【番外編②】それからのこと…たっちゃんと直哉さん・ときどき速見先輩②

【香緒里サイト】


?「直哉の行方を探して欲しいのです…」


ある日、国見達也探偵事務所を訪ねてきたのは…あたしの元旦那である直哉さんのお姉さんだった。



「相続の件があるので、いなくなった直哉を探して欲しいんです。出来れば…一度は戻って来るよう説得して欲しい…」


…という田仲のお姉さんからの依頼は、実は頂戴した時点で半分終わっていたりする。

あたしの今の夫のたっちゃん(職業探偵)がライフワークとして既に失踪状態だった直哉さんの行方を探し出していたから。


…ただ、今までこちらからなかなか会いに行けなかったのは、こちらの業が深いのと、もう一つ…


達也「田仲のやつ、内縁の奥さんがいるみたいなんだよな…」


…それは…尚更会えないよ…



かたや「裏切って不倫した張本人」

かたや「寝取った張本人」

かたや「夫婦別居を主導した張本人」


かたや…なんにもしなかった人?


とある日の国見達也探偵事務所。

あたしたちは、三月さん・速見先輩に来て貰っていた。



達也「…と、言うことで、本件については三月さんが行くのは確定なんですけど、だけって訳にもいかないですよね」

三月「……いや、そもそも俺はお前の探偵事務所の所員じゃないよね」


と言う一見しごく当たり前に思われそうな三月さんの抗議はその場の全員から無言で封殺された。

だって、後のメンバーは、ターゲットに対する業があまりに深くて…


一緒に来ていた優くんと三里亜ちゃん(あの日あたしの病室で「みっちゃん」と呼ばれていた、とても綺麗な女の子)が飽きてきてしまったので、その日は結論が出ないままお開きとなった。



…夢を見ていた。あれは…そう、直哉さんとの結婚式。速見先輩が自分のことのように泣き笑いをしていて…たっちゃんも自分のことのように祝福してくれて…二次会では三月さんがギターの弾き語りを披露してくれた。


大学三年時の半年間、私は屑の彼氏の巨根セックスに墜とされた。快楽から離れられなくなるまで犯された。

「お前は俺の道具だ」が彼の口癖。

呼び出されては当然のように中出し。

半年で二度の堕胎は…私の生殖機能を完全に破壊した。


その後、屑彼氏の薬物逮捕で解放された私。

…でも、自分にはもう結婚の資格なんか無いと思っていた。

それを同じ大学出身で噂を知らないはずの無い直哉さんが…あっさりと覆してくれたんだ。


幸せだった。

こんな日々がいつまでも続けば良いと思っていた。


…思い出した。そんな日々を跡形もなく壊したのは…私なんだ!



達也「ん~、香緒里、おはよう~」


私はいつものようにたっちゃんの腕の中で目覚めた。

アラフォーとはいえ、私たちはまだまだ新婚気分が抜けていない。


達也「泣いてるの?何か変な夢でも見た?」


たっちゃんの優しい言葉に、再び泣きそうになりながら、私はたっちゃんの胸にすりすりする。


「夢でたっちゃんがゴキブリの群れに食べられそうになってた~」

達也「お前、俺になんか恨みでもあるの!?」

「私が、バシバシ退治した~感謝して~」

達也「お前、現実じゃゴキなんか触れられない…あ~ありがとうございました~痛い痛い痛いってば!!」


涙隠しに、たっちゃんの乳首に歯を立てて…たっちゃんがアワアワしたふりをしながら笑いかけて来るのを感じながら…私は決断した。



達也「反対だ!」

沙織「絶対反対!!」

三月「…信用無いのね…俺(涙)」


もう一度、三月さんたちにも集まって貰って…私はみんなに伝えた…離婚の際にうつ病で伝えられなかった謝罪と感謝の気持ちを直哉さんに伝えに行きたいことを。

…そうしたらこれである。

同行するのが三月さんなのが不味かった。


ん~私たちは信用が無い。


三月「いや!香緒里ちゃん抱かないよ!本当だよ!」

「私もごめん被ります。三月さん…私のそば2m以内には近づかないでください!」

三月「あっ!そ~言うこと言っちゃうんだ」


「…三月さん…そう言う態度だから信用が無くなるのでは…」


三月さん、ふざけないでください!

あなたの下半身は…本当に信用が置けないんですから。


三月「真面目な話…香緒里ちゃんが行くなら達也が付き添うべきだろう?」

達也「俺もそうは思うんですけどね、万一田仲と修羅場になった場合、止めてくれる人がいないんですよ」


三月「……」

沙織「あの~良いかな…じゃ、じゃあさ…」


…結局四人で行くことになった。


【三月サイト】


「田仲か?」

直哉「!三月さんですか!?ご無沙汰しています」


田仲へのアプローチ…

はじめは俺が一人で行くことにした。


偶然を装って田仲に接触して…連絡先を交換して…俺たちは喫茶店で相対した。


田仲の新しいパートナーが、伊香保の小ぢんまりとした温泉宿の女将さんなことは、達也の調査でだいぶ前から分かっていた。


明るくハキハキとした若女将さん。

先代の女将さん親子と婿養子の旦那さんと仲睦まじくやっていたらしい。


普通なら田仲との接点なんて無さそうだったが、数年前に不慮の事故で、若女将さんは旦那さんと先代の御両親を同時に失ったらしい。


その時、既存の予約のお客様だけはおもてなしをしよう(女将さんは宿を畳もうとしていた)と頑張っていた女将さんの最後のお客様の中に、離婚後地元の会社を退職して傷心旅行中の田仲がいたらしい。


「元気か?だいぶ痩せて精悍になったな」

直哉「まあ、宿屋の仕事なんて肉体労働が中心ですからね!三月さんは老けましたね」

「まじ!?結構若く見えるって、会社の女の子たちには言われるんだけど」

直哉「ええ、30歳くらいには見えるようになりましたよ、童顔の三月さんも」

「なんじゃそりゃ(笑)」


直哉「三月さんが会社の女の子に若く見られて鼻を伸ばしている話は、速見先輩に言ったら楽しそうですね(笑)」


「!!おま!!」



直哉「そうですか…姉さんが」

「ああ…どこかで会えたら伝えて欲しいと言われていた。連絡してやってくれ」

直哉「不義理をしちゃったな。分かりました、連絡します。ちょっとすぐにはこちらから会いにはいけないけど、慰労を兼ねてうちの温泉宿に招待してみますよ」


ここまでが、達也の仕事の義理事、ここからはプライベートだ。


「その温泉宿の慰労って、俺らも行って良いの?もちろんお金払うけど」

直哉「勿論!!優くん入れて三名様お待ちしております」

「今は家族四人なんだけど…」

直哉「ああ!速見先輩にもう一人お子様が!おめでとうございます!」

「い…いや…沙織は産んでないんだけど…」

直哉「…へ?」

「………」

直哉「み…三月さん!?」

「い…いや…まあ、それはおいおい…それよりもさ」

直哉「?」


「達也たちも…行って良いか?」

直哉「……」



直哉「…三月さん」

「ん?」

直哉「香緒里の病状はその後…」


「ああ!そこからだよな。彼女のうつ病は完治したよ!達也が最後まで頑張ってな…今は達也と暮らしているよ」

直哉「そうですか…」


安堵の表情に少しだけ複雑な…今の田仲の素の感情なのだろう。


直哉「きっと…達也が必死に三月さんを探したんでしょうね…」

「どうしてそう思う?」

直哉「俺も達也も…三月さんに会わせるしか香緒里を回復させる方法は無いって思ってたから…」


「田仲…それは違う。達也は…それは最初はそう考えていたかも知れないが、途中からは自分が背負うと決めていた。俺たちが香緒里ちゃんに再び関わったのは本当に偶然で…たまたま優の遠足が香緒里ちゃんの入院先に被ったからだが…その時は達也の努力で香緒里ちゃんはほとんど回復していたんだ」



直哉「…そっかあ」



直哉「あいつ香緒里を俺の元に戻しに来たとき、最初は香緒里と身体の関係が出来たことを言わなかったんですよね。」

「……」

直哉「卑怯だなあと思いましたよ。正直思ったんです…中途半端な達也と香緒里がこのまま苦しめば良いって。でも今は…二人が落ち着いてくれたことを知って嬉しいです」

「…それは今の奥さんのおかげかな?」


そうかもしれませんねと田仲が笑う。


直哉「なんか色々頑張っちゃう奴なんですよ彼女。何でどうして?って思うんですけどね。ありとあらゆることに後悔したくないんですって、上手くいってもいかなくても」

「…そっか」


直哉「三月さん、最初の問い『達也たちは』って言うのはですね…面と向かって来られると彼女が達也や香緒里に何を言うかわからないので…やめておきましょう」

「愛されてるじゃん!お前」

直哉「俺も頑張りましたから」


「…そっか…でもさ」


俺はことさら…ニヤリと笑った。


「俺たちがお客でたまたま行く分には…止められないよな」

直哉「うわ~そうきますか…まあ、そうですね…仕方ない。その時は赤の他人のお客様として、精一杯おもてなしいたしますよ!」


田仲は…相変わらずしょうがない人だなあ…という苦笑で俺を見て笑っていたんだ。



【達也サイト】


三月「…と、言うことだから、香緒里ちゃんも達也も沙織も…田仲に会うなら今回は田仲への謝罪とか感謝は無しだ」


香緒里「……」


三月「ここでそれを強行するのは、俺たちの自己満足だよ。香緒里ちゃん悪いな…」

香緒里「…うん…そっかあ…」

「香緒里…大丈夫か?」


香緒里「…うん…分かってる…安堵もしているんだ…そんな人が直哉さんの近くにいてくれるんだって思ったらね…」


俺たちは香緒里の心の整理を…待った。


沙織「あ~もう、分かった。私はそれで良いよパパ」

三月「…え?」

達也「…へ?」


突然の横から納得発言!


沙織「…何よ」


ここは香緒里の心の整理待ちじゃないの?

こ…この人は本当、自分勝手…


香緒里「…はい、私も…今の気持ちを抱えて生きていくのも贖罪なのだと思います。受け入れて行きます」

「…香緒里」

香緒里「大丈夫だよ、たっちゃん。私は大丈夫!」


抱きしめたい…三月さんたちがいなければ!


三月「…で、どうする?田仲は…お客としてはお前たちを受け入れる覚悟は決めていたけど」

「そうですね…俺としては田仲の今の姿を見ておきたいですね」

香緒里「私は…その女将さんに会ってみたい…」


沙織「そっか~、じゃここでお別れだね。頑張って~」

「え?」

香緒里「え?」

三月「…いや、達也の依頼は果たしたし…俺たちはここまでで良いかなと」


ちょっと待って!!


「待って!待って!ここで俺たち見捨てるのは無責任~」

三月・沙織「「…は?」」


香緒里「と、までは言いませんが付き合ってくださいよ~」

「宿代は経費で落としますから~」

三月・沙織「え~~」


ここで二人に逃げられたら…どのツラ下げて行けばよいのか…

渋る二人に優くん三里亜ちゃんの宿代まで提案して…何とか同行をお願い出来たんだ。

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