ちょっとひどいお嬢様 第18話

 


 「マリー」

 後ろからギュッと抱きしめられる。

 お召替えや、何かの用でアイリス様のお部屋を訪れると、何度かはこうして抱きしめられた。もちろん嫌ではない。むしろうれしくてドキドキする。あの客人のいた夜からそうだ。

 本当は私からも抱きしめたいと思ってしまうけれど、私にはアイリス様ほど行動が起こせない。そうやって抱きしめられて前に回ってきた手を握り締めるくらい。

 アイリス様の手を握りしめて、背中に感じる温かさと、包み込んだ手の感触を体にしみ込ませている。


 アイリス様があの夜言った少し時間をちょうだいというのは、何のための時間だろう?ここ最近考えている。

 これは私が考えるに、覚悟するのに時間が必要ということなのかも?

 アイリス様が覚悟するなら、私も覚悟をしておかなければならないわけで…その覚悟というのが…あの、ええっと、やっぱりそういうことをする覚悟ということなんだよね……アイリス様はやろうとしてできなかったわけで、それはきっと結構勇気がいるわけで、その勇気が少し足りなかったのかな?なんて思うのだけれど。

 私は、床を見つめて考えている。


 突っ伏して時間をほしいと言ったのはそれが理由だって思う…きっと。

 覚悟…覚悟かぁ…うううっ……頭を抱える。


 そんなことを一人仕事をしながら頭の中で浮かべたりするものだから、顔がいつものごとく熱くなって頭を振る。

 仕事の手が止まっていたことに、ハッとした。

 気を付けないと、私何考えてるの……考えながら、頭を抱えたり、頭を振ってみたり、挙動不審じゃない。 

 考えないようにしていても、いつの間にか考えてしまっているから質が悪い。


 アイリス様は2人だけになれば、さりげなくちょっかいをかけてくる。

 去り際に他人の髪をサラリとなでてみたり、すぐ後ろから耳元で私にしかわからないように「マリー」と名前を読んだり、すれ違いざまに目線を合わせて私の手の甲に指を滑らせてみたり。抱きしめるのだってそう。

 そんなことだから、もしかしてこれが時間をかけて覚悟をするためのスキンシップだったり?なんて考えたりして、やっぱりそればかりになってしまうのだ。

 アイリス様があの時、中途半端に止めたから…だから私の頭の中を占めてしまっているんだよ、つまりアイリス様がちょっとひどいってこと…。そう考えたけれど。

 いや、私がそんなことを考えすぎてるのは、私のせい以外ない。アイリス様のせいにしちゃダメだよと思い直した。 

 顔を両手で覆う。絶対こんなことをいつも考えていることはアイリス様にもバレたくないと思う。

「はぁ~」

 マリーは大きくため息をついた。

 




 

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