眠れないのは誰のせい 第3話

 ノックするとお嬢様の返事があってまだ起きているとわかる。


 中に入るとソファに横になって目を閉じでいるお嬢様が目に入る。小さく丸まって口元までブランケットに包まっている。


お嬢様のすぐ近くにゆっくり歩いて行く。屈んで様子を見ようとソファの端に手を置いて覗き込む。


「どうして戻ってきたの?もう下がっていいと言ったわ」


お嬢様はゆっくり目を開けてこちらを一瞥するとまた目を閉じる。


私はゆっくりと立ち上がると、明かりを消してもう一度お嬢様の傍へ戻る。


ずーと眠れていなかったのだろうか?私は、お嬢様の頭に手を伸ばしさらっとした髪をなでる。


「・・・大丈夫よ。マリーもうここはいいわ・・・少し休めばよくなるわ」


ほんの数時間前まで不必要なほど近づいておいて、一番頼ってほしい時には遠ざけようとする。


 そんなだから私はここに必要なのかわからなくなるんですよ・・・。心の中でつぶやく。


 アンナももう一人前で私より若い、お屋敷も余剰な人を雇うわけにはいかないだろうからもし切られるなら私かもしれない。そんな不安ずっとあって、新しい働き口の話にあの時心が動いた。


「お嬢様、ベッドでちゃんとおやすみになってください」


「・・・わかったわ」


体を起こしたお嬢様を手伝って、起き上がらせる。


のっそりと立ち上がるお嬢様の肩と手を支えてベットまで付き添う。


お嬢様はベッドに入る。それでも私の手を離さなかった。私も握られたままの手を引かれるままにベッドの脇に座る。


お嬢様は「マリー」と静かに名前を呼んで少し体を起こして、ずりずりと頭を私の膝の上にのせた。小さい子供のようだ。


私は、それが愛おしくて空いた手でお嬢様の頭をなでたり、顔にかかった綺麗な髪をそっと耳にかけて直したりした。


「マリー、眠るまでここにいて」


お嬢様は閉じかけの目でどこか遠くを見ながら静かにそう言う。


「もちろん、ここにいますよ」


遠くを見ているお嬢様の横顔を見つめて優しくそう言う。


「マリー、嫌いにならないで」


どうしてそんな弱気になっているのか。


「私が、お嬢様嫌いになったりしません」


少し笑ってしまってフッと声が漏れる。掛け布団を引き寄せて上からそっと手を置く。


「マリーにあの本を読んでほしい。」


かよわい声。あの強気な態度はどうしたのだろうか・・・。


「わかりました、約束します」


ふにゃふにゃ声のお願いにあっさり素直にそう答えた。


 もうお嬢様の目はいつの間にか瞑られていて、薄く開いた唇から、「マリー・・・」と声が漏れた。


 眠ったことを確認してゆっくり、指を外そうとすると少しお嬢様が身じろぐ。


 もう少し深く眠るのを待って、指を外してお嬢様を枕に移動させる。


その頬を撫でたいと思ったが、起こしてしまうのが心配なのでやめておく。


本を手にすると、ベッドサイドの明かりを消して私はようやく部屋を後にした。

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