ちょっとひどいお嬢様
ちょっとひどいお嬢様 第17話
明け方お嬢様よりも早く目を覚ます。自室に帰って支度をしなければならない。
眠っているお嬢様の頬を指の背でなでる、ぐっすり眠っているのか触ってもまったく気づいてない。
昨夜は、おやすみなさいと言ったもののすぐに眠れるわけもなかった。突っ伏したお嬢様がこちらに顔を向けたので見つめ合う形になって、しかもお嬢様は私に手を伸ばして髪を梳いて、未練のある視線を向けたりなんかする。何の熱も冷めてない私はまずいと思って
「明日も早いのでもう寝ましょう」
と言って反対に体を向けて眠るフリをすることになった。お嬢様はちょっとひどいことを自覚した方がいいと思った。時間がほしいと言ったのはお嬢様なのに。
お嬢様が起きれば支度があるので、すぐ後で会うのだが、その時には顔を正面から見ることが出来そうにない。恥ずかしさと共にどのように声をかけたらいいか、平静に話せるのか自信がない。
時間が来てお嬢様の部屋に訪れる。
「おはようございます。お嬢様」
「おはよう、マリー」
部屋に入ってからというもの、ずっと視線を感じる。いつも以上に目で追うのをやめてほしい。私の表情を確認するのをやめてほしい。
恥ずかしくて、私は目を逸らしているが、視線は感じてしまう。
「マリー」
呼ばれたのでお嬢様の方を見る。ニコリとしたお嬢様がただ笑顔を向けて続きを言わない。ただ目が合っている。たまらずに聞く。
「なんでしょうか?」
「ううん、なんでもない」
首を横に振ったその笑顔に、ついわたしまで頬が緩みそうになって顔を逸らして準備をするフリをする。やっぱり恥ずかしいし、お嬢様の笑顔にドキドキする。
「マリー」
「なんですか?」
まただろうか、今度は顔を向けないで返事した。
そうしたら、お嬢様はすぐ近くぴったりと傍まで来る。
「お嬢様近すぎますよ」
さすがに準備しづらくて、お嬢様の方を振り返って少し離そうとした。
振り返ったタイミングで、唇にキスをいきなりされて体が一瞬動きを失ってドギマギした。
「これくらいのあいさつはいいわよね?」
お嬢様は、うれしそうだけれど私には、不意打ちだった。
昨日のことがあるので、こういうことも少し時間を空けるのかと思っていた。
顔が熱くて、絶対赤くなっている気がする。この後も仕事があるのだから平静でいたいのに。
「お嬢様、私にも時間をください。平静でいたいので」
気を付けていないと良くないと思う。
「マリーそういう風に言わない方がいいわ、真面目なマリーを崩したくなってしまうから」
「・・・・・・」
あっけに取られる。本当にお嬢様は、ひどくないだろうか・・・
「お嬢様!ちゃんと気をつけてくださいね」
「わかってるわ。ところでマリーさっきから名前で呼んで昨日言ったのに呼んでくれてない」
話しを聞いてくださっているのか……話題が変わっている。
「もう、お嬢様は、お嬢様なので……今だけですよ。人前ではだめです、アイリス様……」
「いつもそうして。」
「ずっとお嬢様でいたので流石にまずいです。それに呼び方が変わったら注目されてしまいます」
「たまに名前を呼んで、少しずつ呼び方を混ぜていけば大丈夫よきっと。みんな慣れていくわ。それから2人の時は様付けなしにして」
お嬢様はニコニコで、不安の種を増やそうとする。
『アイリス』と心の中で呼んでみる。アイリス様の瞳がこちらを見ている。
「様付なしは無理です、アイリス様」
「今の間はなに?呼んでくれようとした?」
「いいえ、さあ、支度が進んでませんよ」
そう言って話を終わらせて、支度にとりかかった。
そうそうB氏は、酔いが冷めて冷静になって謝罪をしていたそうだけれど、二度とこの地で見ることはないし、今後心配になるようなことのないように問題は解決したと話を聞いた。
自分のことでありながら、B氏のことはいつの間にか霞んでいた。
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