特殊能力の使い道
駒月紗璃
第1話
もしも一日だけなにか特殊能力を使えるとしたら、君は何をするだろうか。僕の答えは簡単だ。まず、手に入れる特殊能力はタイムスリップできる能力。それで、かぐや姫の育ったあの場所へ行くんだ。
ずっと昔から気になっていた。月へ帰ったかぐや姫は何を思っていたのか。あれだけ毎晩泣いて竹取の翁と嫗との別れを惜しんでいたのに、なぜ無抵抗で月へと帰っていったのか。僕はそれを確かめたい。そして、できるのならば彼女を幸せにしたい。
求婚者全員を置いて月へ帰ってしまったかぐや姫。
これは、僕があの「竹取物語」のエンディングを変えてしまう物語だ。
八月十四日の朝、僕は知らない場所で目覚めた。そっちの方面には詳しくないからわからないけど、どうやら粗末な着物を着ているようだ。木でできた小さな小屋に薄い布団を敷いて寝ている。それが、僕の現状だ。でも、どうして? これじゃあまるで昔の人だ。
とりあえず扉を開けて外に出ると、まずまっ先に竹林が目に飛び込んできた。いや、上のほうの竹は背が高いし、小さな竹山、だろうか。
僕が寝ていた小屋と竹山の間、少し離れたところにももうひとつ小屋がある。さっき僕が寝ていたところからして一応あれも家、なのだろうか。だとすれば、あそこにもだれか住んでいるのかもしれない。
このままここでひとりで考えていても仕方がないので、僕はとりあえず竹林の方へ行ってみることにした。竹林の中へ入ると、すぐに傾斜がきつくなる。やはりここは山だったらしい。なら、上から何かが見えるかもしれない。
そのあとしばらく上ると、頂上らしいところへ出た。上ってきた方と反対側に目を凝らすと大きな屋敷が見える。人がたくさん出入りしているが、ここからでは遠すぎて人形のようにしかみえない。
「見ない顔だな」
後ろから聞こえた声に振り返ると、僕よりも少し年上に見える青年が立っていた。僕が着ているのと同じような着物を着ている。鎌を持って籠を背負っているから、竹を刈っているのだろうか。竹取の翁ならぬ竹取の青年だ。
……冗談はさておき、僕は青年に尋ねてみることにした。
「あの、あそこには誰が住んでいるんですか?」
「お前、あの有名なかぐや姫を知らないの?」
青年は驚いたように目を見張った。信じられない、とでも言いたげな表情だ。
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