第13話: 私とシャガ

私が目覚めた時、シャガはまだ寝ていた。


 とりあえず息があることに安堵し、私は昨日からほったらかしにしていた舞宵の手入れをした。


 血を被り、錆びていないか心配していたが、どうやら、二剣さんの剣は相当なことがない限りは、錆びたりかけたりしないらしい。


 私が血を拭くと、舞宵の声が聞こえてきた。


『何故其方はあの者を助ける。

 彼奴は金獅子を抜け出そうとした謀反者ぞ。

 助ける義理もないだろう』


 彼奴とは、まず間違いなくシャガのことだろう。

 そのシャガを私が手当てをしたことで、少なからず怒りを感じているようだった。


 「だってあの人は、金獅子を初めてすぐに入ってきてくれた人だよ?

 そんな粗末な真似はできないよ」


 私は彼に対し、とても感謝をしていた。

 金獅子というギルドを作ったとはいえ、人が集まらなければ、すぐに廃れてしまう。


 そして、金獅子を作った時は、全く人が集まらず、ほぼソロプレイみたいなものだった。

 そんな時に、ギルドに入れてくれと頼みこまれた。


 それがシャガだった。


 シャガは、実力はあるものの、有名なギルドへの入隊を却下されたところに、金獅子があったのだと聞いた。


「金獅子かぁ。なかなかにいいセンスしてんじゃねぇか嬢ちゃん」


 そういって笑うシャガの瞳に、私は憧れを抱いていた。


 そして、シャガと共に魔物を倒していくうちに、名を挙げるようになっていき、それに伴うように、ギルドメンバーの数も増えた。


 私は、シャガに戦闘の指揮を取るように頼み、こうして、私はただ上から命令するだけの人間になったのだった。


 最終的には、彼を裏切ってしまったかも知れないと思うところもあるけれど、私は彼の前ではその後ろめたさを出さなかった。


 余計な気を遣わせえたくなかったのがまず一つ。

 もう一つは、私の存在意味を守るためだった。


 毎夜の手入れも終わり、いつもの剣立てに立てかける。



 —彼の調子は良くなったかしら—



 そんなことを考えながら寝室へ向かうと、シャガはベッドに座っていた。


「よかった。目を覚まされたのですね」


 私が彼に近づいた時だった。


 不意に、殺気を感じた……と思った時にはもう私の体に斬撃が刻まれていた。

 そして、その勢いのまま、後ろへと倒れ込む。


 何が起こったのかわからず、私は驚愕でいっぱいだった。


 一体誰に?———ここにいるのはシャガと私。


 なんのために?———もちろん私への恨みのために。


 私が何をした?———記憶にはないが私は彼を傷つけた。


「お前についてきて損したぜ……って、なぜ反撃してこない……

 あのレイピアはなぜ持っていない…それにここは……」


 私を斬ったはずの彼でさえ混乱しているようだ。


「シャ…ガ———」


 私は、シャガへと手を伸ばしたが、シャガが手を取る寸前、意識を失ってしまった。


♦︎♦︎♦︎♦︎


 目が覚めると、私がシャガを眠らせたベッドに眠らされていた。


 あのまま私の命が尽きてしまうのとばかり思っていたばかりに、このことに驚きを隠せない。


「起きましたか、リーダー。どういうわけか、説明していただけますか?

 あなたが私を呼び出し、私に傷を負わせた時のあなたの覇気は、そんな生やさしいものではありませんでした。

 しかし、私が次に目覚めてあなたを斬った時、その覇気は感じることができませんでした。失礼ですが、別人でもあるかのように……」


 私が起きた物音を聞きつけたのか、シャガが近づいてきた。


 私は迷った。

 ここで真実を語ってしまったら、後で舞宵から厳しい叱責を受けることになってしまいかねない。

 自分の保身に出るか。仲間の信頼を得るか。


 悩みに並んだ結果、私は彼に全てを打ち明けることに決めた。


 全てを話し終えた時、


「申し訳なかった。あなたがそんなことをしていたとは知らず、俺がここを抜けようとしていたことに抵抗し続けたのも、俺の身を守るためだったなんて。

 けど、相手に話せないとはいえ、もっとマシなやり方とかなかったのか?」


 彼は、私の行動に感謝をしながらも、もっとわかりやすい方法で、教えてくれればよかったのにと、不満を漏らした。


「そんなこと言わないでよ。

 私だって舞宵から隠し通すために善処した方なんだから。

 私、あなたが傷つけられることだけは許せないの。

 だって、あなたは私にとって、とても大切な存在だから。

 この金獅子が今もあるのは、あなたのおかげだから」


 私が照れながらいうと、


「そんなこと言ったって何も出て気やしませんよ」


 シャガには、冗談だと思われたらしく、軽く流されてしまった。

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