前たちは、いまごろ、死んでるぞ」
先生の姿のまま、言いながら現れた。
「ブレンダー、そうなの?」
「クウゥ~ン・・・」
ブレンダーは、小さく鳴くと、私の顔をペロッと舐めた。ミサイルを発射したばかりなので舌が熱い。
「メビュラス、京子ちゃんをどうした?」
「どうもしないよ。ちょっと、付き合ってもらっているだけだ」
「京子ちゃんを返せ」
「もちろん、すぐに返すよ。その前に、あの子には、地球をあげますと言ってもらうけどね」
やっぱり、そのつもりだったのか・・・ 私の嫌な予感が的中した。
「京子ちゃんは、どこだ?」
お兄ちゃんが叫んだ。すると、メビュラスの後ろから京子先輩が現れた。
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