雷鳴 第11話

「じゃあ期待して…」


お嬢様の声がやたらと甘い声に変わる―――――


  気を抜いていた私はお嬢様の顔が頬の辺りに埋まって、湿った暖かさが耳元で音を立てたのに反応が遅れた。

「きゃっ」

と声をあげてしまって、慌てて手で口を覆った。

「なにするんですか」

小声でそう抗議する。


「雷も怖くなくなること」

今度は首筋に暖かさを感じる。唇がはむはむと首筋のあちこちを移動して、下から上へ登ってくる。


顎のところで唇は離されて、顔を上げたお嬢様がこちらを見た。

お嬢様は唇を舌で拭って、私の唇を見つめている。


その唇を手のひらで押して止める。


「そういうことしに来たわけじゃないです。雷平気なら帰りますよ」


「もう少しだけ・・・」


 お嬢様のこもった声を手の中に感じた。少しの間瞳を見つめらる。その少しの間は私が帰る帰らないのどっちを選ぶか答えを待っている。動き出さない私の答えは伝わっている。

私の手は剥がされる。片手で包み込まれた手が暖かい。


唇が降りてくる。小鳥が飛んで行かないよう捕まえるように、そっと私の唇は包まれる。

その唇が離される瞬間に部屋中に響いたんじゃないかと思うリップ音が私の心臓を跳ねさせた。

そうして私の唇は何度も啄まれた。


最後に深く口づけられる。


唇が離れた時、高揚が沸々と胸の辺りで湧き上がって溢れ出しそうで、浅い呼吸と一緒に喉を鳴らして飲み込んだ。


まとめていた髪は解かれていた。

お嬢様が私の髪をすいて耳にかける。

「いつも私ばかりでマリーの髪に触れることがないものね」

「当然です。私は侍女なんですから」


「艶のあるブラウンの綺麗な髪ね」

顔のそばの髪をいじいじと触れながらお嬢様はそう言う。なんだかくすぐったい。


「ありきたりな髪ですよ・・・」

褒めるような髪ではないと苦笑する。


「そんなことはないわ。青い瞳によく合ってる」


私はお嬢様の淡い緑色の目と白銀の髪のほうがよく似合っていると思う。けれど言葉には出さなかった・・・




お嬢様の手が夜着のボタンにかかって、ボタンを一つ外される。

唇が胸元に付けられて舌で撫でられる。その間もボタンは一つずつ外されて唇の感触が一点に向かって降りていく。

そしてとうとう触れたと思った時、チリチリとした気持ちよさと、同時にギュと胸を締め付けられる。


瞬間、お嬢様を押し除けて体を起こしてしまった。

「ごめんなさい」

そう謝ってボタンをとめる。


お嬢様の戸惑った顔が一瞬見えて顔を背けた。


「嫌だったわけじゃないんです。ごめんなさいお嬢様・・・」

私はベッドを降りて足早に部屋を出て行く。

その時にはお嬢様の様子を見ることはできなかった。


ひどいことをした。あの場面で押し除けるのは。

それでも満たされると思った瞬間、それ以上に怖くなって突き放してしまった。

あの物語の2人は結ばれなかった。


お嬢様、私はこの先が怖くなってしまいました。




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