第4話 宇宙人がやってきた。
そんなことがあってから、しばらくは、平和な毎日が続いた。
事件もなく、私は、陸上部に、お兄ちゃんはサッカー部と京子先輩とデートで忙しい。バッヂが光らないのが、私には、うれしかった。
そんなある日、いつものように帰宅すると、家の玄関の前に人だかりができていた。何事かと思った。まさか、泥棒とか空き巣とか・・・
私とお兄ちゃんは、急いで家に向かった。すると、そこには、知らない男女が数十人集まっていた。
「あの、このウチに何か御用ですか?」
押し売りとかだったら、お兄ちゃんに追っ払ってもらおう。
知らぬこととはいえ、正義の味方のウチに押し売りなんて、来たほうが悪い。
すると、その中から、スーツ姿の中年の男性が一歩踏み出すと、こう言った。
「あなたたちが、宇宙刑事のお子様たちですか?」
「ハイィィ?」
私が驚いて目を白黒していると、その場にいた人たちが声を合わせてこう言った。
「お帰りをお待ちしておりました。お話があります」
「ここじゃなんだから、お邪魔してもいいかしら?」
「おい、みんな、我らの救世主のお帰りだぞ」
私もお兄ちゃんも頭に?マークがいくつも浮かんで見えた。
救世主とか、宇宙刑事のお子様とか、いったい、この人たちは、誰なんだろう?
「とにかく、ここじゃ、人目に付くから、中で話をしましょう」
そう言うと、鍵をかけたはずの玄関を勝手に開けて入って行った。
「ちょっと、待ってよ。ここは、あたしたちのウチよ。勝手に入らないでよ」
思わずそう言っていた。人んちなのに、勝手にカギを開けて入って行くなんて、信じられない。
「お兄ちゃん、何とかしてよ」
「なんとかって言っても・・・」
こんな時に頼りにならない、正義のヒーローなのだ。お兄ちゃんは、及び腰だ。
なぜか、自分の家なのに、私たちがあとから家に入るという、限りなく不思議で、おかしな展開になった。
「なかなか、いいウチね」
「きれいにしてるわね」
「地球人というのは、こんな家に住んでいるんだな」
「こらこら、勝手に人のウチの中を見てはいかん」
「ねぇねぇ、これ何かしら?」
「しかし、地球人て狭いところに住んでいるんだな」
口々に勝手なことを言って、ウチの中をうろうろしている。
「ちょっと、アンタたち、いい加減にして」
私は、ブチ切れて大声で叫んだ。
「ブレンダー!」
私は、大声でブレンダーを呼んだ。
二階の部屋からブレンダーがすっ飛んできた。そして、私の前に降り立つと、シッポをピンと立ててキバを剝いて威嚇の姿勢を取る。やはり、こんな時は、頼りになるのは、ブレンダーだ。お兄ちゃんとは、比べ物にならない。
「驚かせて申し訳ない。ここにいるみんなは、宇宙人なんだ。でも、侵略宇宙人ではないから、安心してくれ」
やっぱり、そうだと思った。普通の人が、こんな非常識なことをするわけがない。
「ブレンダー、もう、いいから、おとなしくして」
そう言うと、ブレンダーは、私の横にちょこんと座った。
「それで、話を聞きましょうか」
私は、お兄ちゃんに代わって、話を聞くことにした。こんな時、お兄ちゃんは、感情的になるので話をちゃんと聞けないのだ。
「私は、メガロン星人。いて座流星群の第16惑星から来た者です」
「あたしは、ルーラン。これでも、鳥だから。宇宙の渡り鳥で、この地球に来たの」
「俺は、ニックル星から、地球に観光にきた」
「ぼくは・・・」
「もう、いいから。自己紹介は、その辺でいいです。どうせ、全員、覚えられないし」
私は、途中で強引に会話を遮った。
「それで、このウチに何の用なの?」
「そうそう、大事な話を忘れていた」
スーツ姿の男が真面目な顔で言った。
「聞いての通り、ここにいる連中は、みんな目的があって、地球にきた。もちろん、侵略するためではない。その点だけは、安心してほしい」
「ハイハイ、わかったから、その続きは」
私は、話の続きを促した。
「実は、ここにいるみんなは、少し前から地球にきた。地球人の姿に変身して、普通に生活していた。
ところが、ある奴から強制的に退去するようにという命令が来た」
「あたしたちは、納得いかないし、そんなのあたしらの自由でしょ。別に、地球で何かしようと思ったわけじゃないのよ」
「しかし、あいつは、腕ずくでも強制的に、地球から出て行くように言ってきた」
「逆らっても、あいつは強い。だから、イヤでも出て行くしかない」
「私たちだけではない。地球にいる宇宙人、全員に退去命令が来たんだ」
「そこで、わしたちは、相談して、ここに来れば、何とかなるだろうと思って来たんじゃよ」
話を聞いてもさっぱりわからない。出て行けというなら、出て行けばいいと思うし、私たちにしてみたら、勝手に地球に観光に来られても困る。
「それで、そのあいつって誰よ?」
「メビィラス星人さ」
「誰それ?」
「宇宙の嫌われ者さ」
私は、それが誰だか知らないけど、宇宙の嫌われ者と聞いたら、眉に皴が寄る。
「あいつは、ずる賢くて、口が達者で、利用するものは何でも利用する、手段を択ばない卑劣な奴だ」
スーツ姿の男が、顔を顰めながら言った。
「あいつは、星を乗っ取って、自分たちの植民地にするんだ。言葉巧みにその星の人たちを騙して、星を乗っ取る、イヤな奴さ」
「その宇宙人が、地球に来るっていうの?」
「もう、来てるのさ」
「えっ!」
それは初耳だった。それなら、お父さんか宇宙警察から、そんな悪い奴なら連絡が来るはずだ。思わずお兄ちゃんと顔を見合わせてしまった。
「それで、なんだっていうの?」
「地球を乗っ取るつもりだ。だから、俺たちのようなよそ者の宇宙人は、さっさと出て行けというわけさ」
「それで、あなたたちは、どうするの?」
「出て行くしかないさ。あいつに逆らっても負けるだけだからな」
「だけど、それじゃ、悔しいじゃない」
「だから、アンタたちなら、何とかしてくれると思ってきたんだよ」
そう言われても、私たちにもできることとできないことがある。
これは、出来ない案件だ。
「なんとかって言われても、あたしたちには無理よ」
「そんなこと言うなよ。アンタたちは、あの、宇宙刑事の子供たちだろ。何とかしてくれよ」
「それに、地球を乗っ取られたら、困るのは、アンタたちだろ」
確かにその通りだ。でも、星一つをそう簡単に乗っ取ることなんてできるのだろうか?
「わかったわ。お父さんに聞いてみるから」
私は、横におとなしく座っているブレンダーに言った。
「ブレンダー、お父さんに連絡して」
「ワン」
一つ鳴くと、ブレンダーは、何もない壁の前に進むと、両目が光った。
両耳の中から短いアンテナが飛び出して、宇宙衛星と通信を始める。
すると、壁にお父さんが映った。いわゆるスクリーンの役目をする。
テレビ電話みたいな感じで、どこの星にいても、お父さんとはこうして話ができる。
「美月、わたる、久しぶりだな。元気にしてるか?」
そこに映ったお父さんは、いつものお父さんだった。明るくて優しい笑顔だ。
「あたしたちは、元気にしてるわ」
「そうか、それはよかった。今、お父さんは、冥王星で惑星間戦争の仲裁で忙しいんだ」
仕事内容が、相変わらずぶっ飛んでいて、常識はずれの、すごい話でついていけない。
「あのね、お父さんに相談したいことがあるんだけど」
「どうした? なにがあった? 学校で何かあったか? それとも、彼氏でもできたのか?」
心配する内容が、宇宙刑事のレベルとは全然違う。これじゃ、普通のお父さんだ。
「そうじゃなくて、この人たちの話を聞いて欲しいの」
そう言って、今度は、宇宙人たちを映した。
すると、優しい顔のお父さんが、突然、目を吊り上げて、顔を真っ赤にして、本来の姿に変わった。
それは、銀色の顔に黄色く光る大きな目が特徴で、顔の表情がまったくない、まさしく宇宙人という感じだった。
お父さんのホントの顔を見るのは、何度もあったけど、いまだになれない。普通の人間の顔をしている方が私は好きだった。
そんな私とは反対に、お父さんの顔を見た途端、周りにいた宇宙人たちは、一斉に跪いて両手と額を床について頭を下げた。
「そこにいるのは、宇宙人たちだな。何の用で、私のウチにいる?」
「ハ、ハイ、実は・・・」
さっきまで、高圧的で、上から目線で話していた人たちが、声を震わせて、顔も上げることができずにいるのがなんだか不思議だった。
お父さんて、そんなにすごい人なのか?
お父さんは、宇宙人たちの話を聞いて、少し納得したのか、再び普通の人間の顔に戻ると難しい顔をしながら話し始めた。
「わかった。実は、お父さんも、その話は、聞いていたが、事実確認が遅れたようだ。美月たちに話をする前に先を越されたようだな」
お父さんも星を乗っ取るという宇宙人の話は知っているようだった。
「お父さんは、冥王星にいるから、すぐには助けに行けないが、美月もわたるも気を付けるように。もし、そいつを見つけても、決して、手を出したりするな。特にわたる、注意しなさい。あいつは、手ごわい奴だ。まだまだ、わたるの手に負える相手ではない」
そんなに強いのか? お父さんが言うんだから、きっと強いんだろう。
「いいか、もし、見つけても自分たちでどうにかしようとするなよ。わかったな」
「ハイ、わかりました」
「よしよし、美月は、いい子だな」
そう言うと、お父さんは、ニコニコしながら優しい顔になった。
「宇宙警察には、お父さんから連絡しておくから、心配しなくてもいい」
そう言ってもらえて、私は、心底ほっとした。
「それと、そこのお前たち」
「ハ、ハイ」
今度は、さっきから土下座している宇宙人たちに言った。
「私の子供たちに指一本でも触れたら、即刻、宇宙警察に通報するから、わかっているな」
「ハイ、承知いたしました」
「美月、心配しなくても、そこにいる奴らは、みんな普通の宇宙人だから、安心しなさい」
普通の宇宙人て、どう言う宇宙人なのか、私はわからない。
でも、そこは、あえて突っ込まずにスルーすることにした。
「そう言うことだから、そこにいるお前たち、それと、地球に滞在している宇宙人たちも、地球を出て行くことはない。あいつごときが、強制退去などと命令する資格はない。だから、安心して、地球を楽しんで構わん」
「ありがとうございます」
「ただし、私の子供たちに・・・」
「それは、大丈夫です。ご子息とお嬢様には、決して、指一本触れることは致しません」
「わかればよろしい。それじゃ、美月、わたる、気を付けろよ。何かあったら、すぐにお父さんに連絡するんだぞ」
「ハイ」
「それじゃ、またな、元気でな」
そう言って、お父さんは、消えてしまった。
通信が切れると、ホッとしたのか、宇宙人たちは、一気に体から力が抜けたのか、グタッとする。
態度が極端すぎる。お父さんがいるといないとじゃ、態度が全然違う。
「とにかく、出て行かなくていいなら、よかったじゃない」
「でも、あいつに見つかったら・・・」
「大丈夫よ。地球は広いのよ。そんな簡単に見つかるわけないじゃない」
地球は広くて大きい。この星には、何十億人て人がいる。その中から、宇宙人と出会う機会なんてあるわけがない。そんな偶然があったら怖い。
私が、言える立場じゃないけど・・・
「なんだか、ホッとしたら、腹が減ったな」
「そうね。安心したら、お腹が空いたわ」
「ねぇ、なんか食べるものないの?」
「地球に来たら、カレーにラーメン、お寿司と焼き肉って、本に書いてあったわ」
「特に、日本ていう国は、食べ物がおいしいらしいぞ」
「ちょっと、そこの姉ちゃん、なんか作ってよ」
なんだその態度は。お父さんの前じゃ、ヘコヘコしてるのに、いなくなった途端にこの態度。それに、ここは私のウチじゃない。その人に向かって、姉ちゃんて、口の利き方に気を付けてほしい。
「カレーでよかったら、作り置きがあるけど、食べますか?」
なにを言ってんのよ。お兄ちゃんて、ホントのバカですか? どこの世界で、宇宙人に御馳走する地球人がいるのよ。
お人好しにもほどがある。もはや、お人好しを通り越して、大バカ三太郎だ。
「ちょっと、お兄ちゃん」
「いいじゃないか。昨日のカレーが、まだ、たくさん残ってるし、河童たちにもらったキュウリもあるだろ」
「そうじゃなくて」
「今、ご飯を炊きますね」
「だから、そうじゃなくて・・・」
ダメだ。お兄ちゃんは、やっぱりバカだ。何にもわかってない。
「お嬢さん、これに書いてあるけど、カレーというの食べたことあるんですか?」
そう言って、スーツ姿の男が見せたのは『地球の歩き方・日本編』というガイドブックだった。
どっかで見たことあるけど、そんな本が宇宙に出回っているのが、意味がわからない。思わず手に取ったら、中身は、全く読めない宇宙語で書かれていた。
写真だけなら、浅草寺、富士山、大阪城、東京タワーなど、私でも知ってる有名な観光地が乗っていた。
宇宙人でも、こんなとこに行くのかと思うと不思議だった。
これじゃ、まんま観光じゃないか・・・
そんなこんなで、賑やかな宇宙人たちは、ウチに居候することになった。
「あのさ、ウチは、ホテルじゃないんだから、他所に泊まったら」
「だって、ここのが安全じゃないか。あいつに見つかっても、守ってくれそうだし」
「そうそう、気にしない、気にしない」
「気にするわよ」
ウチをホテル代わりに使われるこっちの身にもなってほしい。
お金を取れるわけじゃないのに、これじゃ迷惑千万だ。
てゆーか、私たちの夕飯は、どうなるの? こんな大勢いたら、私たちの分なんてあるわけがない。
お兄ちゃんのことだから、自分たちの分など、考えてないと思う。
私は、かなり絶望的な気持ちになった。そんなときでした。玄関のチャイムが鳴りました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます