第15話: 綱渡りの行方

 ネメシアたちは新しいギルドを作り、その場所に一番初めにできたギルドメンバーを紹介したいという手紙が来た。

 そして、会う約束をした前日の朝に事態は大きく豹変する。

 ネメシアたちの件は、うまくいっているように見えたかのように見えたが、長続きはしなかった。

 金獅子のメンバーには、私がネメシアとロータスを殺したと思われているようで、日々、その恨みが強まっていることを、ひしひしと感じていた。

 「ロータスを返しやがれ!!この人殺し!!!」

 ロータスと親しかった、アコニタムという人物が、ロータスの仇と言って、攻め込んできたのだった。

 当然舞宵が意識を奪って、アコニタムとの戦闘に発展してしまったのだが、私に不満を抱いていた者たちが、爆発し、集団となって襲いかかってきたので、全てを鎮めるのに時間がかかった。


 舞宵が意識を奪うのには時間的な限度がある。


 数分間に一度、私の意識が戻ってくる。

 その隙に、私は戦線を離脱し、一つの手紙を書いた。


 そして、信頼できるアゲラーという女性にその手紙を届けてもらうよう頼んだ。


 彼女は私と同じくらいの背丈のエルフだ。

 彼女とはよく、舞宵抜きでギルドの今後をどうするか、次にどの依頼を受けるかなどの相談事をよくしている。

 そして、ネメシアたちの時も彼女に相談していたため、その結果を知っている。


 私はよく、彼女と一緒に、舞宵抜きで魔物討伐を行なっている。

 彼女はダガーを投げ、その投げたダガーと一緒に自分自身も突進し、投げて刺したダガーに思い切り拳を振るいトドメを刺すという人間離れした戦闘方法を取る。


「任せちょきんしゃい」


 いつもの能天気な口癖にネメシアたちを託す。

 そして、アコニタムたちの声が近づいてきているのを感じ取り、舞宵を握り直す。


『もうよいな』


 私がやりたかったことを済ませたことを確認すると、私の意識が薄れていく。


『我は…其方を……』


 意識の切れ端に、舞宵の言葉がした気がするが、それを確認する間もなく、意識が途切れた。


『其方の連れが戻ったぞ』


 舞宵の言葉と共に私の意識が覚醒する。

 周りを見渡すと、そこはいつもの私の部屋のベッドだった。


「こんな傷つきおって。ほれ、手ェ出しぃや。包帯まいちょる」


 隣を見ると、アゲラーが救急箱を持って、座っていた。

 私はおとなしく腕を差し出すと、手慣れた手つきで、包帯を巻き始める。


「まったく。こんなになるまで戦いおって。

 手加減ができんのは昔からか。

 なんてったって竜ぶっ倒してんだからな」


「もう、その話はやめてって言ったじゃん」


 竜を私が倒したという話は広まっているが、一つだけ、語弊がある。


「あれはちっちゃい時に私と年下の男の子と一緒にまだちっちゃな竜をいじめてただけなんだって。

 私が思い切り機の棒を振り下げたら死んじゃっただけで、誇れるようなものじゃないよ…」


 竜といえば、とても大きい凶暴な魔物として有名だが私が倒した竜は、その子供で、せいぜい1~2mほどの大きさの個体だった。


 「それでも、竜なんだから凶暴だったやろ?」


 アゲラーがいうように、確かに凶暴であった。

 火も吹いてきたため、秀一郎の髪が燃えて急いで水を被せたことも覚えている。


「えぇ。そりゃあもう。

 その男の子に火を吹いちゃって、水を浴びせてその場は治ったんだけど、危険だったことには変わりないから、私が思い切り打ったのよ。

 そしたら竜が死んじゃって、竜殺しのシャクナゲなんていう不名誉な称号を手に入れましたとさ」


 正直に言って、この単語には、引け目を感じている。

 ただそのおかげで、金獅子に人が集まったとも言える。

 なんとも申し訳ない気持ちである。


「それよりも、断ってしまってよかったん?

 ネメシアちゃんたちのとこの子なんでしょ?

 だったら、会ってあげてもよかったんじゃない?強そうだし」


 アゲラーが話しているのは、戦闘中に私の意識が戻った時に書いた手紙の内容だ。

 本当なら今日、会う予定だったネメシアたちのギルドに新しく入った少年のことだ。


「よかったんよ、これで。

 私はあの子たちとはもう会わないって言ってあるから」


 彼女たちを守るためとはいえ、彼女たちを傷つけてしまったことには変わりはない。

 だから、私は彼女と会う資格を与えられていない。


「そんなこと口だけってバレバレだって知ってた?

 ほんとは会いたいんやろ?」


 彼女はこう言ったことには容赦がないため、私の言葉の裏をかいてくる。


 言葉が詰まり、気まずい雰囲気が流れ始めようとした時、戸を叩く音がした。


「シャクナゲ様、手紙であなたと今日会う約束をしていたという男が、門の前に来ています。

 お通ししてもよろしいでしょうか?」


 まさか手紙が届いていないわけではあるまい。

 そう思ってアゲラーを見るが、


 「ウチを疑わんといてや。しっかりと酒場に渡したで」


 それは当然だろう。

 私は彼女が約束を破ったところなど一度も見たことがない。


「まぁよい。お通ししなさい」


 私は戸の前にいる男に告げると、足音が遠下がっていくのが聞こえた。


「そうだ、それよりアコニタムたちってどうなったの?」


 私がこの場にいるということはその件がひと段落したと考えても言いだろう。


「ほんまに覚えてないんやね。

 戦っている時のこと。彼らならこの敷地内にはおるよ。

 アコニタムは回復魔術とか使えるからほっといてもしにゃせんよ。

 他の奴らの回復もしてるだろうから、しばらくは放置しておいて大丈夫さね」


 少なくともギルド内には今回の一件で死者は出てないと告げてくれたことで、幾分か気持ちが楽になった。

 それと同時に、なぜ舞宵は命までも殺めなかったのだろうとという疑問も出てきた。


 ただ、アゲラーの前では舞宵のことだけは相談していないため、今ここで舞宵を持って聞くことはできないのだった。


「さて、来客ならウチはお暇しようかね。

 ネメシアちゃんたちによろしくね」


 そう言って、アゲラーは部屋を出ていった。

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