Life is but a walking shadow. ── William Shakespeare
Friend
「……
月が綺麗な夜。夜風を感じていた彼の目の前に“その声”は突然やってきて、視線を攫った。瑞綺は眉根を寄せて、微かに拒絶の意を伝える。しかしその細やかな抵抗さえ、“その声”には届いていないように思えた。
「最近あの子に甘くないか。
あの時もそうだ、そうやって簡単に心を許せば、いつかボロが出る」
静かで鋭利な声が心に刺さる。あの子の明るい髪が視界いっぱいに広がって、やがてゆっくりと霞んでいった。
「……君には関係ないだろう?」
「もっと口を閉ざした方が良い、その
「五月蝿いな。良いんだよあの子が褒めてくれたんだから」
「ほらまたそうやって」
苛々と“その声”を睨みつけると、彼は挑発するように笑う。それが余計に虚しくて、瑞綺は拳を握りしめた。
「⬛︎⬛︎⬛︎、やめてあげてよ。
瑞綺が頑張ってるの、貴方も知ってるでしょう?」
二人の会話にもう一人、女性の声が混じる。
「良い? 私たちは繋がってるの。
違うけど、元は同じ。だから大切にしないと」
諭すように声を掛ける彼女を睨み、⬛︎⬛︎⬛︎は口を開く。
「だいたいお前がいるから、瑞綺は俺になりきれないんだ」
彼女の顔にすぅっと影が差し込み、ゆっくりと広がる。瑞綺は慌てて⬛︎⬛︎⬛︎に手を伸ばした。
「⬛︎⬛︎⬛︎待って」
「そんなことないわ、私だって生きてるのよ?」
「じゃあ今すぐ死んだ方がいい。
「⬛︎⬛︎⬛︎…違う……」
彼女の声を切り捨てて、⬛︎⬛︎⬛︎はそう言い切る。彼女の目からゆっくりと雫が溢れ出した。瑞綺は声にならない心を呑み込んで、静かに俯く。その鍵の掛かった想いにも、棘は容赦なく突き刺さる。
「
「
「嗚呼、違う…違うんだよ……」
カーテンが月光を受け優しく光る。そこに映る一つの影。
「アンリ様?」
使用人の一人がそっと部屋を覗いた。そこには風に吹かれる青年が立っている。その瞳から一筋の涙が伝い、夜空に堕ちた。誰にも届かない想いは、儚く夜に消える。
「ん、どうかした?」
彼の美しい横顔には、青みがかった影が差し込んでいた。使用人はひとつ息を溢してから、微かに首を捻る。
「いえ、今他の人の声がしませんでしたか?」
「まさか」
そう尋ねると、彼は静かに微笑んだ。またひとつ。哀しげな影が肌に落ちる。
「……
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