第23話: 復讐の開幕

「おめぇら!!!! 今まで俺らの同胞を殺し続けてきたギルドリーダーに、引導を渡す覚悟ができてるかぁ⁉︎」

「うぉぉぉぉぉ……!!!!」「ちっこい骨へし折ってやる‼︎」「覚悟しとけよシャクナゲ‼︎」


 威勢のいいアコニタムの掛け声に合わせ、敵勢がアルテルフの中へと侵入してきた。


「ちっくしょう……もうきやがった……」


 必然的にこのアルテルフの中での決戦になることはわかっていたため、ある程度の妨害工作はしてある。その一つは……


「うわっ!!」


 門に設置した細長い糸だ。細長いといってもその強度は強く、人をころばせるために使うには十分だった。


「おい何してんだ!!! 後ろつっかえてんだぞ!! 早く進め!!」


 予想通り、相手の正面しか見ていない奴らは、足元に設置してあった糸に気づかずに、出鼻を挫く結果となった。そして、その隙に……


 ヒュッという軽快な音と共に、矢が放たれ、転んだ男の背中へと刺さった。


「ゔっ!!」


 という鈍い声と共に、起きあがろうとした男の意識は奪われた。


「まず一人」


 おれは矢を放った女性の方に振り向いた。彼女の名前はヒヤシキスと言って、頼もしい味方である。

 おれたちは応戦するにあたって、それぞれ顔合わせをし、作戦を練ったのだが、最初の牽制を頼んだのがヒヤシキスだった。


「シキ、シュウ、好いとぉ。シキ、頑張る」


 なぜか会ったばかりというのに異常なほど好かれてしまったことだけが気がかりだった。さらに、シャクナゲに、


「ヒヤシキスがこんな人に懐いているのを見たのは初めてだわ。何か思うところがあるのかもしれないわね」


 と言って笑われたことで、おれの謎は深まるばかりだった。


 ただ、彼女の弓の正確さは傑出していて、次々と繰り出される矢は正確に敵に命中させられていた。


「テメェらは下がってろ!! 俺が時間を稼ぐ。その間に魔法部隊は詠唱をっ……!!」


 この状況を打破すべく、ジュッテントンが前線へと躍り出る。


 関係ないと、ヒヤシキスは矢を放ち続けるが、それはことごとくジュッテントンの短剣によって撃ち落とされる結果に終わった。


 それを見て、アゲラーが前に躍り出る。


「ウチ、行ってくるわ〜」

「あぁ、頼む‼︎」


 おれの声と同時に、アゲラーは懐から投擲用のダガーを取り出すと、ジュッテントンへ向けて放つ。


 ジュッテントンはそれを軽々と避ける。そしてアゲラーへと真っ直ぐに迫ってくる。


「来たな化け物‼︎ここは俺が食い止める。駿平、ここは頼んだぞ」

「ウチはエルフよ‼︎魔物なんかと一緒にしないでくれるかしら?」


 二人は元いた場所から大体中央近くで衝突した。そして、激しい攻防が繰り返される。


 アゲラーが太めのダガーを取り出し、短剣をはらう。またはらう。はらいまくる。


「うちにも攻めさせてよ…ねっ‼︎」


 アゲラーも防御だけでは止まらず、攻防が一転する。


 ジュッテントンもそれを打ち返し、時には避けながら応戦するが、何せアゲラーのスピードが早すぎる。時々躱しきれずに攻撃を喰らっている。


 腹部、胸部、足、腕……一撃を喰らうたびに、ジュッテントンの体制が崩れていき、次第に、攻撃を喰らう頻度が増えてくる。


「この世を満たす万物の空よ。ここに今、我は誓う。全てを切り裂き、血の雨を降らせんと。我はかの者を憎み、かの者を妬む。怒りや憎しみを持って、悪を断つ。風神斬峰陣‼︎」

「——っ‼︎」


 突如聞こえたその声に、おれを含め、戦っていたアゲラーまでもが、その声をした方向へと振り向いた。


 その声の主は警戒していたアコニタムのもので、見えない斬撃が飛んできていた。


「アゲラー‼︎ 避けろ‼︎」


 呪文が唱えられた時にはその斬撃は見えないものだったが、あたりの土を巻き込んだせいで、うっすらとその形が見えるようになる。


「え、嘘⁉︎ いやぁぁぁぁ‼︎」


 風のように迫り来る斬撃は、とても避け切れるものではなく、アゲラーに直撃する。


「残念だったなお嬢ちゃん。頑張った方だが、連携ってもんがなかったな」


 アコニタムの攻撃で怯んだアゲラーの元へ、ジュッテントンが攻撃を仕掛けようと構える。


 おれは瞬間的に駆け出していた。今ここでアゲラーを失うわけにはいかない。

 それはわかっている。ただそれ以上に、茜の親友をこんなところで失わせたくはなかった。


「うおぉぉぉぉ‼︎」


 おれは青葉丸をしっかりと握ると、三度目となるこの技を繰り出す。


「玄冥月夜‼︎」


 このままでは間に合わないと感じ、この技の踏み込みで一気に距離を稼ぐ。


「アゲラーは俺が守る‼︎」

「ガキはさっさと寝とけっ‼︎」


 おれの玄冥月夜はすでに相手の肩にたどり着く寸前だった———のだが、ジュッテントンはそれをかわすと、背中に短剣のつかを振り落とす。


「ぐはっ‼︎」

「どうせ防具でもつけてるんだろ? こんなとこで刃こぼれさせるわけには行かないんでねぇ!」


 剣先で刺されるよりかはましだったが、それでも鍛え上げられた肉体から繰り出される一撃は、おれを地面に這いつくばらせるには十分すぎる威力だった。


「どこ向いてんねや。相手はウチやぞ?」

「ちょ——嘘だろっ‼︎」


 体を捻って戦線を離脱したおれが見たのは、アゲラーがダガーを二本取り出し、ジュッテントンの足に突き刺している光景だった。


「シュウくんフォローありがとねっ!」


 何もできなかったのにも関わらず、アゲラーは礼を言ってくる。


「おれなんて何もしてないです。ここは任せました‼︎」


 とりあえず自分の体制を立て直すと、今度は門の方へと向く。


 そこには、ヒヤシキスの矢をことごとく撃ち落とす一人の男——浅岡駿平あさおかしゅんぺいがいた。


 おれが駿平の元へ近づいているのを察したヒヤシキスが弓を引くのを止める。

 その隙を相手側が見逃すはずもなく、わらわらと人が入ってくる。


 おれのことは駿平にやられると思われているのか、入ってくる人たちはことごとく無視してくる。


 何人か切りつけてやろうかと思ったが、彼らを待ち受けているのはシャクナゲだ。

 きっとすぐ吹き飛ばされることになるのだろうと考えていると哀れになってくる。


「おや? だれかと思ったら秀一郎じゃないか。こんなところでどうしたんだ? 今ここは危ないぞ、離れた方がいい」


 おれのことを道に迷ったものだと思われているのか、心配してくれている。


 おれはその駿平に対して、刀を抜き、剣先を額の前に構える。


「ご忠告どうも。ただごめんな。おれはシャクナゲと約束したんだ。

 この場所を、彼女を守るって‼︎」

「そうか、残念だ」


 おれたちは同時に叫んだ。

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