第6話
「いや、僕に聞かれても……」
「それ、本物のかぐや姫だった?」
「それはもちろん。あの美貌を見間違えることができると思いますか?」
「いや、無理だな」
青年は即答した。やっぱりかぐや姫のことをよく知っているんだろう。
「ですよね」
その後も、複雑そうな表情をする青年を連れてかぐや姫の家へ行ってみたが、人が多くて近づけなかった。昨日とはまるで様子が違う。どうやら帝の軍勢が来るというのは本当のようだ。
僕がどうやって中に入ろうか考えていると、青年はため息をついた。
「で? 俺はどうすればいいの?」
「そこなんですよね……。連れてきてほしいと頼まれたものの、どうすればいいのかはさっぱり……。中に入ったら追い返されますし」
「そういうの、もうちょっと確認して来てよね。実際に呼ばれてるのは俺なんだから」
「すみません」
僕たちはそろってため息をついた。ここでうろうろしていてもかぐや姫には近づけないし、夜まではまだ時間がある。
「でも、かぐや姫の話じゃ月からの使者は強くて帝の軍勢でも太刀打ちできないんだろ?」
「はい」
「じゃあ、俺も追い返されちゃうんじゃないの?」
「帝の軍勢はかぐや姫をここに引き留めようとしているけど、僕らはかぐや姫を月に送り出そうとしているから大丈夫って、そう言ってましたよ。月からの使者もかぐや姫を月に連れて帰りたいから、目的が一致してる、ってことじゃないですかね」
「はあ……」
青年は納得しかねるというような表情で首を振った。僕だってたまたまかぐや姫に会ったから頼まれた身だ。何もかもわかっているわけじゃない。でも、僕は自分の夢をかなえるために妥協したくない。だから――。
「月に持っていくもの、ちゃんとまとめておいてくださいね。でも、車に乗せられるだけですよ」
「あ、ああ」
「それともかぐや姫と一緒に月に行くのが嫌なんですか?」
「いや、そういうわけじゃないけど……」
「じゃあごちゃごちゃ言わないでくださいよ」
まだ悩んでいる様子の青年に現実を突きつける。残念ながら彼に残された時間はあまりないのだ。かぐや姫は今晩月に向けて旅立つ。その時までに、青年にもかぐや姫とともに月へ行く覚悟を決めてもらわなくちゃ困る。じゃないと、ぼくがかぐや姫に怒られる。
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