眠れないのは誰のせい 第5話

何か答えないと・・・。


「アーロンはそんなことしませんよ」

チラッとお嬢様の方を窺う。


お嬢様はそれを聞いてなぜかショックを受けたように、俯いた。


「アーロンはそんなことしない、か・・・紳士だものね。アーロンのこと信頼してるのね」

なぜ?なぜお嬢様は気を落とすの?


「お嬢様?」


をしてしまった私は、信用できないわね」


私はただアーロンとそんなことはしないと、否定したかっただけだ。


「お嬢様のことは信用しています。はありましたが・・・お嬢様の信用はなくなったりしません」

確かにを突然してくるかもしれないという意味での信用は揺らいでいしまっているのだけれど・・・


そろそろこの話から逃げたい・・・そう思っているのに、もう一度見たお嬢様はまっすぐ私の方を見ていて、目が合った私を逃さないように近付いた。片付ける私の手を止めさせるよう握られる。

「マリー、アーロンとキスのことどう思うか聞いたとき顔が真っ赤だったわよ・・・彼とキスするの想像した?」

お嬢様は私のことを責めてどうしたいのか。



「・・・していないです。そんな質問されたから恥ずかしくなったんです」

私が思い出していたのが、お嬢様のキスだなんて言えるはずもない。


「本当かしら・・・」

私の顔を覗き込んだかと思うと、お嬢様は私を抱きしめた。


ビクリと肩が跳ねたが、お嬢様は気にした様子もない。ぎゅと包まれた後、少し抱きしめる力は緩んで上体が少し離れる。私とお嬢様は向き合った。


お嬢様の眼光を強く感じる気がしていると、お嬢様の唇が近付いてきて、私の唇をかすめた。

「お嬢様!信用の話はどうなったんですか」

とっさにそう言った。


「こんなことで私の信用はなくならないんじゃなかった?」

私が言った言葉は、お嬢様を止める効力を奪うものだったようだ。


こんな近くで、話さないでほしい。

先ほどからお嬢様の視線は言葉を投げるたびに私の目と唇を往復している。じっと目を見つめられるのも緊張するが、唇を見つめるのは心臓によくない。


「・・・」

返す言葉に困って私が黙っていると、徐々にお嬢様の唇は私の唇に近づいて・・・すんでのところで逸れて頬に触れた。


静かなリップ音が耳に届いて、ゆっくり唇は離れる。


「マリー、顔が真っ赤だわ。このくらいのハグとキスはあいさつでよくするんだから許して?・・・もう時間だから私は先に行くから」

お嬢様はそう言って私の様子を窺った後、微笑む。そして先に部屋を後にして行ってしまった。


私は床にペタリと座り込んだ。

朝のしおらしさは、どこへ行ったのか。私はなんとか早急顔の熱さと心臓に鎮まれと命じた。








  

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