第20話: 恨みの矛先
「ビールと…お前は何飲む? 俺の奢りだ。好きなもん選べ」
店員に自分の注文を済ませ、メニュー表を俺に渡してくる。
「そうだなぁ…アイビーク絞りで」
アイビークとは、アイクというコウモリのような姿のモンスターが落とすアイビーというベリーのことをいう。
ただし料理として使うときは、アイクからとれたアイビーということもあって、語呂がいいからと、一緒に表現されることの方が多い。
初心者でも借りやすいモンスターで、夜に活動をする。
なので、昼間はベルゲス、夜はアイクのように分類されている。
おれは夜には寝ていたい派なのでベルゲスを狩っていたが、アイクを狩る場合も、物資の取り合いが激しいという噂をよく聞く。
「そんな遠慮せんでもいいのに」
確かに、アイビークは一杯30ガルと、他のメニューに比べて、少し安めに設定されている。
「いえ、おれはこれが好きなんで」
おれはぶっきらぼうに告げると、駿平は鼻で笑った。
「安上がりなガキだこと。俺は
別に名を隠さなければならないという訳ではない。
「
「そうか、じゃあ下の名前で呼ばせてくれ。秀一郎。
俺が知りたいのは、お前の刀についてだ」
単刀直入に出された話題に、おれは驚愕して、咄嗟に腰に刺してある青葉丸に手をかけた。
「待て待て。何もここで争いを生みたいわけじゃない。少しは冷静になってくれ」
両手を前に向け、何も持っていないことを証明する。
格闘家という線も可能性としてはあり得たが、あまり人気のない職種のため、わざわざ選ぶとは思えない。
それに腰に目を向けると、彼が持っているのは、マンモスの角のように曲がった剣だった。
これではすぐには動けまい。おれはそう判断すると、青葉丸から手を離した。
「それで、おれの刀ってどういうことだ?別に見てもらって構わないが…」
そう言って、青葉丸を駿平に見せる。
駿平は青葉丸をじまじまと見た後、納得したように頷いた。
「この刀。名は?」
そこまで気づかれていたか。普通の武器には名などない。
それこそ大量に生産され、手入れもろくにせず壊れたら買い替える程度の冒険者が一般的なため、いちいち名前をつける人がいないのだ。
そのことから、これは大量生産のものではなく、オーダーメイドの特別なものだと勘づかれたことが窺える。
「青葉丸だ。鍛治師は
青葉丸を打った鍛治師の名前を言わなければそれは、二剣さんに失礼というものだろう。おれが青葉丸をあまりよく思っていないとは思われたくない。
ただ、駿平はその名に聞き覚えがあったようで、目を開き、そして、また刀に目を落とした。
「
まだとはなんだ?
彼は、二剣さんはとても立派な鍛治師だ。
この青葉丸を使っていれば、誰でもわかる。
それを駿平は、否定するというのか。
おれは憤慨した。
「てめぇ‼︎ 二剣さんをあいつ呼ばわりかよ!! それに、鍛治師が武器を打って何が悪い‼︎」
胸ぐらを掴み、おれは怒鳴りかかる。そんなおれを駿平は冷ややかな目で見つめた。
「あいつを善人だと見る目なら腐っているも同然だな。
まぁ、かく言う俺も、あいつに目を腐らされた人間のうちの一人なんだが…」
そう告げる駿平の顔はどこか悲しげで、どこか懐かしい顔をしていた。
「考えたこともないのか? あいつが打った武器で、何人の人が殺されたか。
それは決して、魔物を殺すだけじゃなかったはずだ。
俺は、あいつが打った剣で俺の友人が殺されている。
恨みと近い思いを抱くのも、無理はないだろう?」
「それはっ……‼︎」
確かに駿平の言葉には、恨みや憎しみが込められていたので、それにかける言葉に詰まってしまう。
「それはっ……確かに、彼の打った武器によって人が殺されたこともあったかもしれない。
けれどそれを理由に二剣さんを責めることはできない。
そりゃああんたが恨みたいという気持ちはあるかもしれない。
けどそれって、その剣を打った人じゃなく、その剣を振るった人を恨むべきじゃないのかよ‼︎」
「俺はその剣を振るった人に憧れてその人がいるギルドに入った。
彼女と同じ鍛治師に俺の武器を依頼した!
それがこの疾風丸だ‼︎ その結果なんだ‼︎
言葉を話す剣、変わってしまったリーダー、次第に刀と自分の人格がくっついていく恐怖‼︎
お前も次第にそうなるぞ、秀一郎」
「その原因はなんだ‼︎おれはさっきまで二剣さんのところにいた。
そこで聞いた話だと、所有者がその原因だと言っていたさ。
駿平さんよ。原因はその疾風丸じゃなく、駿平さんにあるんじゃないのか?」
おれの問いかけに、少なからず彼は動揺したようだ。
それはそうだろう。
誰だって自分が原因だと言われたら、動揺し、最悪の場合つかみかかってくる可能性さえもあった。
ただし、彼はそうではなかった。
「人の人格に作用される武器だと? ふざけんじゃねぇ‼︎
あのリーダーに限って、人が悪いわけじゃなかった。
てめぇにリーダーの何がわかる! お前なんかにっ……」
最後の方は半ば願望のようにも聞こえたが、おれはそれを黙って見届けていた。
憧れを挫かれた駿平の弱音を、誰が馬鹿になどできようか。
「こちらがビールとアイビークになります。ではごゆっくりどうぞ」
静かになった頃合いを見つけて、酒場の店員が注文された品を運んできた。
おれたちは、それを受け取ると、落ち込んだ雰囲気と共に飲み干した。
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