第27話: 決戦の時
「蒼涼空波‼︎」
先程までとの蒼涼空波とは違い、体全体を捻り、力の流れに逆らわずに回転する。すると、何回も何回も、回っては切って回っては切る。
ずっと刀を構えているために、疾風丸は近づいてこれない。
「ふん。やはり醜いな。こんな方法しか思いつかないとは。
こんな物、すぐに打ち砕けよう」
さっきまでの怒り狂った口調とは打って変わり、急に冷静になった駿平は、迷うそぶりすら見せずに、疾風丸を振り下ろした。
「当たり前のことだが、お前は知らないようだなぁ。鎌ってのはなぁ?曲がってんだよっ‼︎」
縦に振り下ろした鎌はわたしの腕の隙間にスポット収まった。
「おらよっ‼︎」
駿平は鎌の向きを変え、鎌はわたしの右腕に刺さった。
「——っ‼︎‼︎」
わたしは耐え難い痛みに顔を歪めるが、この近距離に駿平がいる今が、狙い所だと直感し、叫ぶ。
「玄冥月夜ぉぉ———っ‼︎‼︎」
わたしの剣は駿平の左肩から入り、右の横腹を通過した。
駿平は、わたしよりもはるかに多い血を撒き散らす。
「ぐあぁっっ‼︎‼︎」
駿平は断末魔のようなどす黒い悲鳴を上げながら倒れた。
「はぁ、はぁ、はぁ……やっと…勝てた。勝てたよ。秀一郎」
♦︎♦︎♦︎♦︎
おれ—青部秀一郎—が目覚めた時、そこはまだ、アルテルフの内部だった。
「——っ‼︎駿平はっ‼︎」
一瞬で朦朧とした意識を覚醒させるとおれはすぐ寸前まで戦っていたであろう駿平の姿を探す。
「ふん。俺ならここだ」
声のしたほうを見ると、地面に倒れた駿平が、こちらを睨んでいた。
「実に見事だった。だが、お前の仲間はどうだろうな」
「何を…?」
—言っているんだ。その言葉は、声になる前に、ことは起こってしまった。
「いやぁぁぁぁ‼︎‼︎」
その悲鳴の主がシャクナゲであることを察し、振り返る。
周囲を見渡すと、戦闘をしていた人たちも皆、シャクナゲの声に驚き、固まっていた。
「だめっ…アゲラー……お願いっ。戻ってきて‼︎」
蹲るシャクナゲの膝下には、アゲラーが横になって倒れていた。
みたところ、致命傷になりうる血が見えないようだったが、腹部には、青黒いあざができており、アゲラーは彼女の手の中で、ぐったりとしていた。
「アゲラー‼︎」
おれはすぐさま、アゲラーの元へと向かう。
「ざまぁねぇな。いくら強いとは言っても、毒に抗えずにあのザマか」
すれ違いざまに吐かれたアコニタムの言葉に、おれは振り向く。
「お前が…お前が、アゲラーに毒を入れたっていうのかっ‼︎」
怒りのこもった言葉に、アコニタムが高笑いする。
「あぁそうさ。あのバケモンを殺したのは俺さ。
いやぁ〜あっけなかったな〜。俺たち特製の毒を体に塗るだけでどんどん衰弱していきやがる。
そっからはもう弱いのなんのって。戦う気すら起きなかったぜ」
♦︎♦︎♦︎♦︎
秀一郎がさったのを確認すると、私——アゲラー——は、投げナイフを構える。もちろんその相手は……
「よぉアゲラーさんよ。仲間を庇うたぁ随分と余裕そうだなぁ。えぇ?」
持っている短剣を舐めるように舌を伸ばしている人物。ジュッテントンだ。
「あら、あんたの方こそ、楽しそうやないの。そんな余裕でもあるんか?それとも単なる威勢か?どちらにしても、見当違いやね」
私は右手に構えていたナイフを投げ、そのナイフを追うようにして走り出す。
投げられたナイフに追い越さないように調節しながら、懐にしまっているナイフを両手に構える。
「ウチのスピードについてこれてないやないの。全く、遅いわね」
私はジュッテントンの位置を確認すると、前に飛んでいるナイフを蹴飛ばす。
「——っ!!!!」
避けようと逃げていたジュッテントンの顔面に向けて蹴られたナイフは、その予想通りの場所へと直撃した。
「ぐわっ‼︎」
痛みで顔を抑えるジュッテントンに、私自身の突進攻撃と両手のナイフが突き刺さる。
「そんなに休んどったら、避けれるもんも避けきれへんで」
容赦のない攻撃に、ジュッテントンは満身創痍だ。
「私を止めるんいっとった口は、どこに消えたんやろな。あんたじゃうちに勝てへん。諦めて死ね」
私はトドメを刺すために、ナイフを取り出す。
「それじゃ、さいなら」
私がナイフを振り下ろそうとした時、どこからか殺気を感じ、その場を離れる。
「誰や。ウチの邪魔するやつは」
私が問いかけるよりも早く、一つの呪文が打たれた。
「くっ!」
あたりに土煙が舞い、ジュッテントンを見失う。
「しまったっ‼︎」
慌てて追いかけるが、何せ視界が悪い。これでは下手に動けない。
「いつもクーナが言ってること。『非常事態こそ冷静に』まずは冷静に、この土煙をなんとかしなくちゃ」
私は投げナイフから、短剣に持ち変えると、空に向かって切るような仕草を取る。
「みんな‼︎ 手伝ってちょうだい」
あまり周りには言っていないが、私は精霊使いでもある。多分周囲の人間の中で知っているのは、クーナくらいだろう。
この世界で、精霊使いは少ない。それは、精霊という存在が嫌われているからに過ぎない。
一般的に精霊というものは、自然そのもの。時に地を揺るがし、時に水で流し込む。
そんな危険な存在と好んで関わろうとする人間は、この世での嫌われ者だった。
かくいう私も、精霊使いということで迫害された中の一人だ。
と言っても、蹴られたりしたわけではないのだが……
昔から、精霊使いを怒らせるなという認識があるらしく、精霊使いを怒らせると災いが降ってくるという迷信があるらしい。
もちろん私にそこまでの力はないのだけれど。
どちらかといえば、周りから避けられているという孤独感の方が辛かった。
だから私は、精霊使いということが知られると、すぐにその街を出ていた。
ダガーや短剣は、私が精霊使いであるということのみの隠しとして経験を積んだため、ある程度戦えるようになっていた。
ある日、私が酒場でビールを飲み干していると、一人の女性が訪ねてきた。
「ねぇ、私と一緒にギルドをやらない?今、人を集めているところなんだけど……」
それが、シャクナゲだった。
「ちょいこっちきてもろてええか?」
私は酒場を出ると、細い裏道へと入った。
「ちょっと、どこに行くの?私、いろんな人を誘いたいのに……」
シャクナゲは不満を言いながらもついてきてくれた。
「あんま人に聞かれたくないんよ」
私は、周りに誰もいないことを確認する。
「うち、精霊使いなんよ。普段はダガー使うとるけど、本業はそっち」
またこれで、一つの町をさらなければならなくなった。私はギルドの誘いを受けても、すぐに断ることができない。
昔はもっとキッパリ断っていたのだが、ある時から、しつこく勧誘を受けるようになり、そのことに耐えられなくなった時に、思わず”精霊使い”という単語を使ってしまったことがきっかけで、めっきり勧誘は来なくなった。
初めはそれでよかったのだけれど、どうやらその場には何人も聞いている人がいたようで、瞬く間に街全体に広まってしまった。
誰からも避けられるようになり、怯えられる日々。
私は耐えられず、その町を去るしかなかった。
別に村はいくらでもあるんだし、そのうちの数個がいけなくなったとしても、百年後には戻ってこれる。百年もあれば、いろんな場所へ行けるだろう。
それから私は、ギルドに誘われるたびに、素性を明かし、別の町へ行く。ということを繰り返した。
この町も今日で終わりかな。身支度整えなくちゃ。
「それじゃ、そういうことだから。あんたもあんまウチと関わらん方がいいよ」
私はその場をさろうと、彼女とは反対方向へと歩き出す。
「待って。私、あなたが精霊使いでも、あなたと一緒に戦いたい。
ギルドメンバーが増えても、そのことは隠してくれて構わない。
私からも広めることはしないから。だからお願い。私とギルドをやろうよ」
そう言って、私の腕を掴む。その力はとても女性のものと思えないほど強かった。
私を精霊使いと知ってもなお、私を誘ってくるこの女性に、私はとても興味が湧いた。
そして、一度くらいなら、ギルドに入ってみるのも悪くないかもしれない。とも思ってしまった。
「いいわ。そこまでいうならうちもそのギルド、入らせてぇや。うちはアゲラー。精霊使いや」
「えっほんとに?私が作りたいギルドに入ってくれるの?
ありがとう‼︎ 私はシャクナゲ。レイピア使いよ。
じゃあ早速、役所に行って、新規ギルド作成の紙をもらいにいきましょ」
私の腕を引いてくるシャクナゲ。私もそれに釣られるようにして、役所へと向かった。
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