第7話
ベアヘロの襲撃を無事穂坂さんが退けた翌日、今日はどうして過ごそうかと朝食を食べながら考えていたところに、シャインが僕の前に現れた。
「コウイチ、少し良いですか?」
「どうしたの、シャイン」
シャインがこうして僕の目の前に現れるのは珍しい。
彼は神出鬼没だ、いつの間にかその場所にいるし、いつの間にかその場所から消えている。その都合からか、用事が無ければ人前に姿を現さない。
「少し試してみたいことがあるのですが、今から時間はありますか?」
何となく彼が言っている試したいことという事には察しがついた。
先日、呟いていた戦う方法とやらを探りたいのだろう。
「警報さえならなければ暇かな」
正直猛烈に嫌な予感がするが、ここで何かあるといったところでシャインが諦めてくれるとは思えなかった。
逃げることが出来ないのであれば、面倒事はさっさと終わらせてしまった方がいい。
「でしたら、朝食を食べ終わった後図書館の方に向かってください」
そう、用件だけ告げてシャインはどこかに消えてしまった。
なんだか面倒な事になってしまったな、そんなことを思いながらまだ途中だった朝食に手を付けた。
朝食を食べ終えた後、言われた通り図書館に向かうとそこには穂坂さんが待っていた。
僕と穂坂さんが話すのはこれが二回目だ、彼女と顔自体は合わせているけどすぐに意識を失うし、話すような時間がないのだ。
「あ、森田さん。おはようございます!」
こちらを見るなり、穂坂さんは席から立ち上がって、腰を九十度にまげてお辞儀をした。
「ああ、うん、おはよう」
その迫力に気おされながらも挨拶を返す。
「なんでここに呼ばれたか知ってます? 急に、シャインからここに来て欲しいって言われたんですけど」
「僕も詳しくは聞いてないんだよね」
正直なところ、シャインの考えにうすうす想像はついている……ついてはいるけども、もしかしたら違っているかもしれない。というよりも、違っていて欲しい。
「すみません、二人共いきなり呼び出してしまって、詳しいことは後で説明しますので、さっそく行きます」
シャインが僕の肩にのると、その瞬間意識が遠くなっていく。
何の説明もなく連れて行くんだ、という心の底からの思いは言葉にならず、そのまま僕は意識を失ってしまった。
ああ、またこの夢だ。
お菓子で出来た道や建造物を見れば、同じ夢の中であることがすぐに分かった。
後方を見てみれば、あの城が目に入る。おそらく甲冑も、前回と同じように見張りをしていることだろう。
さて、この世界で一体僕は何をすればいいんだろうか。
てっきりこの世界で戦うことの出来る武器について説明をして、それを試すためにこの世界に連れてこまれるものだと思っていたので、こうして投げ出されるようにこの世界に来ても何をすればいいのか分からない。
「驚きました、まさか本当に夢の世界に来ているとは」
辺りを見渡してみれば、シャインの姿がそこにあった。
「シャインも来れたんだ」
「ええ、多少無茶な方法をしましたが、どうやら成功したようです」
こちらを見ることなく、辺りを見回しながら答えた。
「あれが、貴方の言っていた城ですか?」
「ああ、うん。そうだよ」
「前回もここから夢は始まったんですか?」
「いや、どうやら前回夢から醒めた所から、夢は始まるみたいだね」
「なるほど。それならまずはあの城の中に入るのが、まず第一の目標というわけですね」
「えっと、どうしてそうなるの?」
確かシャインからのお願いとしては、穂坂さんの深層意識の奥にある願望を理解しろっていう話だったはずだけど。
「アズミの言っていたことを思い出してください。人には他人に踏み入れられたくない領域があると、そしてそれに近づく人物を排除する機能があるという話をしていたはずです」
「ああ、そっか。見張りを立てて守っているあのお城が、その隠したい事である可能性が高いという事か」
「そういうことです。さて、問題はその潜入方法ですが、何か持っていますか?」
そう言われて持ち物を見てみれば、以前この夢の世界に入った時と同じように、財布と携帯ぐらいしか持っていなかった。
「ふむ、前回はその携帯で連絡が取れたんですよね。もう一度、連絡してみてはどうでしょう」
「無駄だと思うよ」
「どうしてですか」
「だって、ほら」
画面の左上に圏外と書かれている携帯を、シャインに見せる。
「……何か問題が?」
ただ、シャインはそのことを理解出来ていないようで、頭にハテナマークを浮かべている。
シャインは精霊だし、こういった電子機器に関しては使い方に疎いのかもしれない。
「ここの表示、圏外ってなってるでしょ。携帯は電波が無いと電話出来ないんだけど、この圏外っていうのは電波がないよっていう意味なんだ」
「ふむ、どうして電波があれば電話出来るんですか?」
「それは、えっと……なんでだろう」
携帯の使い方は分かる。ただ、どうやって電話をしているのかと聞かれればその仕組みはさっぱり分からない。そもそもどういう風に電波を発しているかすらわからないレベルだ。
別に知らなくたっていきていけるし、携帯を使ううえで仕組みを知らなくても全く問題はないため、知ろうともしなかった。
「ふむ、それなら質問を変えます。なぜ一度目は繋がったんですか」
「それは……なんでなんだろう」
正直、そこについては全く理解出来ていない。
何故一度目の電話は繋がったのか。偶然電波を拾っただけにしては、それ以降携帯の表示がずっと圏外だったのは不自然だ。
「まだまだ謎だらけという事ですね。安心してください、私がこっちに来たからにはすぐに解き明かしてみせますから」
シャインはその短い手で自身の胸を叩くような仕草を見せた。実際の所、腕の可動域の問題でギリギリ届くか怪しいぐらいのものだったけども。
「それならいいんだけど」
その自信満々なシャインの様子とは裏腹に僕の不安は募っていくのであった。
「よし、では、さっそく城に向かいましょう」
「え、ちょっと、シャイン。待ってよ!」
そしてその不安は早くも的中し、僕の静止を聞くはずもなく、シャインは城に向かって飛んでいくのだった。
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