第3話: 変化の訪れ

「おい、起きろこのねぼすけ」


 眠りを誰かに妨害された。

 明日もまた狩をしなきゃいけないって時に誰だ?

 うざってぇな。シカトするか。


 おれは寝返りを打ち、今聞こえてきた声を、聞かなかったことにする。


「いい加減起きようなぁ?お坊ちゃん」


 おれが起きていることを悟ったのか、声の主は乱暴にベッドを揺すってくる。


「あぁもううぜえな!!」


 しつこく絡んでくる声の主に対して、おれは起き上がりざまに拳を突き上げた。


「ってぇな。ま、それで起きたならいっか」


 声のした方向を見ると、そこには一人の青年が立っていた。

 見た目は20代前半くらいの黒髪の男だった。


「誰だてめぇ……おれの寝床に土足で上がり込みやがって!!なんのつもりだ?」


 その青年は、今し方殴られた箇所をさすりながら、もう片方の腕でおれを指差した。


「青部秀一郎、お前を、俺のギルドにスカウトしにきた」


 この男は何を言っているのだ?おれをスカウト?


「何の話だ?冷やかしなら帰ってくれ」


 スカウトなど、初めから力のある奴らだけがされることを許される行為だ。

 まだ刀を、青葉丸を手にしたばかりのおれが受けていい行為じゃない。

 ギルドにも入れない、実力不足の人を狙う悪質な奴らに違いない。

 そう決めつけたおれは、またベッドに向かった。話をしている時間さえ無駄だ。


「おれは寝る。てめぇ、今度は邪魔すんじゃねえぞ」


 そう吐き捨てて、男のいる前で寝た。


◆◆◆◆


 目が冷め、周りを見渡すと、いつもと同じ景色の中に、一つだけ、変化があった。


「よう、お目覚めかい?言われた通り邪魔はしてねぇぜ」


 昨日の夜に睡眠を邪魔した男が床に座っていた。

 その男はおれが起きたことに気づくと、愛想良さそうに話しかけてきた。


「おれが起きるまでずっとそこにいたのか?ご苦労なこって」


 正直、もう話したいとも思ってはいないが、彼の執念深さに、とりあえず話を聞こうという気にもなった。

 もちろん、昨晩は無理矢理起こされて、気が立っていて、ろくに話を聞いていなかったのもあっただろうが…


「機嫌が治ったようで何より。

 さて、昨日も言ったが、俺はお前を、青部秀一郎を黒薔薇の楽園カリス・ロータスへとスカウトをしにきた。

 このギルドは立ち上げたばかりでな、人員が足りない。

 そこで、新人冒険者の中から、選ぼうという話になり、こうして今、お前を見つけたというわけだ」


 新ギルド…ということは、ギルドランクは最低のFだろう。

 ただ、初めから上のランクのギルドに入ることは、実質不可能、実績を踏まない限りは入れないということになっている。

 どのみち、低ランクのギルドから始まるのなら、確実に入れる場所にしがみつくしかない。


「状況はわかった。ただ、おれの素性だけ知られているってのも、気に食わねえ。

 てめえの情報も聞かせやがれ。

 これからギルドメンバーとして、世話になるんだからよ」


 どんなに胡散臭くても、ギルドに入れるという話なら、乗らない手はない。

 手持ちの金もそこまでない今、騙されたとしても、大した痛手にもならないだろう、という思いもあった。

 おれが肯定的な姿勢を見せると、男は満足げに頷いた。


「これは悪かったな。俺はカース。黒薔薇の楽園カリス・ロータスのギルドリーダー。

 ギルドの人数はお前を入れたとして3人。

 ギルドランクはお前も予想しているかもしれないが当然Fだ」


 カースと名乗った男の他に、もう一人、ギルドメンバーがいることにまず驚いた。


「もう一人のギルドメンバーの名は、トレランス。

 昔は彼女と一緒に結構有名なギルドに所属していたが、意見の対立があってな。

 二人で独立することにしたんだ。ただし、編成が偏っていてな。

 俺は武闘家だし、彼女は魔術師だ。

 これで言えることはまず人が少ないという点だが、ただ人が多いだけでは、お互いがお互いの邪魔をしかねない。

  そこでまずは、前衛を固めようと思ってな。

 なるべく彼女には安全にいてもらいたい。

 前衛を固めれば、後ろのサポートもやりやすくなる。

 そこで剣士を探していたんだが、1日で100ガルほど集める奴がいると酒場で聞いてな。

 ベージュは争奪戦になるから、金を稼ぐのは難しい。

 自分が食っていく分で精一杯だ。

 そんななか、お前は自分の分も用意しながらも利益を出す。

 そんな逸材がいるのであれば、ぜひ迎えないわけにはいけない。

 彼女と相談して、今日、お前に話しかけにきたというわけだ」


 確かに、ベージュで生計を立てているおれは、新人冒険者の中では異常だろう。

 何せ、ベージュをほぼ毎日欠かさず、酒場で換金しているのだから。

 そう言った意味で、おれはうまく立ち回っているといえるだろう。

 まさか、それが酒場の中で話題になっているとは思いもしなかったが……


「さて、改めてよろしくな。秀一郎」


 おれとカースは固い握手をし、ここに今、一つのギルドに、新たな仲間が加わった。

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