第5話

「さて……昨日は約束しちゃったけどどうするかな」

 作戦も予定も何もない。でも、諦めるつもりもない。まずは彼の家へ行ってみようか。昨日青年は僕の家の近くに住んでいると言っていたし、それらしい家もすぐそこにある。

「あれ? 昨日の。やっぱここに住んでたのか」

 とりあえずの方針を決めて家の扉を開けると、誰かに声をかけられた。昨日の青年がこちらを見ている。彼も僕のことを気にしてくれていたのだろうか。いずれにせよ、彼がここにいるのは僕にとって好都合だ。

「ちょうど良かった! 話があるんです」

 そう言って青年のもとへ駆け寄った僕は途中でバランスを崩して青年にしがみついた。青年は慌てたように僕を支えてくれる。

「おい、大丈夫か」

「ああ、はい。昨日から何も食べてないけど大丈夫です! それよりも話が……!」

「いや、それ絶対大丈夫じゃないから」

 青年は呆れたように言って僕を自分の家へ連れて行ってくれた。昨日かぐや姫には会えたものの、僕はここでの暮らしを知らない。食べ物も手に入らなかったのだ。かぐや姫に何かもらえばよかったと思ったのは家についてから。

 連れていかれた青年の家はやはり僕の家と同じような造りで、質素だ。こんなに普通の青年にかぐや姫が想いを寄せているなんて、なんだか不思議だ。

「それで? 俺になんの用?」

 食事を終えた僕が少し落ち着いたのを見て青年は尋ねた。すっかりくつろいでいた僕は慌てて居住まいをただす。

「昨日の夜、かぐや姫に会ったんです」

「かぐや姫に? どうやって?」

「夜まで家の前で待っていたら彼女の方から出てきたんです」

「あいつ、まだそんなことやってるのか」

 かぐや姫をあいつ呼ばわりできる人なんてそうそういない。呆れたような表情をする青年の様子に、予感を確信に変えた僕は本題を切り出した。

「彼女に、お願いされたんです。今晩、あなたを彼女の家へ連れてきてほしいと」

「俺を連れて行く?」

「はい」

 青年と僕はしばし見つめ合った。青年はいぶかし気な表情をしている。

「君、夢見てたんじゃない?」

「いえ。現実です」

「それ、本当に俺のことだった?」

「はい、というかたぶん。この辺りに住んでいて、かぐや姫と交流のある人が他にいれば話は変わりますけど。あと、かぐや姫に求婚してない人で」

「あー、心当たりないな」

「じゃあ、決まりです」

 青年は困ったような顔で頭をかいた。僕は不安になって尋ねる。

「嫌なんですか?」

「嫌というか、かぐや姫が俺を呼ぶ理由がわからないんだよな」

「一緒に月に帰りたい、って言ってましたよ」

「は? なにそれ」

 青年はぎゅっと眉根を寄せて僕を見た。

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