雷鳴 第10話
日が暮れる前からどんよりした雲が空を覆っていて風も強かったから、夜半前には雨が降るだろと思われた。数人で手分けして雨戸を閉めていくと窓枠を揺らす音はだいぶ遮られて心なしかソワソワした焦りが落ち着いた。大きな音は誰でも不安にする。
やはり夜が更ける前に雨は降り始めて、強い風は雨戸をしてもなお窓をがガタガタと鳴らしていた。
こんな夜にはきっと一人で・・・・・・
そう思いながらよく知っている部屋のドアをノックする。
返事はない。それでも扉を開けて中に入る。
お嬢様はベッドで横になっているようだ。毛布で覆われたお嬢様にそっと近づく。
ぐっすり眠っているのだろうか?近づく私に気づく様子もなく、毛布にくるまったまま身動きがない。
私はベッドの端に腰掛けて眠っているお嬢様にそっと手を添え・・・・・・
「わっ!」
突然後ろから抱きつかれる。驚きのあまり声も出ずに振り向くと、その瞬間稲光がして直後に雷の大きな音におそわれる。
「きゃっ!」
と私とは別の声がそう叫んで、そのまま押されベッドに倒れ込んだ。
「お嬢様?」
「もう!雷のタイミングが悪いのよ。どうして同時になのよ。驚かせようとしたのに、驚かされた…」
お嬢様は眠ってはいなくて、私を驚かせるために隠れていたようだ。寝転がってこちらを見てクスクスと笑っている。
私も横になったままクスクスと吹き出す。
「こんないたずらをするなんて、いつの間に雷平気になったんですか」
「私も成長したのよ。少しくらい平気に決まってるわ」
まんまと驚かされた、結果的にお嬢様も一緒に驚いていたが。
「ついこの間まで怖がっていたと思いましたけど」
「だから成長したの!怖くないって言い切れないのは癪だけど・・・それに絶対マリーが来るって思ったら少し今日は楽しみだったの」
雷の鳴る夜とは思えない笑顔をお嬢様が浮かべている。
雷が平気になったのは良いことだけれど、なんだかそれはそれで少し残念な気持ちもする。
「お嬢様が雷を楽しみにする日が来るなんて、明日は雨ですね・・・いや今すでに雨でしたね、今日のお天気はお嬢様のせいだったのかも」
「・・・マリーひどい、そんな冗談を言うなんて」
お嬢様が拗ねて、ころんと体を転がして向こう側を向いてしまった。
私は慌てて上体だけ起こしてお嬢様を振り向かそうと肩に手をかけた。
「えいっ」
と勢いよくお嬢様は翻って、気づいたら私はベッドに背をつけていて、お嬢様に見下ろされていた。
両肩をお嬢様の手に抑えられて動くことができない。
「マリー、こんな雨と風が強い日には、少しくらいの大きな音も聞こえないんじゃないかしら」
「なんのことですか?」
目があって、見つめ合う。私は見上げて、お嬢様が見下ろす体制のまま。
「こういうことっ」
ニッと笑ったかと思うと、お嬢様は私の上に倒れ込んで、脇腹を・・・・・・・・・激しくこちょこちょ、わしゃわしゃと、
「ちょっと⁉︎くっ、ククッ・・クッ、くすぐったい、お嬢様!」
「フフッ、なにか他のこと期待した?」
お嬢様が手の動きを緩めて聞いてくる。
「してません・・・」
だからそう答えた。
「本当に?」
むー、と私は黙ってから
「なにも期待してません」
と主張した。
そうしてまた見つめあって
「じゃあ期待して・・・」
お嬢様の声がやたらと甘い声に変わる―――――
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