辛い日々
二人の気持ち 第12話
お嬢様が私を求めてくださることに、心のままに答えるなら喜んで受け入れる。
しかし私とお嬢様の立場を考えるならば、そこにはいくつも悩みが浮かび上がって、そのどれにも出口を見つけることができそうにない。
お嬢様は純粋に私を好いてくださって、それを素直に向けてくる。
お嬢様は不安にならないのだろうか。好きになったとしても、いずれ嫁いでいかれるのだ。それはどうしたって離れることに繋がるのに。お嬢様は・・・初めから他の誰かのものになるのが決まっている……遅かれ早かれ。
だから、よく考えれば初めからずっと離れないなんて無理だったのに。
NOと言うと決めたのに。私が甘く流されてしまったせいで、自分を苦しめることになってしまっている。
私は不安でたまらない、これ以上好きになった先に辛い未来しか待っていないことにも。もう揺れ動かされてしまった気持ちのやり場にも。
私は軽はずみに離れていかないと言ってしまったのかもしれない。自分から離れていかないことはできても、私の力ではどうしようもないことに、お嬢様とは引き剥がされてしまうのだから。
それにもし万が一、誰かに知られでもしたらお嬢様も私もそばで過ごすことすらできないだろう。
左胸に昨日のお嬢様の触れた感覚が残っている。そこからひどくうずく痛みがしていて、朝から気も体も重く、まわりを灰色の空気が覆っているようだ。
「昨日はごめんなさい。
マリーのペースを考えずに先に進もうとして。」
お嬢様の部屋に訪れた時から視線は感じていた。支度は終わって話し始められた言葉は、私の思いに気がついていないようだ。
そんなことじゃない・・・
「違うんです。嫌だったとか受け入れられなかったわけじゃなくて。ただ、このままいっても離れるのが……辛く、なるって…お嬢様は離れないでって言うけれど、どうしたって・・・お嬢様は誰かと・・・・・・一緒になるんですから。」
これを言葉にするのすら嫌だった、『誰かと』口から言葉を出してしまうと、感情が溢れて泣くつもりじゃないのに涙が流れた。
「マリー」
名前を呼ぶお嬢様の顔は見れなかった。
「何もなかったことにしましょう、お嬢様。お嬢様と侍女、前みたいに。私は・・・それがいいと思います。・・・私はこれ以上を考えるのが辛いです」
私の話を静かに聞いているお嬢様は、私の目の前に立っていて。それでも2人の間にいつもより距離を保ったままだった。
「マリー、今までのこと無かったことにするっていうの?そんなの…そん………今は、やめましょう。そんな顔でいたら、みんなに心配されるわ。」
涙がとまらない。…このままではここから戻れない
お嬢様の手が伸びてハンカチで目元を拭ってくれる。
ぎこちない距離は保ったままで。
「落ち着くまで少し居たらいいわ、私は行くから。侍女長には私があなたにちょっと仕事を頼んだと伝えておくから」
扉が閉まって、結局わたしはお嬢様の顔を見れないままだった。
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