第21話: おれ一人でも……
「付き合ってくれてありがとうよ」
酒場の宿の部屋の前での彼の最後の言葉は、どこか落ち着いていて、気持ちの整理がついたようだった。
「おやすみなさい。またあなたとお話ししたいです。都合の合う時にまた」
これは紛れもない本心だった。また駿平と話がしたい。
今度は笑い合いたい。それがどれだけ難しかったとしても……
駿平はそれに頷くとドアを閉めた。おれも、自分の部屋へと戻る。
部屋着に着替えた後、ベッドの上に寝転がり、今日あった出来事を整理する。
シャクナゲが古い友人である
シャクナゲのレイピア、舞宵は青葉丸の作成者、
二剣鋼冶が作った武器には、レベルというものが存在し、それによって青葉丸が言葉を発する程度が変わること。
おれの目的、目標。茜を救いたいこと。
そこまで振り返ったことで、おれはあることを思い出した。
アコニタムと思われる人物が言っていたではないか。
襲撃は明日の早朝。おれはそれをいち早くシャクナゲに伝えなければならない。
それに、戦力も心許ないだろう。俺もそこへ行かなければ。
なんなら、カースたちにも手伝ってもらおう。
おれはすぐさま普段着に着替える時間さえ惜しんで、月影荘へと向かった。
「カース起きてくれ‼︎ 明日金獅子で大規模な反乱が起きるんだ‼︎
おれたちも行かないとっ‼︎」
ドアをどんどん叩く。
しばらくすると、眠そうな声と共に、トレランスがドアを開けた。
「どうしたのそんなに慌てて。とりあえず、上がってお茶でも飲みますか?」
「そんなこと言ってられないんだ。金獅子の一部のメンバーが下剋上をするって言ってるんだ‼︎ シャクナゲが危ないんだよ‼︎」
早く行かなければ、今こうしている間にもシャクナゲは体力を消耗しながら、アコニタムたちを待っているのだ。
そんな俺の焦りがわかっていないようなトレランスにおれは苛立ちを感じ始める。
「どうした? 秀一郎。そんな焦るたぁ、お前らしくもない」
おれの声を聞いて近づいてくるカースを見て、まず初めに思ったのが「お前もか」ということだった。
彼らの今の格好は、とても戦闘に出られるような姿ではない。
おれも大概のことは言えないが、着替えなら持ってきているし、青葉丸も腰に刺してある。
おれはとりあえず、着替えるために部屋に入ると、部屋着を乱暴に脱ぎ捨て、いつもの戦闘用の服へと着替える。
「おいおい。ほんとに落ち着けって。ほら、お茶でも飲んでちょっと休んでけ」
休んでなどいられようか。のんびりしていては、出遅れてしまう。あと数時間もすれば、日は登ってしまうのだ。
「そんなこと言ってられるかよ。おれはシャクナゲを助けにいく。二人にもついてきてもらいたい」
おれはそれだけ告げると、すぐにアルテルフへ向かおうと、玄関へと走り出す。
「っ…‼︎ 待て‼︎」
玄関のドアノブに手を乗せた時、カースが叫んだ。
おれは、カースがついてきてくれると思い、期待の意味もこめて、振り返る。
しかし、カースはおれのの思ったような顔をしていなかった。
「これからどこへ行こうっていうんだ。シャクナゲのところへなら俺たちはいけない。
お前が個人的に助けたいと思うのなら俺はそれを否定することはできない。ただし迷惑だけはかけるな。
何があってもシャクナゲに迷惑をかけて足を引っ張るなよ」
それを聞いているトレランスも同じような答えだと言って頷く。
「それじゃお望み通りおれは一人で行かせてもらうとするかね。とんだ無駄足だった」
おれは吐き捨てるようにその場に恨みを置いて、外へ出た。
「なんでわかんないんだよ。なんで助けようとしないんだよ。
なんでだよ…なんでなんだ……」
カースもトレランスも動こうとしないことに、おれは苛立っていた。
その苛立ちを地面に叩きつけるようにして、一人でアルテルフへと向かった。
一方、月影荘に残った二人は……
「シュウくんには悪いけど、私たちはあの場所にはいけないものね。
私たちはただ、彼が無事に戻ってくることを願うしかないわ」
元リーダーを助けたいという気持ちは変わらない。ただし私たちの選んだ選択が、それを難しくしているのだ。
「あぁ、わかってる。こうするしかないことも。
わかってはいるけど、なんかしてあげられることがあったのではないかという不安や後悔が拭いきれない。
とにかく今は、秀一郎の無事を祈るしかない。悔しいが……」
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