第2話
「かぐや姫?」
僕としては確認のつもりで尋ねたのだが、青年は僕がかぐや姫のことをなにも知らないと思ったようで驚きながらも説明してくれた。
「あそこに住んでるおじいさんが、二十年くらい前この竹林で竹を刈っていた時に女の子を見つけたらしい。それ以来、竹の中から小判が見つかることが増えて、今じゃあんな屋敷に住むほどの金持ちになったってわけだ。まあ、俺もここで竹を取ってるわけだけど、そんなことは一度もないね。残念ながら」
「かぐや姫って、とっても美しいんですよね」
「なんだ、ちゃんと知ってるんじゃないか」
「ええ、まあ。うわさは聞いたことがあります」
どうやら僕は本当にかぐや姫のいた時代にタイムスリップしてしまったようだ。これは夢だろうか……。ほほをつねってみると痛いような気がした。たぶん現実だ。
「でも、実際に見たことはないんだろう?」
「はい。その言い方は、かぐや姫を見たことがあるんですね?」
「まあね。外に出さないように大切に育てられてるかぐや姫だけど、実はときどき屋敷を抜け出してるんだ。その時にちょっと、ね。まあ、最近はそんなこともなくなったけど」
青年の話しぶりは親し気で、かぐや姫のことをよく知っているようだった。
「かぐや姫と、親しいんですか?」
「まあ、それなりに? でも、俺はかぐや姫の求婚者ではないよ。俺とは次元が違いすぎるだろ。帝とかと張り合えるような地位も金もないし、相手にされるわけがない」
たしかに、青年は裕福なようには見えない。求婚しても相手にはされなさそうだ。まあ、帝も相手にはされないんだけど。
「それで? お前はどこから来たんだ?」
「あ、この山を下りたところにある家です」
「ってことは俺の家の近くだな。そういえば昨日までなかった家が一軒建ってたような……。ま、かぐや姫だっているんだ。少しくらい不思議なことがあってもおかしくないか」
青年はそう言って僕に背を向けた。どうやら細かいことは気にしない性格のようだ。正直助かる。色々聞かれたって答えられないから。
「あの、」
「ん?」
少し考えて、僕は青年を引き止めた。
「かぐや姫に会うことって、できますかね」
「かぐや姫に会う?」
「はい」
「まあ、うわさの美貌を確かめたい気持ちはよくわかるけど、それは無理だと思うよ。なんでも、このところかぐや姫は『月に帰る』と言って毎晩泣いてるらしいから。噂によれば、明日の夜、月からの使者がかぐや姫を迎えに来るんだってさ。帝の軍勢が何とかしてそれを防ごうとしてるって話だよ。だから、まず屋敷の中には入れないだろうね」
青年はそれだけ言って山を下りて行ったが、僕はしばらくそのまま屋敷を見下ろしていた。
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