第4話: 黒薔薇の楽園

 おれはカースと一緒に、ギルドの本拠地へと向かった。


 本拠地とは言ったものの、ついた場所はボロアパートだった。

 名を、月影荘という。

 ギルドを新しく作り登録するだけでも、相当なお金がかかる。

 そうなってくると、自分たちの住居にまで回せる分のお金がなかったのだろうと、容易に想像できる。


「ここが黒薔薇の楽園カリス・ロータスの本拠地だ。ゆっくりしていってほしい」


 カースに案内された部屋の中に入ると、そこには質素な作りでありながらも、しっかりと手入れされた部屋が待っていた。


「おーい、トレランスはいるか?」


 おれの後にカースが部屋へ入ると、奥から女性の声が聞こえてきた。


「はいはいいますよーっと……え?

 その子誰?まさか、私の知らない所で隠し子……!?」


 カースと一緒に入ってきたおれのことを、彼の隠し子だと勘違いされたらしい。

 おれはすぐに薄いピンク髪をしたトレランスと呼ばれた女性に、間違いを訂正しようとするが、しかし、先に行動をしたのは彼女だった。


「ロー…カース!!…あなたって人は!!」


 今にも襲いかかってきそうな勢いでカースを睨め付けるトレランスにおれは何もいうことができず、体がこわばってしまう。


「今日という今日は、許しませんからねっ、しっかりと説明し…いでっ!!!!」


 急にカースとの距離を詰めてきたかと思いきや、痛がっているのはトレランスだった。必死に足の小指を押さえている。

 おそらく、どこかの角にぶつけたのだろう。

 痛みを堪えてうずくまっているトレランスに、カースがぶっきらぼうに言い放つ。


「だから、言ってあっただろう?今日新しいギルドメンバーをスカウトするって。

 こいつは酒場で話題になってた青木秀一郎。剣士だよ。

 ったく、すぐ人を殴ろうとするくせに結局どっかしらでドジ踏むんだから。

 はぁ、あんたの悪運には脱帽するよ」


 呆れたように首を振るカースの視線の先には、


「えへへ」


 と力なく笑みを浮かべるトレランスの顔があった。

 その隙にと、おれは改めて名前を名乗る。


「紹介に上がった、青部秀一郎です。今日から世話になる」


 おれの名を直接聞くと、やっと彼女は納得したようだ。


「なんだぁびっくりした。もう紹介されてるだろうけど、私はトレランスよ。

 じゃあこれからよろしくね〜。

 それと、カースは色々と面倒ごとに巻き込まれがちだから、そうなる前に止めてくれると助かるわ」


 そう言ったトレランスは無邪気な子供のように、ぺろっと舌を出した。


「さて、私たちのことをちょろっと話すとしますかね。

 カースは自分のことあんま話したがらないから、説明もしていないんでしょう?」


 さっきまでの雰囲気をガラッと変えたトレランスが正座をした。

 おれもその雰囲気に呑まれ、その場に正座する。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。その話をするのはまだ早くないか?」


 止めようとするカースを、トレランスが睨みつけた。


「ほらカース!!あなたもそこに座りなさい!!」


 こうして、仕方なく座ったカースと共に、トレランスによる過去語りが始まった。

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