交換条件

交換条件 第24話

 あ……!

 アンナのこと、どうしよう……

 目を覚ましてふいに気づいて頭を抱える。


「絶対なにか聞かれる……」


 すっかり忘れていた。

 アンナはあの本のことを知っている。きっと私がお嬢様に聞いたかどうか、私の顔を見たら思い出して聞いてくる。

 アンナに聞いたばっかりに……もし私があの本の中身を見たなんて言ったら面白がって話を聞きたがるだろう。『マリーも興味があるのね』なんて思われるだろうか。うっ…恥ずかしい。

 目をキラキラさせて、聞いてきそうなアンナが想像できる。

 アンナは好奇心が旺盛なところがあるから、話題にせずに済むということはないだろうな……

 思わず下を向いて額を抑えた。

 

 だって、あんな秘密だと思わないから、気になることをアンナに聞いてしまったのは仕方がない。


 自分自身に言い訳をする。言い訳をしたところで、アンナは見逃してくれるわけではないが…


 そうだお嬢様から何も聞いていないことにすれば?結局教えてもらえなかったことにすればいいんだ。

 お嬢様に口止めするしかない。


 アンナも聞かない方がいいなんて意味深に言うから、余計に気になってしまった。もしかしたらアンナは、わかっていてわざと私が聞くようにあんな言い方をしたのかもしれない。


 できれば出くわしたくないな。

と思っていたけれどそんなに上手く行くことはなく、声をかけられた。


「おはようございます、マリー」

「おはよう、アンナ」

 

 そう言うなりアンナは私にぴったりとくっ付いてきた。私の腕はアンナの両腕に抱えられるようにがっちりホールドされた。

そして他の人に聞こえないか周りの様子を窺っている。

やっぱり……。


「マリー、お嬢様と話したの?」


 案の定小声で、昨日私がお嬢様に聞いたのかを尋ねてきた。


「何のこと?」


 一応とぼけてみる。


「ほら、私にお嬢様と私が何話していたか聞いてきたじゃない。結局そのことはお嬢様に聞いたの?」


 アンナはトーンを落としながらも、ウキウキとして聞いてきた。


「そのことね。聞いてみたけれど…何もないっておっしゃってたわ。えっと、アンナの口から教えてもらえるの?」


 アンナが話すわけがないと思って、わざと聞いてみる。


「ないないなにもないわ、いいのいいの、ほらちょっとした話しだし・・・」

「…そうね。もう気にしてないから、聞かないわ」

「それがいいですね……意外とお嬢様はマリーと共有したりするんじゃないかと思ったんですけどね~」

「もう、なに?」

「いいえ、なんでもないです」


 なんとかアンナのことは乗り切れたようだ。



「マリーに話してたらおもしろそうだったのにな・・・」

小さな呟きが聞こえたが、そのアンナの言った独り言は聞こえないふりをした。


 そもそもアンナはどのくらい見たのだろう。私は何も知らないという設定だから、聞くわけにもいかない。アンナはああいうの平気なんだろうか、少し気になるところ。

 お嬢様同様、アンナも平気そうで怖い。私だけ過剰反応しているとなったら、恥ずかしい…。


「じゃあもう行くわね」

「ええ、いってらっしゃい」


 アンナと分かれてお嬢様のお部屋に向かった。




 お嬢様の部屋に着いていつものようにお嬢様の着替えをする。


「あのー、アイリス様、お願いですからアンナには私があの本の中身を知ったこと言わないでくださいね」


頃合いを見て、話を振る。


「えっ?……うーん、どうしようかしら。アンナに詰められてるマリーってどんな反応するのか少し興味があるわね」


いたずらな笑顔のお嬢様は、そんなことを言って覗き込むように私の顔を見る。


「他人の反応を面白がるなんてひどいですよ。アイリス様」


 怒っているのを表すようにジト目で、頬を膨らませた。


「でもマリーも見てしまったのは本当のことだから、アンナに正直に話すのはしかたがないわよね?」


 そんなことを言うから私は、困り顔をしてお嬢様を見つめた。


「フフッ……だまっていてほしい、マリー?」

「はい…お願いします……」

「フフフッ、そんなにしおれたような顔しないで。わかったわ、黙っててあげる」

「本当ですか、ありがとうございます!」

私は、ホッと胸をなでおろして、フーと息を吐き出した。


「安心するのは早いわ、マリー。それには交換条件があるわ」

 さっきよりも楽しそうで、不敵な笑顔をこちらに向けてお嬢様は言った。

「えっ…交換条件ですか?」

「そう。むずかしいことじゃないわ」

 

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