第6話: 一人の男

 私はふと、ある一人の友人の顔を思い浮かべる。

 彼の名は、シャガ。

 私よりも若く、とても活気にあふれた若者だった。


「いつかこのギルドを出て、新しいギルドで成功させてみせる」


 と言うのが、彼の口癖だった。


 そんな彼を慕うものは多く、狩に出ている時の指揮をとっていた。

 彼の指示で動けば、誰も死者を出さずに、生還することができたことも、慕われる理由の一つだっただろう。


 シャクナゲは、シャガの仕事ぶりに満足していたが、やがて、本当のギルドリーダーは、シャガなのではないかと言う噂が流れ始めると、だんだんと、彼へのあたりは強くなっていった。


 最初の頃は、水を浴びせたり、彼女の靴を舐めさせたりとまだ生やさしいものだったが、今のこのメンバーでは太刀打ちできないような依頼に少数で向かわせたり、トラップだらけの場所へと誘導し、暗殺を目論んだりと、嫌がらせは次第に過激なものへとなっていった。


 しまいには、シャガ一人で討伐任務に行かせるなど、無理難題をふっかけるようにまでなっていた。


 彼を慕う人たちは、何回もシャクナゲに抗議をしようとしたが、その度に、シャガは、


「大丈夫だから。心配しなくていいよ。

 いつか俺の方から、彼女に言っておくから。

 君たちは何もしなくていいんだよ」


 と言って、おどけて笑って見せた。

 その度に、私を含むシャガを慕う人たちは、シャクナゲへの怒りを鎮めることができていた。


 しかし、そんな日常は突如終わりを迎えることとなる。


 度重なる嫌がらせに対し、全く動じることのないシャガに腹を立てたシャクナゲは彼を直接呼び出したのだ。


「絶対行かない方がいいよ」

「罠に決まってる」

「代わりに俺が出るからゆっくりしていてくれよ」


 次々とシャガを守ろうとする人たちが彼の元に集まったが、彼は


「大丈夫大丈夫。何も心配することはないよ。

 ちょっとお褒めの言葉をもらってくるだけだからさ」


 そう言って断る彼を、私たちはただ、黙ってその背中を見つめることしかできなかった。


 そして、その日から彼は変わってしまった。


 シャクナゲのいうとおりに従う姿勢を見せ、彼女に服従している姿に、次第に彼を慕うものは少なくなっていった。


 私は彼が変わってしまっても、彼を慕い続けていたが、ある日から、彼の姿はプッツリと見えなくなってしまっていた。


 彼を探そうとしても、どこにもいない。見つからないのだ。


 彼を、シャガを見ていないかギルドメンバーに聞いて回るが、それらしい情報は手に入らない。


 探せど探せど彼を見つけることはできず、私は次第に、彼を忘れていった。

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