第9話: 最悪のリーダー

 カースとの特訓を始めてから、数日が経ち、いよいよ、シャクナゲとの約束の時が近づいていた。


「いよいよ明日だな。あのリーダーと会うのは。

 俺たちはあそこへはいけないが、まぁ、頑張れよ」


 一応、カースとトレランスには、ギルドの近くまでは同行してくれることになっているが、その中までは入れない。


 聞くに恐ろしく、けれども人情的な恩情的なシャクナゲと会うことに、おれは一種の興奮を覚えていた。


 どんな人物なのか、それは人から聞くだけでは捉えきれないことの方が多い。


「あの人に何かを言われても、あまり気にしないでねっていうのは、彼女に失礼かしらね」


 心配してくれているトレランスをおれはできる限りの感謝を伝える。


「わかりました。ありがとう」


 今はまだこれだけしか伝えることができないけれど、いつかきっとこれは態度で示そうと心に決める。


「今日はもう寝ろ。

 明日になってまだ眠いとか言って遅れたら途端に俺の鉄槌と、彼女の剣裁きが飛んで来ると思えよ」


 カースは自分の部屋へと入る前、おれに脅しを残していった。

 おれも悪態の一つや二つぶつけてやりたかったが、そうしようとした時にはもう、部屋のドアは閉まっていた。


 おれは仕方なく無言で、月影荘を出ると、いつもの酒場へと向かった。


「秀一郎様宛にメッセージをいただいております。

 お時間ができましたら、またお声掛けください」


 珍しく鍵を取りに行ったら、手紙が来ているとの連絡が入った。

 一体誰が、と思いつつも、その内容を見ないと気になって寝付けそうになかったので、おれはその場で聞き返す。


「おれに手紙?今もらってもいいか?」


 受付嬢は「少々お待ちください」と告げると、手紙を探しに奥にいってしまった。


 その場で待っていると、「お待たせしました」という声と共に、手紙が手渡された。


 差し出された手紙には、『青部秀一郎様へ』とだけ書かれていた。

 差出人の名前はない。

 不審に思い、おれは自分の部屋へ入ってから、封を解いた。


 中には、二つ折りになった手紙と小包が入っていた。

 先に、手紙の方を確認することにした。


 この手紙には宛名は書かれているが、差出人の名前が書かれていない。

 手紙の中に書かれているかも知れないというのがあった。

 それに、小包の中身に関する内容も書かれているかも知れない。




 『 青部秀一郎様へ


 突然、お手紙を送らせていただいたことをお詫び申し上げます。


 名乗り遅れましたこと、申し訳ありませんでした。

 金獅子のギルドリーダー、シャクナゲと申します。


 早速ですが、本題に入ろうと思います。


 明日お会いするという話でしたが、内部のいざこざが原因で、おもてなしをすることができなくなりました。


 いつもならもっと騒ぎが起きる前に気づくのですが、今回は、それが遅れてしまい、対応に追われています。


 この手紙も、信頼できる従者に頼み、出してもらうことができました。


 この一件が片付きましたら、また連絡させていただきますので、それまでお待ちいただけますよう、よろしくお願いいたします。


    追伸


 ロータスとネメシアは元気にお過ごしでしょうか?

 いつでも…というわけにはいきませんが、会える機会を作れればと思っています。


 そちらも含めて、お待ちください。


   シャクナゲより』




 会えなくなった……


 その一言で、おれは全てのやる気を無くし、ベッドに倒れ込んだ。


 仲間内で争うようなギルドにした張本人が、内部の問題で会えなくなりました。外部の人間と会うって時に何やってんだ?


 呆れと怒りが同時におれを襲った。


 そして、何も助けてやれない、何もできない自分の無力さを呪い、おれは目を閉じた。

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