kuro.02
焼けたビルには飲食店が入っていた。いわゆる飲み屋で、居酒屋みたいな中華屋みたいな店であった。経営していたそこの家族は逃げて無事だったのだが、しかしその一方で奇妙な話をしているとの噂だった。
「虎が出たのよ、虎。炎の燃える虎」
その真偽を確かめるため、クロは、焼けたビルを調べるように、中に入ったのだった。ところどころ触るだけで崩れてしまうほどに炭になっている。大炎上したのであろうことが、よくわかる。もうほとんどものは残っていないし、柱や梁も黒くなってしまっている。どこにも虎なんて……いや……?
梁に飛び、登ったときだった。そこに爪痕を確認したのだ。それは明らかに獣の類の、しかもかなり大きな体を持っていることが類推できるような、そんな爪痕であった。
「まだこの街にいるっていうのか……それは、厄介だ。次々と燃やされては困る」
妖(あやかし)だか、妖怪だか、虎だか、炎だか知らないが、知ったことではないが、この街に仇なすというなら淘汰するまで。排除でも、駆除でもなんでもやってやる。怪獣だか、猛獣だか、妖怪だかのハンターになってやるよ、ケケケ。
俺はこの街そのものだ。彼女に託されたこの街だ。悪魔という彼女の気まぐれに惑わされ、神通力によって彷徨った死から助かって神様のような悪魔であって地縛霊のような存在になった。ヒト七割、その他三割でできた存在。それがクロと呼ばれていた一級虞犯少年、後にチュウカと呼ばれる少年、それが俺様のことだ。たぶんな。
クロは街を飛んだ。夜の街を飛んだ。屋根から屋根、電線から電線、看板から看板へと飛んだ。そして街を探したのだ。一晩探しまくった。虎の姿を求めて。燃えている虎だと言うならきっと夜であれば分かりやすいはずだ。光るように見えるだろうよ。そう思って。
見つけたのは火事だった。
今度も木製の家が燃やされた。轟轟と燃えさかり、全焼である。
クロは探した。犯行が起きた。それならば近くに、きっと。
目の前を、いや、後ろを遮った。
何か大きなモノが。
動いた。
何か大きなモノが、動いた。飛ぶように、跳ねるように飛んだその巨体は間違いない、縞が見える、間違いない、虎だ。
しかし、だけど。
クロは見失いそうになった。
それは明るい赤の炎ではなかったからだ。燃え上がる、全てを燃やし尽くすその炎は、赤ではなかった。赤色ではなかった。それは闇に、クロに溶け込む、黒い炎だったのだ。虎の全身を包み込むその黒い炎、そのさきから光って見える眼光が唯一、そいつが虎であると示している。唸るようにこちらを見ている。見つけた。見つめた。目を捉えた。クロは笑った。にやりと。
見つけたのであれば、もう勝ちである。その姿を捉えたのであれば、それはもう勝ちなのである。観念しろよ、連続放火魔。この街の悪魔が相手になってやるからさ。
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