第7話: 彼女の宣告

「あなたたちを、このギルドから追放します。

 今後二度と私の前に現れないと誓いなさい」


 私たちがシャクナゲから告げられた宣告は、思ってもないことだった。


「あなたたちがこのままこのギルドにいることは、反発の火種になりかねません。

 なのであれば、先にこの場から立ち去らせ、そうならないように手を打ってしまえばいい。と私は考えます」


 ギルドからこうもあっさりと抜けられるとは、思ってもいなかった。


 確かに、シャガがいた頃は、自立すると言う志を持った人が、たくさんいて、小さないざこざが絶えなかった。

彼の意見に賛同し、時には過激になる支援者もいた。


 私たちがそうしていたわけではないが、自立しようとしていることを知られている人には、応援されている。


「ただ、一つだけ条件がある。

 あなたたちはそのままの名前で新しいギルドを作ると、他のメンバーに勘付かれる可能性が高い。

 そこであなたたちには、一度死んでもらいたい」


 シャクナゲが提案した条件に、私たちはひどく困惑した。

 私たちに一回死んでもらいたい?

 死んでしまったらここで終わりなのではないのか?

 隣を見ると、カースも同じような顔をしていた。


「別に文字通り死んでもらうと言うことではない。

 ただ、今の名前を捨てて欲しいと言うことだ。

 今あなたたちは、ロータスとネメシアという名前を持っているな。

 その名前を捨て、新しい名前で活動して欲しいというだけだ」


 私、ネメシアは、この日この時から、トレランスと名乗るようになった。

 それと同じように、彼、ロータスも、その名を捨て、カースと名乗った。


 こうして、ネメシアとロータスをいう名前の人物は、狩の最中に殺されたことにされ、新たに、トレランスとカースという人物が、生まれた。


 そして、その二人は、新しいギルド「黒薔薇の楽園」を作り、こうして今、一人の男をスカウトし、活動を始めた。


◆◆◆◆


 話を聞き終えたおれは、その壮絶な物語に、言葉を失った。

 おれが言うのもおこがましいが、たかが20ちょいの人生の中で詰め込んでいい内容には深すぎる。


 そんな理不尽で人間味のある人物がこの世にいて、有名ギルドのリーダーだということに驚いたことにまず一つ。

 そのギルドが、ランクBの超大物ギルドだったということに一つ。

 そして、カースとトレランスという目の前にいる二人の人物は、一度名を捨てて作られていることに一つだ。


「そんなの、急に言われてもわかんねぇよ…わかんねぇことだらけだしよぉ…」


 困惑して声にならない言葉で呟くおれの発音を、トレランスは聞き取ってくれたらしい。

 おれの髪をそっと撫でて言う。


「急にこんな話をしてしまってごめんなさいね。

 けど、これから行動をともにする人として、このことは知ってもらいたかったの。

 これは私の独断。カースにこのことを伝えることは全く言ってなかったわ」


 その言葉に答えたのは、おれではなく、話題にされたカースだった。


「あぁ、正直この話をするとは思ってもなかったから驚いたぜ。

 この話は、秀一郎にするにはまだ早いと思っていたからあえて話してなかったんだけどな。

 まぁ、この話で俺たちの素性がバレたことは仕方ねぇが、話す時はちょっとは相談してくれよぉ。

 それに俺たちが一度死んだ人間だってこと公言して俺らシャクナゲに殺されねぇか?」


 よほどシャクナゲという女性が怖いのだろう。

 おれは直接会っていないが、今回の話を聞くかぎり、そこまで悪い人には聞こえないように思えた。

 だからこそ、おれは彼女と一回会ってみたいと思った。


「おれ、そのシャクナゲっていう人に会ってみようかな。

 もちろん、ギルドにはここに入るけど、今の話を聞いててどんな人かこの目で確かめたいし」


 ただ自分の目で確かめたいだけなのだ。

 彼女の本心はどこにあったのか。

 人を逃すことにやけに協力的だった理由はなんなのか。

 それがおれは知りたくなったのだ。


 おれの言葉に、カースとトレランスはひどく動揺したようだった。


「それはやめておくことをおすすめするわ。

 あなたが彼女に会うには、早すぎるもの。

 あの人はとても危険な人なのよ。

 せっかくスカウトしたあなたをそんな危険なところへは行かせてあげられないわ」


「トレランスの言うとおりだ。

 俺も、彼女の元へ紹介してあげられない。

 そうでなくとも、俺らはあの場所へは近づけない。

 死んでいることになっているからな。

 死んだはずの人間がのこのこと出てきたら、シャクナゲのやり方が、他のメンバーにばれちまう。

 俺は恩を仇で返すような真似はしたくない」


 彼らの意思は固いようで、あまり合わせてもらえる雰囲気ではない。

 それでもと俺が何回も頼み込んだ結果、おれ一人だけで数分の間ならと言う条件付きで、彼女と合わせてもらえることになった。


 早速シャクナゲへ宛てた手紙を書き(もちろん、カースとトレランスの名義で伝わり安いようにしてもらったが)、数日後、会う約束をした。

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