第12話

 インカムについて、シャインに説明をする。


「ふむ、先日言っていた電話みたいなものですか。人間は不便ですね、そういったものを利用しないと遠くの人物と会話することも出来ないだなんて」

「それはそうかもね」


 実際、昔の人はどうやって遠くの情報とかを手に入れていたのかとか、不思議に思うことがある。

 手紙などで連絡自体は出来るだろうけど、電話のような手軽さはないし、そもそも車とかない状態でどうやって遠くまで手紙を送っていたんだろうかとか。まあ、それを知ったところで、どうなるわけでもない。今更、手紙を送りあうようなことにはならないだろうし、現代技術最高と先人達の発明品による恩恵を享受しよう。


「それが拳銃ですか」

「うん、一応使い方は習ってきたから、大丈夫だと思う」


 佐久間さんの言っていたことを思い出す。


「銃っていうのは、誰でも簡単に殺傷能力を出せる。その一点に置いては他の武器の追従を許さない。ちゃんと狙って撃てば、狙った場所に弾が届くようになってるんだ」


 僕は銃の事は詳しくないが、銃を専門として使っている佐久間さんが言っていた事なので間違いないだろう。

 本当は射撃の練習とかもしてみたかったのだけど、秘密結社としても経費がカツカツらしく、練習に弾を使うような余裕はないらしい。案外弾代というのも馬鹿にはならないというのは、安住先生の談だ。そのうえ本番と違い練習で弾を使用する場合かなり面倒な手続きが必要とのことで諦めた。

 寮や食堂、されに本拠地の様子から秘密結社ってかなり大きな組織だと思っていたのだけど、案外そういったところは世知辛いようだ。


「一回、甲冑と出会ったら、この拳銃で制圧してみようと思う。それでいいかな?」

「ええ、試してみるのは大切ですからね」


 あたりから何も物音が聞こえないことを確認してから、扉を開く。

 どうやらこの辺りは長い通路になっているようだ。


「城の奥に行けばいいんだよね?」

「そうですね、とりあえずは城の頂上を目指すべきだと思います。もしくは地下ですね」


 隠し事というのなら地下の方が適しているような気もするし、城で守っているものというなら城の頂上にあるような気もする。


「とりあえず、階段を見つけないといけないって事ね」


 そもそも今話をしたことだって、この城に地下があったならという想像の中で話している内容だ。

 もしも地下が内容ならこの想定は何の意味もない。見取り図でもあれば最高だが、そこまで高望みは出来ないだろうし、とりあえず階段を見つけるところから始めるべきだろう。


「そうですね。とりあえず階層を移動する方法を見つけるのが先決です」


 廊下を出来るだけ音を立てないよう歩く。


「どこかに隠れてください」


 そんな中突然シャインが焦ったように言った。


 隠れろって一体何処に隠れればいいのか、辺りを見渡してみるとちょうど、近くに花瓶が置いてある台があった。

 ここならいいかもしれない。

 ちょうど台の後ろに収まった時だった、進行方向のドアがひとりでに開き、中から甲冑が出てきた。

 どうやらちゃんと姿を隠せているようで、甲冑はこちらのことにはまだ気づいていないらしい。


「コウイチ、お願いします」


 シャインは耳打ちするようにこちらにいう。


「やってみるよ」


 銃を片手で握りしめる、標準の合わせ方は大体分かる。

 後はこの引き金を引くだけだ。


 銃を握りしめ、甲冑に狙いを付ける。

 狙うのは胸の部分だ、心臓の部分であり生物なら死ぬはずだ。

 佐久間さんは頭を狙えと言っていたが、もし外れた時に別の場所に当たってくれる胸の部分を狙う。


 考えすぎだとは思う。だけど、念には念を入れたほうがいいだろう。

 ここで死ぬわけにはいかないのだから。


 引き金を引く。

 すると少しの衝撃の後、カンという金属と金属がぶつかるような音が二回聞こえてくる。


 貫けなかった?

 いや、音からして一発目は貫通しているはずだ。

 二発目を撃たないと。


「何が起きてる」


 突然の攻撃に反応し、甲冑は困惑の声をあげる。

 一撃で倒せることは出来なかったようだが、それでも甲冑の胸の部分に小さな穴が空いているのが見える。

 完全に効いていないというわけではなさそうだ。


 それなら……!

 次は甲冑の頭を狙って銃を放つ。

 脳を打ち抜けば、相手は殺せる。先程の射撃でちゃんと当たってくれることは理解出来た。ならもう後は心配することはない。


 頭を狙ってもう一発引き金を引く。

 やはり、甲高い音が二度聞こえてくる。多分貫通しきらず、中に弾丸が落ちているんだろう。


 頭を打ちぬいたことが功を制したのか、それとも二発弾丸を打ち抜いたおかげなのかは分からないが、甲冑は剣を抜こうとする動きを止め、その場に倒れ込む。


「なるほど、確かにこれはかなり強力な武器のようですね」


 感心したように、シャインは頷く。


「音も……まあ許容の範囲内でしょう」


 銃声については僕も驚いていた。銃弾っていうのはこんなにも静かに発射されるんだな。

 僕にとってこういった拳銃のイメージなんてものは、ドラマやアニメの世界や運動会のスタートの合図ぐらいのものだ。後者は拳銃とは別のくくりのものなんだろうけど、銃声というのはかなり大きいというイメージがあった。

 ただ昨日の佐久間さんからの説明では、この秘密結社特製の銃であれば、夜中にアパートで銃を撃っても隣の住人にすら聞こえないと言っていた。やはりそれは嘘ではないようだ。

 まあ僕に対して嘘をつくような理由はないし、当然とはいえるが。


 推測にはなるが、この消音性の銃はきっと魔法少女の事を外に漏らそうとした人物を秘密裏に消す際に使うことが出来るようにしているんだろう。

 最初はベアヘロと秘密裏に戦う為かもしれないと思ったが、ベアヘロと戦うときは結界を使うらしいし、そもそもの問題として消音性に拘る理由はない。他の威力や連射性能などを改良した方が効果的だろう。それなら残された可能性はそれしかない。

 そう考えるとこの性能は手放しには喜べたものではないが、とりあえず性能を享受できている内は感謝しておこう。

 ……これが僕に向けられたらとかは、想像もしたくない。


「どうしたんですか、顔を青くして。もしかしてさっきの騒ぎで敵が来たんですか」

「いや、やっぱり秘密結社は凄いなって思っただけだよ」


 元より裏切るつもりはないが、秘密結社を裏切れない理由が一つ増えてしまったようだ。


「変なコウイチですね」


 そんな僕の考えを知らず、シャインは困ったようにそう呟くのであった。

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