第16話: 茜とシャクナゲ
「私に起きたことはこんな感じかしら。満足してくれた?」
茜…いや、シャクナゲの身の上話が終わった時、静かに涙していた。
「茜にそんなことが起きていたなんて……
茜がどこにも見つからなくなったって聞いた時は、もう会うことはできないんだと思って、町中を走り回ったのを覚えているよ。
おれにとって、君はいつでも頼りにできるお姉さんだったから。
頼りにできる人にもう会えないって時、この不安をどこにぶつければいいんだってなって、その答えがそれだったのさ。
けど、そんなこともうどうでもいいや。
だって、茜がここにいるんだもの」
生きてくれているだけで嬉しい。
おれにとって、その事実がおれに涙させたのだった。
「茜って名前聞くの久しぶりでとっても嬉しい。
だけど私はもう茜じゃないの。
だから、シャクナゲという今の名前で呼んでもらえるかな?」
彼女を慕っていた者として、その要望を飲まないわけにはいかない。
「わかった。シャクナゲ。一つ聞いてもいいか?」
さっきまでシャクナゲが話してくれた内容の中で、おれがどうしても気になったことがあった。それは……
「その舞宵ってレイピア。
そいつは二剣鋼冶によって打たれたものなんだな。
ならそいつが言葉を発するのは納得がいく。
おれの刀、青葉丸もあの人に打って貰ったからな。
それに、ユウエイと遭遇したことで声が響いたことも変わらん。
ただ、同じ人間がうつ剣にこんなに性格が違うなんてことがあり得るのか?
おれの青葉丸は妖精みたいに透き通った声だったぞ?」
おれがユウエイと戦った時は、天使でも舞い降りてきたのではないかと思わせるような声が聞こえてきた。
しかし、シャクナゲの舞宵はもっと自分のことを聞けみたいな強制してくる類だという。
その違和感がおれの中でぐるぐると絡まっていた。
「さぁ?そこは彼に直接聞くほかないでしょうし。
最近このレイピアを研いでいなかったし、たまにはいくとするかね。
よかったらシュウも一緒にどう?」
確かに、彼の作ったものは、彼に聞く方が知っているだろう。
それにおれも、この青葉丸を手にしてから、あの人のところで手入れしてもらっていない。
ちょうどいい機械だからとおれもその誘いに乗る。
「おう。じゃ行こうか。
しばらくはアコニタムとか言う奴も大丈夫なんだろ?」
シャクナゲの言葉を聞く限り、その男が今すぐの脅威というわけでもなさそうだ。
「えぇ、何かあったらアゲラーから連絡が来る。
その時は付き合ってもらいますよ」
くすくすと笑う彼女を見るに、いくら昔からの知り合いとはいえ、新人冒険者として始めたばっかりのおれに、そこまで期待はしていなさそうだ。
「けど、あんまのんびりしてるとすぐおれの出番がきちまう。
とりあえず、ここでようか」
おれが手を差し出して、彼女を起こそうとすると、
「あら、それじゃ怪我をした私を担いでいってくれるのかしら」
「ふん、言ってろ」
昔のように軽口を言って、おれたちは二剣鋼冶のいる、鍛冶屋へと向かった。
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