お出かけ 第27話
お嬢様とお出かけするのに、私服姿で私もお車に一緒に乗せていただくというのは少し身に余る行為のような気がして、乗り込むときに少しドキドキした。
私が先に乗りこんで、振り返ってお嬢様の手を引く。
隣同士で座ると、お嬢様はこちらに目配せして、微笑んだ。
車が走り出して気が付けば窓の外の景色の流れていくのを、ぼうっと眺めていた。
お嬢様の手が触れる感触がして、ゆっくり指の間に滑り込んできた。その指を感覚だけで受け止める。視線は外に向かったまま意識は2人の間にあって、運転手に気づかれないように手を繋いだ。2人の間挟まるようにある手をお嬢様は、ドレスの裾をかけて隠した。目線で確認するとお嬢様は一度こちらに微笑んで視線を外に向けた。
そしてぎゅっと握られた手に、意識がだんだん強くいくようになって運転手に見えてしまわないか心配になってくる。
そんな私の反応を知っているのか、いないのか、少しすると手はドレスのスカートに隠れた中で遊び始めた。お嬢様はただ手遊びをしているくらいの感覚なのだろうか。動いていると余計に気になった。
顔を向けると、お嬢様の視線はこちらを向いていた。目が合った途端にお嬢様の指先は遊ぶような動きから、ゆっくりと撫でるような動きになり、息をのむように吸い込まれる視線を送られる。そんな表情を今するのはどう考えてもまずい。
お嬢様は運転手のバックミラーの視覚からははずれているだろうが、私はばっちり運転手の視覚内に入っている。お嬢様だって運転手が少し顔を動かせば見られてしまうはずだ。時折感じる運転手の視線に心音が大きくなる。顔は上手く作れていないような気がする。ぎこちなく平静を保とうとしている。
「もうすぐ着きますね」
運転手がそう言ってミラーごしに笑いかける。ミラーの位置は少し動かされて私とお嬢様がそれぞれ見えているのだろう。
お嬢様の手はピタリと動きを止めて、表情も戻っている。
「……マリーさん私用で車に乗るからって緊張しているんですか?大丈夫ですよ、よくあることです」
運転手がそう言って安心させてくれようとした。私の表情は平静にできてなかった。こわばっているのというのがやはりバレてる。それを知って、心音を余計跳ね上げさせた。
「ええ、ありがとうございます。仕事じゃないと思うと緊張してしまって」
それは半分嘘ではないから、スッと言葉が出てきた。運転手は納得したのか前に向き直った。
緊張はしている。けれど、私が本当に心配している緊張の理由はそれではない。
「窓の外にもう街が見えるわ」
手を止めていたお嬢様が少し私の手の甲をつついてそう言った。その視線の先を見ると確かに近づいているのがわかる。
私が視線を外に向けて、もうすぐ街というのを確認したところで、お嬢様は手を離して、気を抜いた私のスカートをたくし上げて手を差し込もうとしてきた。びっくりしてとっさに少し飛び上がって離れた。私が飛び上がった揺れで運転手にミラー越しに確認されたがそんなに気にした様子はなく、また前を向いた。
もう!本当に、心臓がもたないって!
そう叫びたいくらいだった。でも実際はただ何事もないように振る舞った。
到着して、乗っていた車が戻っていったところで、私はお嬢様の脇腹を肘で小突いた。
それで、お嬢様は吹き出して笑い出していた。どうしてこうもいたずら好きなのか……。
まだ少しも街を回っていないのに、私は冷や汗をかいていた。
「それでマリー、まずはどこへ行くの?」
お嬢様はすでに切り換えているようで、私に行き先を聞いてくる。
は~と息を吐く……
「少しは反省してください、バレたらどうするんですか⁉」
「大丈夫よ」
お嬢様が全く気にした様子もなく言う。満面の笑みに頭を抱えたくなる。ダメだ……止めることが出来そうにない。人の気も知らないで・・・・・・
「もういいです。……それで、行きたい場所ですが、貸本屋に行きたいのですが……」
お嬢様の行動には呆れるが、行きたい場所を答える。
「じゃあ、こっちね」
私の腕をとったお嬢様に引かれるように歩き出す。
さっきまでの車の中の空気とは打って変わって、友達のように振舞うお嬢様は無邪気で楽しそうな表情をした。
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