第8話

「ああ、本当に来てくださったのですね!」

「はい」

「そっちこそ本当に待ってたのか……」

 僕らがかぐや姫の屋敷に入ってすぐ、かぐや姫の声がした。呆然としている竹取の翁と嫗に挟まれたかぐや姫は、僕らを見て顔をほころばせる。

 驚いたような呆れたような表情で自分を見つめる青年に、かぐや姫はしっかりとうなずいて微笑みかけた。

「ええ。あなた様を、お待ちしておりました」

 周りの人々は僕らを怪訝な目で見つめている。そりゃそうだ。このタイミングで突然現れて、かぐや姫とにこやかにことばを交わす二人組。怪しくないわけがない。しかも青年を見つめるかぐや姫の視線がこれじゃあね。

「かぐや姫。いつまで待たせるおつもりですか」

「もう少しだけ、待ってください」

 かぐや姫の正面に立って急かすように声をかける、これまた美形の女性。彼女は月からの使者だろうか。僕らを軽く睨んだ気がする。

 この場で動いているのは僕らと月からの使者のみ。それ以外の人はみな茫然と立ち尽くしてかぐや姫を見つめている。少し離れたところに立ってこちらを見ている男性は帝だろうか。他の人よりも着物が華やかだ。

「こちらを」

 かぐや姫は小さな壺を竹取の翁に渡した。続いて、手紙を帝に。この場面はよく知っている。いよいよかぐや姫が月に帰るときが近づいてきたようだ。

「こちらは蓬莱、不死の薬です。お召し上がりください」

 かぐや姫に壺を渡された翁は戸惑いと悲しみの入り混じった表情を浮かべた。しかし、もうかぐや姫を引き止めることはできない。

「では、参りましょう」

 落ち着き払ってそう言ったかぐや姫は青年に手を差し伸べた。青年はちらりと僕を見て、覚悟を決めた表情でその手をとる。かぐや姫はしっかりと青年を見つめて美しい笑みを浮かべた。

 それを見た帝の表情が悲しげに歪む。当然だ。あれだけ必死で求婚してきたかぐや姫には、見ず知らずの僕に頼んででもともに月へ帰りたい人がいたのだから。

「かぐや姫。その者を月へ連れて行くつもりですか?」

「ええ。もうこれ以上望むものはありません」

 固い声で尋ね、青年を睨みつける月からの使者にかぐや姫は毅然とした態度で答えた。使者の冷たい視線から青年をかばうように一歩前へ出る。

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